第42話

「君、私たちと一緒に花火見ない?」


瞬間息がつまる。


心臓の鼓動が早い。頭がまっしろになりどうしようもなくなる。

深呼吸、


ふぅー。はぁー。


......。君?......もしかしてこいつ僕って気付いていないのか?

そもそも気付いてたら声かけないか。


じゃあ、適当にあしらって麗華先輩のところに戻った方がいい。


僕は至って冷静に、感情を押し殺し、震えそうになる声を我慢して言葉を紡ぐ。


「すいません、待っている人がいるので」

「えー、彼女?」

「…そんな感じです」


......こいつ、彼氏いるっていっていなかったか?

......そのあたりは、あとから落ち着いて考えよう。今考えても答えは出ないのは明白だ。


「すいません、待たせちゃっているので」

「うーん、分かった。じゃあ、またね」


一華は手を振ってくるが僕は構わず走って公園に向かう。

今、自分の中でいろんな感情が渦巻いているのが分かる。


怒り、恐怖、etc....それを振り払うように走る。走る。どんどん速くなっていく。

やがて、公園のベンチが見え、麗華先輩が見える。


「....ふぅ。はぁ。麗華先輩、ごめんなさい。後でかき氷買ってくるので、今は少し時間をください」

「大丈夫だけど、裕也君こそ大丈夫?」


先輩は僕の顔を心配そうにのぞき込む。


「…少しダメかもしれません。」


僕は弱っているからなのか素直に答えてしまう。


「何かあったんだよね?」

「......はい」


麗華先輩も知っていることだし、言ってもいいよな。


「…一華に会って声をかけられました。ただ、それだけです。それだけなんですけど......」

「......」

「僕、頭真っ白になってしまって、どうしていいのか分からなくなって」

「…うん」

「今更なんだよ、って思ったり、怖くて、つらくて、むしゃくしゃしてどうしようもない感情が渦巻いて、もういっぱいいっぱいで」

「うん」


先輩はそっと僕を抱きしめ、感情だけで喋っている僕をすべて受け止めてくれる。

ゆっくり、丁寧に頭を優しく撫でられ、心までも溶かされているみたいで。


あーこれだ、この感じ。すごく安心する。


「ごめんなさい...。やりきれない気持ちでいっぱいで」

「いいよ。つらかったよね」

「…はい」

「私は、裕也君の気持ちが全部分かってあげられるわけじゃない。けどね、一緒に悩んだり、苦しんだり、話を聞いてあげたりすることはできるから」

「......はぃ」

「ほんとは全部分かってあげたいんだけどね」


先輩はふふっと笑いながら、ゆっくり頭を撫でてくれる。


そのまま、僕は先輩に体を預けて、気持ちを吐露し続けた。




「すいません、先輩。みっともない姿をさらしてしまって」


それから数十分だろうか、いや一時間?分からないけど時間が経った。もう花火は始まってしまって今も、遠くで花火が光っている。


幸い人も少なく、いるのはおじいちゃんとかだけだ。


「いいよ。甘えてくれる裕也君可愛かったから。......きれいだね」

「......そうですね」


目をそらせなかった。麗華先輩から。


はぁ......もう自分に嘘はつけないな。


今まで目をそらし続けていたけど。


分かっていたんだ。けど、そうじゃない。嘘だ、って思っていた。思いたかったんだ


だけど、もう真面目に向き合わないとだよな。


僕は新たに決意を固めた。













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