第8話

「裕也君この服どうかな?」

「いいと思います」


あれから僕たちは電車に乗り、ショッピングモールに来ていた。


先に映画の座席チケットを買ったが、その映画は人気なのか座席のほとんどが埋まっていて、二人で座れる場所が一番後ろの端っこしか空いていなかった。


そして映画の時間まで結構あるので服を見ているわけだが........


「もう、さっきからそればっかり」

「じゃあ、似合っていると思います」

「本心で言ってますかー?」

「....はい」


先輩は僕より背が少し小さいので、上目使いになる。


結構かわいい。多分これはわざとやっているんだろうな。少しあざといと思った。


「じゃあ、こっちの服とこっちの服どっちがいい?」


一方は少しかわいらしい服、もう一方は大人っぽい服だ。


「先輩に似合っているのは、こっちだと思います」


僕は大人っぽい服を選んだ。


「じゃあ、こっちにします」


先輩はそれを持ってレジに向かう。


こういうのって男が払うべきなんだよね?でも、うーん。

まぁいっか


「先輩、僕が出します」

「大丈夫です」

「でも........」

「私は裕也君から信頼を得たいんです。そういうのは結婚してからにしましょう」

「........そんな事多分ないと思いますけど」


その言葉は嘘か本当なのか分からなかったけど、たぶん本当なんだろうと思う。


真剣な眼差しをしていたあと、屈託のない笑顔で笑っていたから。



映画の上映時間まであと少しになったため、映画館に向かった。


「そういえば、今日見る映画ってどんな映画なんですか?」

「えーと。恋愛もので、主人公が先輩のことを好きになる映画です」

「へ、へー」


深い意味はないはず。

僕と先輩の遠い未来を暗示しているとかそんなことないはず。


「どうしたの?」

「いや、なんでもないです」


そして座席に座りあと少しのところで始まるというところで、先輩がひじ掛けにかけていた手を握ってきた。


「........先輩」

「静かに始まっちゃいますよ」

「…はぁ」

「一番後ろの席でよかったです!真ん中や前だとみんなに見られてしまいますから」


僕は全然よくないです。

そして映画が始まった。



   *         *         *


映画はすごくよかった。


良かったんだけど、先輩が興奮したりすると自分の胸元に俺の手も一緒に近づけるのでドキドキした。



「裕也君、映画良かったね」

「そ、そうですね」


先輩は笑顔でそういう。


ほんとこの人の何処が他人を寄せ付けないんだろうか。


その時だった



「あ、あれって麗華さんじゃない?」

「あ、麗華さーん」


映画を見ていたのだろう同じ学校の人が先輩に近づいてくる。

片方はさわやかイケメンで、もう片方は人懐っこい笑みを浮かべる童顔のイケメンだ


「麗華さんもこの映画見てたんだ」

「よかったよねー」


「…そうですね」


「麗華さんも俺たちと一緒に遊ばない?」


「いえ、結構です。私は裕也君と来ていますし、あなたたちと遊びたくありません」



え?


すごく先輩が塩対応なんですけど。目がうっとうしそうな眼をしている。



なるほど合点がいった。これが他人を寄せ付けない雰囲気なのか。



「うーん。じゃあしょうがないか。また学校で」


「ええ。」



これが学校での麗華先輩なのか。


本当に何でこんな僕を好きなんだろう。


「先輩。断ってよかったんですか。僕と一緒より楽しいはずですよ」

「いいの。私は裕也君以外の人に興味がないし。それとも行ってほしかった........?」

「い、いえ。そう言うことではないです」

「ならよかった」


安堵の表情を見せる。


僕も結構ちょろいな。あんなことがあったのに。



ダメダメ。まだ信用してはいけない。



それからいろんなお店を周って帰りになった。



「裕也君。今日は楽しかった」

「…僕もです」

「ふふ。ならよかった」



正直今日は僕も楽しかった。


僕が先輩のことを疑っていなければもっと楽しめたと思う。


「じゃあ、またね」

「はい」


先輩が見えなくなるまで、見送る。


ふぅ。僕も帰ろう。


今日はいろんな先輩が見れた気がする。


笑顔な先輩、少しあざとい先輩…


あーダメダメ


まだ信用しちゃいけない。


完全に信じ切れるまでは。


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