第54話

私はそっと顔を上げ裕也君の方を見る。



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「麗華先輩」

「.....うん」


僕は麗華先輩の顔を、目をしっかり見る。


その表情は、自分でも分かるくらい優しい顔をしている。


「僕は、麗華先輩のが悪いなんて思いません」

「……。黙っていたのに?裕也君に迷惑かけるかもしれないのに近づいて告白したのに?」

「はい」


僕はゆっくりと言葉を紡ぐ。自分自身に言い聞かせるように。そっと。


「先輩、僕は『恋』って制御できないものなんだと思います。自分勝手でわがままだと思うんです。」

「.....」

「その思いが強ければ強いほどに。僕が偏差値をかなり上げて、必死に頑張ってこの学校に入学したのも、『恋』のせいというかおかげですし、先輩が黙っていたこと。僕に告白してしまったのも、思いが溢れたからだと思うんです」

「……」

「それに、僕は後悔なんてしていません。例え、先輩が助言してくれたとしても、僕は聞き入れなかったと思います。先輩が僕をあきらめなかったように」

「……」

「だから、先輩。謝らないでください」


結果論になってしまうかもしれない。でも……。


「僕は今がとっても楽しいです。これからも楽しいことがたくさんあると思います」


この状況でまだ、『好きだ』と告白できない自分が情けなくて苦笑してしまう。


でも、これだけは言わなきゃ。


「僕は、先輩に会えてよかったです」


これ以上なく満面の笑みだったと思う。


「……ゆぅ、やくん。ゆうやくん。裕也君!」


先輩が勢いよく抱き着いてくる。


泣いている先輩は少し、子供の様で。でも、それでいいんだと思う。


僕は先輩の頭をゆっくりと撫でて、先輩を落ち着かせる。


少しは返せたかな。




「えへへぇ。裕也君」

「ちょっと、今包丁持ってますから。危ないですから」


あれから少し経ち、麗華先輩が「もう大丈夫。ありがとう」と言って、それからいつものように僕の家に来たわけだけど。


「あのさ、麗華先輩。一旦落ち着こう。ね?」

「うん。えへへ」

「分かってない……」


先輩がずっとこんな感じなのだ。もうなに言ってもこんな感じで。


「先輩、料理作り終わったらいくらでもしていいですし、僕のできる範囲なら何でもしますので」


流石に料理したまま、これから火も使うのに流石に危ない。


「やった♪」

「これは聞こえるんですね.....」

「うーんと、えーと」


先輩が指を折って数えだす。その顔はとっても楽しそうで。


やっぱり先輩は笑顔のほうがいいな。


「ん?どうしたの裕也君?」

「何でもないですよ」


自然と頬が緩んでいたらしい。「そっか」といって、またうーんと悩んでいる先輩を見る。


先輩。待っていてくれませんか。



もう少し。あと一歩ですから。


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