第26話

はぁ、はぁ、はぁ。


まずい、まずい、まずい。


僕は全力で道を走り抜ける。


あーもう。何でこんな時に赤信号。


最近、遅い時間に起きているからか寝坊してしまった。

しっかりと目覚ましかけたはずなのになんで落ちて壊れてるんだ。


あと少し。あとちょっと。


先輩は何処にい…あ、いた。


「せ、先輩」


先輩がこちらに振り返り…頬を膨らませて少し目を潤ませていた。


「ほんっとうにごめんなさい」

「ゆーやくん。どういう事?私何かしちゃった?」


先輩が少し不満そうな声を上げ、上目遣いでこっちをのぞき込む

何かしていると言えば普段からしているけど、今回は一方的に僕が悪い


「純粋に寝坊してしまいました。ごめんなさい」

「.....分かりました。でも、まだ許したくないかなぁー」

「仰せのままに」


ここは素直に従おう。全面的に僕が悪いし。


「じゃあー、私と結婚して?」

「ちょ、そ、それはそれだけはダメです」

「冗談です。でも私とっても傷ついたなぁー」

「ほんとにすみません」

「じゃあ、ここで問題です」

「はい。はい?」


ここで?


「私は裕也君に何をして欲しいと思っているでしょう」


「うーん」


麗華先輩が僕にされてうれしい事かぁ。


.....思いついたけど、自分で言うのはなんか、ナルシストっぽくていやだなぁ。


でも、言わなきゃダメだろうな。言わなくて拗ねられたらもっとひどい要求されそうだし。


「て、手を繋ぎたいと.....か?」

「…ふふ。惜しいけど違うよ。正解はそっと抱きしめて欲しいでした」

「そ、それは.....」


僕にとって結構ハードル高いなぁ。


「私、裕也君に嫌われちゃったのかなとか、いろいろ考えちゃっ…」


僕は先輩をそっと抱きしめる。


「ごめんなさい。麗華先輩を不安にさせちゃって。僕は麗華先輩のことは嫌いじゃないです」

「…。うん。でもそこは『好きです』って言って欲しかったなぁ」


先輩は少しとろけたような笑みを見せて僕の胸に顔を預ける。


.....あと、今思ったけど、ここ駅だった。


周りからちらちらとこっちを窺う視線が刺さる。あ、今高校生くらいの女の子が顔を真っ赤にして視線をそらした。


「ねえ、裕也君。どこを見ているのかなぁ?」


先輩から非難の視線が送られる。若干不機嫌そうだ。


「ち、違います。誤解です」

「何が誤解なのかなぁ?」


まずい。誤解を解いてたら解いたらでまた要求されるだろうな。


どうしよう。


.....確か、先輩は頭を撫でられるのが好きだったけ。僕は先輩の頭を様子を見ながら撫でて、機嫌を窺う。


先輩は目を細めてへにゃっとした顔をしたが頭を振ってジト目で見てくる


「なんか裕也君に頭を撫でられてごまかされたような気がする.....」

「そんなことありませんよ。さあ、行きましょう?」

「むー」


先輩は少し不満そうな顔をして、手を取ったけど若干うれしそうに見える。


はぁ。朝からやってしまった。


今日は麗華先輩のいう事聞いてあげよう。














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