第32話

「じゃあ、麗華先輩、そこに座っていて下さい。僕、飲み物買ってくるので」

「......もうちょっとここにいて」

「分かりました」


先輩が頬を染めながら僕の手を少し強く握って俯きそんなことを言ってくる。

それから、ぼーっとプールを眺めながら過ごす。


「先輩、そろそろ...」

「うん…。でも、早く帰ってきてくれると嬉しいかな」

「分かりました。できるだけ早くいってきます」

「うん!」


僕は走って飲み物を買いに行く。


そういえば先輩が何飲みたいか聞くの忘れちゃったなぁ。

いつも先輩何飲んでいたっけ?


確か、昼食中はいつも豆乳を飲んでいたような気がする。でも流石にプールに豆乳はないし、それに麗華先輩に豆乳好きなんですかって聞いたら好きじゃないけど裕也君のためとか言っていたし。


豆乳が僕の何に役立つんだろう…。


炭酸系は飲まなそうだし、無難にお茶でいいか。あ、アイスもあるしそれも買って行こう。


僕は素早く選択し、自分用の水を買い麗華先輩のところに戻るが......。


麗華先輩が誰か知らない男の人と喋っている。誰だろう?学校の人かな?


段々近づくにつれて違うものだと分かった。あれは......ナンパだ。

先輩が首を振って嫌がっているので、かなり相手側はしつこいと思われる。


目を少し離しただけでナンパされるなんて、やっぱり麗華先輩がどれだけきれい人か再認識できた。


それより、助けないと。


「麗華戻ったよー」

「あ、裕也君!裕也君!?」


先輩が顔を真っ赤にして手で顔を覆っている。すいません先輩。あとで謝ります。


「誰だ、お前?」


「この人の彼氏ですけど。僕の彼女に何か用ですか?あ、麗華と知り合いの人ならすみません。後にしてもらえますか。僕たちデート中なので。もしナンパでしつこく食い下がっているというのなら係員でも警備員でも呼んできますので」


僕は若干の皮肉を交え笑顔で応対する。


男は顔を顰めて


「分かったよ、っち」


こっちを睨んで他のところに行った。


「ごめんなさい、麗華先輩。呼び捨てにした挙句彼氏なんて言ってしまい」

「うぅー!もう裕也君反則だよ!」

「ちょ、先輩!?」


勢いよく抱き着いてきたせいで麗華先輩に押し倒される形になってしまい、麗華先輩はそのまま、僕の頬にキスをする。


「大好きな人に名前で呼んでもらって、それに彼女にして貰えて…。うぅー。うぅーー」

「はいはい」


僕は興奮している先輩をあやすように先輩の頭を撫でたり、背中を撫でたりして落ち着かせる。


「落ち着きました?」

「......。もぅ、裕也君のせいだからね」

「ごめんなさい」

「こんな風に優しく抱き留めてくれる、裕也君が悪いし、かっこいい裕也君が悪い」

「え?」


そういって麗華先輩はまた僕の頬にキスをする。


「今は......これだけ。ここは裕也君がして」

「......」


先輩が自分の口を指さしそんなことを言う。


僕はそっと、頬にキスをして


「その時があればですけど」

「もぅ」


買ったアイスはもう溶けてしまった。






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