第39話

「じゃあ、また来ますね」

「うん。あと、麗華ちゃんもまたいらっしゃい」

「はい。ありがとうございます」


僕たちは、喫茶店で一時間くらい過ごし店を出る。


「とってもおいしかったなー」

「それは良かったです」

「次は何処に連れて行ってくれるのかなー」


麗華先輩は嬉しそうに笑い、とっても楽しそうだ。


「そうですね。また着いてからのお楽しみです」

「ふふっ。楽しみだなー」


過度な期待されても困るけど、ここらへんで思い付く場所といえばあとは昔、行っていた場所くらいかな。


適当に雑談しながら十分くらい歩き、目的の場所に着く。


「ここですね」

「ここって、裕也君が昔遊んでいたところとか?」

「そうですね。この公園ぐらいしか遊ぶ場所がなかったので」


僕は、昔よく行っていた公園に来ていた。


うわぁ。懐かしい。


「ふふっ。また裕也君の事が知れた」

「僕のことなんて知っても何もないですよ」

「そんな事無いよっ!私にとっては大切なの!」

「分かりました。分かりましたから」


先輩が少し怒った顔で、詰め寄る。


「ほら。あそこにベンチがありますから座りましょう」

「うん」


そうして僕たちはベンチに座り、ゆっくりとした時間を過ごす。


「裕也君も昔は、あんな風に無邪気に遊んでたんだね。はぁ。小さいころの裕也君の事を見てみたいなー」


麗華先輩が遊具で遊ぶ、小学生くらいの子を見てそういう。


「昨日、母さんと一緒にアルバム見てたじゃないですか」


昨日、母さんと一緒にずっとアルバムを見ていた。


僕は、なんだか気恥ずかしかったので、そそくさと部屋に戻ったけど。


「確かに見たけど、生で見たいの!それでぎゅーってしたいなって」

「いつもしてるじゃないですか」

「確かにそうだけど、って違うよ。今の裕也君が嫌なわけじゃないから」

「そんな事言ってないですけど」

「むしろね…」

「ん?」

「大好きだから」


そう耳元で囁き、先輩は軽く頬にキスをしてくる。


「ちょ、麗華先輩」

「ごめんね。やめようと思ったんだけど抑えられなくて。嫌だった.......?」


先輩が不安顔でこっちを覗きこんでくる。


「いや、別に嫌じゃないですけど.......」

「良かったぁ。ここで嫌って言われたら一日、いや一週間くらい寝込む自信があったから」

「そんな自信あったなら言わないでくださいよ…。」

「そうだけど…。さっき言ったけど、最近裕也君に対する気持ちが抑えきれなくなってて、勝手にしちゃうの」

「えっと…ごめんなさい?」

「なんで謝るの?」


その…なんて返せばいいのか分からなかったからです。


「とにかくね、抑えきれなくなってるから、だから、だからね」

「は、はい」


麗華先輩が僕の唇をそっとなぞり


「私がここ奪っちゃう前に裕也君から奪ってね?」

「っ.......。えっと、その…」

「じゃあ、帰ろっか。もうお昼だしね」

「麗華先輩」


先輩は僕の顔を見られないようにまっすぐ前を向いて少し赤い頬を隠したが見えていた。


......。


僕はそっと先輩の手を取り


「そういうのは付き合うときか、付き合ってからです。それまでは奪わせませんから…。あくまで付き合ったらですけど」

「え?あ、ちょっと」


僕は先輩の手を引いて家に帰る。

自分の頬が赤いのを感じないように。

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