第31話

「あの、麗華先輩。少しだけ離れてください」

「えー」


水着を着ているからか、いつもよりその......生々しいというかなんというか。だからそのいつもよりさらに意識しちゃうし緊張もする。


「あの、そのー、」

「ん?」


僕はそっと先輩の手を取り、指を絡める。


先輩はポッと顔を赤らめもじもじして、こっちをちらちら見ている。


「やめましょうか?」

「裕也君のいじわる…。そのままでいい。そのままがいい」

「はい」


そうして先輩はぎゅっと手を握ってくる。なんかその…。うん。


「どこ行きましょうか?ここのプールってかなり広いんですね」


プールってこんなに大きかったっけ?小学生の時に家族で来た以来こういうところに来ていない。


それにここはそこそこ人気なのか、結構人が多い。


波が起こるプールやら流れるプールやらいろいろあって正直何処に行っていいか分からない。それにウォータースライダーなんかもある。


「そうだねー。じゃあ、あそこにしよ?」

「そうですね」


麗華先輩が選択したのはオーソドックスな普通の何の変哲もないプールだ。


僕は入水しようと先輩の手を放そうとするけど、なかなか先輩が離してくれない。


「人が多いから手離したくないな」

「入るときくらい離しましょ?」

「や......裕也君がせっかくつないでくれたから」

「......そですか」

「.....うん」


なんかすっごい気まずいというかドキドキするというか。でも離さないと入りにくいし......。


「あっ」

「危ない!」


先輩が誰かにぶつかり足を滑らせる。


僕は先輩の下敷きになりプールに入水する。

水が盛大な音を立てて、遠くから大声で監視の人が注意をしてくる。


運がよかったこと言えば下に人がいなかった事と反応で来たところ。



「そこー!飛び込みはしないこと!」

「すいません。気を付けます」

「次からしないでね!」

「分かりました」

「」

「先輩大丈夫ですか?」


ん?なんか先輩の様子が変?


どこか打ったのか!?


「大丈夫ですか!どこかケガしたなら係員呼んできます」

「大丈夫だよ......。もぅ、裕也君大好き!」

「ちょ、あ、待って」

「待てません。好きぃ。大好きぃ」


先輩は堰を切ったように僕に抱き着きギューっと抱きしめてくる。

そのまま、頬を蒸気させ、顔をこちらに向け、何かを待つようにそっと目を閉じ唇を向ける。


ぼくはそっと先輩の頬に手をおき顔を近づけ......。


「先輩、僕は雰囲気に流されません」


耳元で先輩に囁き、頬を軽く引っ張る。


「もぅ、してくれても良かったのに。でも大好きぃ」


一層強く麗華先輩が抱きしめる。僕はそっと麗華先輩の髪を撫でる。一回、プールを出て休むか。先輩は妙なところで気を遣うときがあるし。


「一回、上がって一応休みましょ?」

「うん、そうだね。ありがと」


先輩はもう躊躇なく僕に抱き着き顔をにやけさせている。さっきから「ふふ、えへへ」と顔をふにゃっとして僕を見つめてくる。


そして僕と目が合うと一層笑みを深めて強く抱きしめる。


ほんとに、今日はなんだかなぁ。










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