第58話
お祭りは、準備しているときが一番楽しいというけれど、僕はそんなことないと思う。
だって.....
「なんで、僕は着せ替え人形にされているんですか」
「大峰君が何着せても似合うから」
「答えになってないと思うんですよね」
「まぁまあ」
とまぁここ一時間くらいこんな感じなのである。
「裕也君!何を着てもかっこいいね!」
「なんで、麗華先輩がここにいるんですか」
褒められて悪い気はしませんけど。
「裕也君が、いろんな服を着るとなると見に行きたくなるよね」
「……」
どうやって、その情報を仕入れたんだろうか。
「そしたら、良い感じに演劇が区切りがつくよね」
なんだろう。すごい都合がいいというか絶対麗華先輩が間に合うようにどうにかした感じがする。
「そしたら裕也君の事を見に行くしかないよね!」
「……はぁ。でもどうやってこんなにいろんな服を?」
燕尾服やら、今時ファッションやら、はたまた関係のない着ぐるみまで。
「演劇部に借りてきたんだよ」
「……そうですか」
その情熱を、小物作りとかの作業に集中してほしい。
時間は、夕陽が沈んだ六時頃。文化祭の作業をするために放課後みんなで頑張って進めているのだが。何故だか、夏樹に無理やり使っていない教室に連行されそこで待っていた演劇部や被服部やらに捕まって今に至るというわけだ。
「うーん、やっぱり私は燕尾服姿かな。裕也君、スタイル良いしかっこいいから」
「写真は撮らせませんからね」
「えぇー」
先輩がありありと不満をにじませほっぺを膨らませている。
僕としてはそういう姿をカメラに収めていたいんだけどさ。
「当日まで取っておいてください」
「…!うん♪」
先輩はスマホをしまい、何を想像しているのか顔をだらしなくにへーっとさせていた。
「もう、youーたち付き合っちゃいなよ」
「うるさいぞ、夏樹」
少し軽めに夏樹を小突いて黙らせる。
「先輩も、そろそろ戻った方がいいんじゃないですか?」
「まだというか、今日はもう大丈夫だけど。……裕也君は私と一緒にいたくないの?」
「あーちょっと待ってください。泣かないで」
先輩が目をうるうるさせていたので、慌ててハンカチを出しそっと拭う。
「裕也君のそういう優しいところが大好き」
「……はい」
僕もです。って言えたらいいのに
「私、裕也君に構って欲しいだけなのかもね。ごめんね、めんどくさくて。裕也君が相手だとこんな風になっちゃうんだ」
「……大丈夫ですよ。そういうところ、かわ」
ぃぃ、と思います。だめだ。好きだって意識してから、余計に言えなくなってきている。以前に、麗華先輩を止めようと思ったときに言ったときはあったけど、こう、日常で可愛いとかきれいだとか……だめだ、言えない。
「え?なに?もう一回言って」
「すいません。何でもないです」
「ちょっと待って裕也君。すっごい気になる」
前のめりになった先輩から、ふわっと甘い匂いがする。こんなことでさえ緊張を言うか、興奮というか……。
「……じゃあ、さっさと終わらせちゃいましょうか」
「裕也くーん」
先輩を適当にあしらいつつ、文化祭の準備は進んでいった。
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