第57話
昇降口を抜け、少し歩調を速める。
もう10月に差し掛かったせいなのか外は夕暮れに染まっていた。
校門のそばで待っている先輩を見つける。
少し風が吹き、乱れてしまった髪を手櫛で直しそっと耳に掛ける。夕陽に照らされながらのその仕草は、ドラマのワンシーンなんじゃないかというほど、きれいだった。
こんなこと前にもあったような気がする。先輩と会って結構時間が過ぎていることを実感させる。
ぼーっとその姿を眺めていると、こっちに気付き先輩はニコッと先輩が笑い手を振ってくる。
「すいません、遅れました」
「いいよ、大丈夫。それより行こう?」
こっちをちらっと見て、微笑む。
「はい」
二人で並び、すっかり馴染んでしまった手を繋ぐこと、指の温かさを感じて今更ながら少しドキッとしてしまう。
「先輩、文化祭で何をするんですか?」
「それがね、なんだか私が劇で白雪姫の役をやらなくちゃいけなくなっちゃって」
「へぇー。いいじゃないですか。先輩がやるところ見てみたいです」
「……ふりだとしても私キスされちゃうんだよ?」
「……それは、嫌かもしれません。本当に実際にはしないんですよね?」
自分でも分かるほど、苦い顔をしているのが分かる。
そんな姿を見て麗華先輩が、嬉しそうに笑って
「実際ににはしないよ。ふふ。裕也君が少しでも嫉妬してくれるならやってよかったかも」
「……それは、毎日一緒にいる身としては嫌だなぁ、って思いますよ」
今日は昔の事を思い出したせいかなんだか、するっと言葉が出てこない。
「あぁ、もう。裕也君は可愛い。可愛すぎるよ」
「ちょっと、先輩。歩きにくいです」
「あと、ちょっとだから頑張って」
「先輩も一緒に頑張って歩いてください」
「はーい」
そんなこんなで家につき、先輩にちょっかいをかけられつつもご飯を作って食べ、ようやくゆっくりできた。
「ところで、裕也君のクラスはどんな事するの?」
「喫茶店をすることになりました」
「え!?それって裕也君の燕尾服姿が見えるってことだよね?」
「燕尾服を着るかどうかは分かりませんが、接客はしますよ」
「ぜぇぇたいに行くから!待っててね」
「そんなに期待されても困りますけど、精一杯接客しますよ」
「うん!」
良かった。嫌な顔されたらどうしようかと少しだけ引っかかっていたけど、喜んでくれたから。
「文化祭が俄然楽しみになってきたよ」
「そうですか。僕も麗華先輩の演劇楽しみにしています」
「舞台から、裕也君にアピールするからね」
「それは、少し恥ずかしいので。……少しだけならいいですけど」
「可愛いな。裕也君は」
文化祭、今年は本当に楽しくなりそうだな。
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