第33話

「先輩、そろそろ、プールに入りませんか?」

「それもそうだね」

「だから離れてください」

「今日は絶対離れない」


そういって、先輩はギューッと抱き着いてくる。


「さっきみたいになるのはイヤなので、入るときくらいは離れてくださいね?」

「......分かった。けど、できるだけ離れたくないから、ウォータースライダーに一緒に乗ろ?」

「…いいですけど」

「うん!」


そういって、つないでいる手をブランブランさせ楽しそうに笑う。


そうして、すごく長い階段を上り、スタート地点に着く。


「どっちが下になりますか?」

「私!」

「分かりました」


あれ?いつも抱き着いてくるからてっきり、私がするっていうかと思ったんだけど。


「やった!裕也君に抱きしめてもらえる」

「麗華せんぱーい、声に出てます」

「え?嘘。裕也君に抱きしめてもらう事ってあまりないから、うれしくて」

「そですか」

「そです」


先輩はにこにこ笑い、腕を広げる。


「流石に正面から抱き着いては滑れませんよ!?」

「じゃあ、帰ったらして?」

「......今ならお願い事言えば叶えてくれるって思ってます?」

「ぜ、全然思ってないよ」

「はぁ......」


「あのーできれば早く......」

「あ、すいません」

「ごめんなさい」


ごたついていたら、後ろの人に迷惑をかけていた。


何故か、後ろの男性陣から、険しい目つきというか殺意を向けられた。


違うんです、別に僕と先輩は付き合っている訳じゃないんです。


「じゃあ、麗華先輩早くそこに座ってください」

「うん!」


後ろからそっと、抱きしめ滑り始め、


「あの......ね?裕也君」

「なんですか」

「今日はありがと。とってもかっこよかったよ、大好き」

「......」

「あ、終わっちゃう」

「麗華先輩」

「ん?」

「先輩もきれいで、可愛いと思いますよ」

「え?」


改めて言うと、なんか気恥ずかしくて声が小さくなってしまったからか、先輩が聞き返してくる。


「何でもありません。もう終わりますよ」

「え?あ、うん」


そうして、勢いよく飛び込む。




それから、プールに入ったり、ゆっくりしたり麗華先輩が急にメドレーし始めたりと、いろいろあったが、とても楽しかった。




「あの、裕也君」

「ん?何ですか先輩」

「あの、ウォータースライダーを滑っているときなんて言ったの?」

「え?あーー。その」


電車が揺れる。僕は先輩の方から僕の顔が見えないように先輩の耳に顔を近づけ


「あれです、きれいで可愛いと思います」

「......うぅー」


うぅー。改めて言うと、めっちゃ恥ずかしくて、体が熱くなるのを感じる。


でも、僕以上に麗華先輩が頬を染め、僕の手をぎゅっと握ってくる。


何でだろ?いつもはこんな反応じゃないのに。僕がいつも以上にまじめに言ったからかな?


そうして、見送るまで先輩はずっと頬を赤く染め、僕に顔を見せてくれなかった。






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