第38話

「じゃあ、母さんたち出かけてくるから、若い二人で仲良くしててねー」

「分かった」

「分かりました」


起きてからご飯を食べて、母さんたちはどこかに出かけるらしい。


.......。無駄な気遣いしなくていいのに。僕たち付き合っているわけじゃないのに。


「あんまり大きい声出しちゃダメよ。するならお隣にばれないようにしなさい」

「しない!僕たちそういう関係じゃない!それに、うち一軒家だから聞こえないでしょ」

「私は何をとは言ってないんだけどね…」

「小学生か!.......はぁもうさっさと行くなら行って」

「はーい」

「裕也」

「ん?なに父さん」

「ちゃんとつけろよ」

「さっさとどこかに行けー!」


はぁなんで親にこんなこと言われなきゃならないんだろう。


「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「お義母さん、お義父さん、行ってらっしゃい」

「行ってきます」


そうして母さんたちはやっと出ていく。


はぁ、疲れた。


くい、っクイ。


袖を引っ張られ麗華先輩が背伸びをして耳で囁く。


「私は.......いつでもいいから。優しくしてね」

「っっつ」

「でもね.......そういうのは付き合ってから」


麗華先輩はふふっと笑ってリビングのほうに行ってしまう。

.......だからしないって言っているのに。


.......。ふぅ。気持ちを切り替えてお皿洗いでもするか。


そうしてリビングに戻ると麗華先輩がお皿洗い先にしてしまっていた。


「いいですよ、僕がやります」

「私がやります。家にお邪魔させてもらっていますし」

「.......じゃあ、一緒にしませんか」

「え?い、いいの」

「別にいいですけど。新婚さんでも何でもないですから」

「うん。ありがと」


そうして一緒に皿洗いをして、休憩する。


今は...九時三十分。


僕も麗華先輩も学校の課題は終わっているし、あとは復習だけ。


...そうだ。


「麗華先輩、少し外に行きませんか」

「うん!…ふふ。うれしい。裕也君から誘ってもらって」

「そですか」

「うん。そだよ」


麗華先輩は女子なので何かあるんだろう、部屋に戻っていろいろしているらしい。


そうして三十分くらいして先輩が来た。


「ごめん、遅くなっちゃって」

「大丈夫ですよ。急に行こうって言ったの僕ですし。あとその髪型似合っていて可愛いですよ」

「ふふ、えへへ。ありがと」


確か、ポニーテールっていうんだっけ。僕はあまりそういう知識ないから分からないけど。


僕たちは家を出てゆっくりのんびり進む。


「それで、今日は何処に行くの?」

「それは、着いてからのお楽しみです」

「うん。どこに連れて行ってくれるのかなぁー」


先輩は僕の手を取り、ルンルンっと効果音がでそうなくらい嬉しそうな、楽しそうな顔をしてくれる。


「でも、あんまり期待しないでください」

「そんなに、心配しなくても大丈夫だよ」

「…なんでですか」

「私は裕也君が連れて行ってくれるところならどこでも楽しいし、ドキドキするから」

「そうですか」


そうして五分くらい歩き、お店に行き木造のドアを開ける。


「いらっしゃいませ…。もしかして裕也かい」

「久しぶりです。最澄さん」


そうして最澄さんはのにこやかに笑う。最澄さんはここのマスターで年齢を感じさせないほど若々しい男性だ。


この喫茶店は僕が昔からよく使わさてもらっている店だ。

受験の時のストレスとか、不満とかをよく最澄さんに聞いてもらっていた。


「お久しぶり、裕也。.......そちらのかわいい子は?裕也の彼女かい?」

「は、初めまして。私は咲月麗華です。裕也君とお付き合いをさせてもらっています」

「してません」

「ははっ。仲が良くていいじゃないか。それで、そこの席でいいかな」

「はい」

「注文が決まったらよんでくれ」

「分かりました」


ここのお店は、静かで落ち着いているし、味は美味しいし、僕はこのお店が大好きだ。


それにしても.......。


「なんで隣にすわるんですか」

「隣に座りたいから。.......だめ?」

「.......いいですけど」


はぁ。しょうがないか。こうなった先輩を止められないし。


「裕也君、ここのお店よく来てたの?」

「はい、昔から来ていて、受験の時とかお世話になったんです」

「じゃあ、このお店には感謝だね」

「ん?何でですか?」

「裕也君を合格させてくれたんだから」

「っ。…注文は決まりました?」

「うん」


そうして僕はブレンド、麗華先輩はブレンドとショートケーキを注文した。


ふぅ。この香り。落ち着くぅ。


「んー。このケーキおいしい」

「良かったです。喜んでもらええて」


先輩が嬉しそうに笑ってくれて一安心だ。


「裕也君、あーん」

「え?いいですよ。先輩が食べてください」

「裕也君にも食べて欲しいなー」

「僕、食べたことありますし」

「うぅー。そんなに私にあーんされたくないの」

「っ。先輩卑怯ですよ。.......分かりました」

「ふふ、やった。はい、あーん」

「ん」


じんわりと生クリームの甘さが広がり、ふわふわのスポンジがそれを受け止めちょうどいい甘さになる。


「ふふ、裕也君、裕也君」

「なんですか?」


先輩が少し頬を赤らめ、もじもじしながら


「間接キスしちゃったね。私たち」

「っっっ。ちょ」

「照れてる裕也君可愛い」


そう言って麗華先輩は頭を撫でてくる。


「.......麗華先輩も赤くなっていますよ」

「だって嬉しいしでも、少し恥ずかしかった」


僕もお返しで頭を撫でる。


「ふふ、裕也君くすぐったいよ」

「仕返しです」

「でも、気持ちいいからもう少しこのまま」

「.......そですか」

「うん」


そうして少しの間頭を撫で続けた。








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