第59話
「ねぇ、みてみてこの飾り」
「うわ、何この気持ち悪い顔」
文化祭準備も今日で最後。もう来年までこの慌ただしく廊下や買い出しなどすることがなくなるとなると何だか少し寂しいような。
「なんだ裕也?急に黙って」
「いや、なんでもないよ。じゃあ、僕は待ち合わせをしているので」
「ふぅーん」
「そっか、そっか」
「……じゃあ」
僕は麗華先輩が待っているところに向かう。
「ほんとに、なんで付き合っていないんだかね」
「ほんとにね」
僕は後ろからぼそっと聞こえてくる声を無視して、早めに足を動かしこの場を抜け出す。
そうして、歩いていきいつもとは違う場所に着く。
ドアを開けると少し肌寒い。
「すいません、待たせちゃって」
「大丈夫だよ。私が早くきすぎただけだし」
「それで、どうして今日はここで待ち合わせなんですか」
「デートしたいから?」
「?」
場所は屋上。段々と冬に近づいていることを感じさせる冷たい風が肌を刺し、冷たい。
その手をそっと、麗華先輩の温かい手が包む。
「文化祭準備の最終日だしね。明日からはお客さんやらいろんな人が来ちゃうし一緒に回りたいなって」
「そうですね、でももうあとちょっとで学校でなきゃいけないんじゃ」
生徒がいて良いのは八時まで、今はもう七時半を過ぎたころだった。
「裕也君。ちょっと悪い子になっちゃおっか」
麗華先輩が、ふふっと下手くそに小悪魔のよういたずらっぽくほほ笑む。
「……そうですね。元から悪い子かもしれませんしね」
「ひどいよー」
先輩が握ってくれた手を取り、歩き出す。
「先輩、劇の方はどうなんですか?」
「それは、裕也君の目で確かめて欲しいかな」
先輩が勝気な顔をする。多分、完璧なんだろうな。
「わたしはそれより、裕也君の接客が気になるなぁ」
「じゃあ、それも当日まで取っておいてください」
「はーい♪」
クラスの人たちが練習台になってくれたから、接客の方は自信をもって大丈夫と言える。
「わぁ、裕也君。あれ見て」
「ステンドグラスですか」
「今年から、三年生は作るってことになったらしいよ」
意外とステンドグラスって簡単に作れるらしいし、何よりとってもきれいだ。
「あ、みてみて。あれ」
「なんですか、あれ」
「こんな顔してるよ」
先輩が手を使って、顔をゆがめて似せようとしているのだが、
「先輩、ぷぷっ。顏がすごいことになってます」
「あ、.....うぅー。恥ずかしい」
先輩が、恥ずかしがってうぅーっと顔を手で隠してしまった。
こんな仕草一つとっても可愛いと思えてしまう。
「ほら、先輩。先生たちに見つかると危ないので他のところもさっと見てきちゃいましょう」
「うん、そうだね」
先輩が気合をいれ、恥ずかしさを消して指を絡める。
明日はもっと、楽しめるといいな。
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