第46話 まずはクジョウの街を掌握しよう

第46話~まずはクジョウの街を掌握しよう~


「ここまでが今俺達が掴んだ情報だ」


『この短時間でどうやってそれらの情報を掴んだのかは聞かないことにしておきます。聞いたら後悔しそうだ』


「それが賢明だろうな」


 俺は今、マリオット公爵と通信魔石を用いて通信を行っていた。


 通信魔石とは簡単に言えば携帯のようなもので、対になる魔石を持つ者同士での遠距離通話を可能にする。


 もちろん地球でのスマホのように通話以外の機能などあるわけもなく、加えて対になるもの同士でしか通話は出来ないので多人数への発信は不可能だ。


 それでも科学の発展していないこの世界では通信魔石の価値は計り知れない。陸路による手紙でのやり取りが基本となっている世界なのだから、いかにこの通信魔石が重宝されているかということは、容易に想像できるというものだ。


『あなた方はこれからどうしますか?正直、ここまでの情報があれば東部や西部地方に協力を求めることは可能です。これ以上は危険もさらに強まるでしょうから、私としては撤退を推奨しますが』


「俺達は勝手にやるから心配するなよ。あんたはあんたのやることをすればいい。あくまで俺達の関係はビジネスなんだ。あんたは情報を得て、俺達は報酬を得る。それ以外のことは考えなくていい」


『……、そうですね。わかりました。引きつづき何か情報があれば通信をお願いします。時間などは気にされなくて結構。他の全てにあなた方の通信を優先しますので』


「それはどうも。それじゃあまた連絡する」


『はい、お気をつけて』


 一通りの情報を伝えた俺はマリオット公爵との通信を終える。通信魔石は一応借りものなので収納の中にしまっておいた。


 こうしておけば誰からも奪われる心配もなければ落とす心配もない。スキルとしての用途は物を仕舞うだけという単純なものだが、その効果の重要性は計り知れない。


「それで次の一手はどうするんじゃ?」


 俺が通信を終えたのを見計らい、エリザがそう声をかけて来た。カナデやスルトもこちらを見ているところから見るに、全員これからの方針が知りたいのだろう。


 まだ明るい時間なのに日の届きが悪い廃倉庫の中は暗く、お互いの表情を見るのにも少し苦労をする。


 そんな廃倉庫の隅で膝を抱える影が一つ。


「ぅう……」


 臨時メンバーであるシュライデンだ。どうにも彼はこの数時間の出来事で、ひどく心身にダメージを負ってしまったらしい。


 そのせいか顔色は悪く、先ほどまで嘔吐を繰り返していたほどだ。


『なんだあいつ情けないな。ほんとに領主の息子なのかよ?』


「きっと生温い環境で育ってきたんですよ。金持ちのぼんぼんにありがちなことです」


 散々な言われようだが、この状況においてはそれも仕方がないだろう。


 シュライデンとほぼ対角にある倉庫の角には、先ほどまで尋問していた暗殺者の燃えカス。


 それを視界の隅に捉えたシュライデンはまた何かこみ上げたのか嘔吐を繰り返す。


 結果から言って、俺は暗殺者を殺した。全ての聞きたいことを聞き終えた後、カナデの焼却魔法で燃やしたのだ。


 殺した理由は単純で、暗殺者の男が自ら殺してくれと懇願してきたからだ。


『このまま生きていても殺される。リッチモンド伯爵は自分の内情を少しでも知る者を決して許さない。捉えられ、拷問され、地獄の苦しみを与えられながら殺されるんだ。それならせめて、あんたたちの手で一思いに殺してくれ』


 そう頼まれたのだ。だから殺した。それ以上でも以下でもない。生かして解放しても良かったのだが、本人がそう願ったのだからそうしてやったまでのことだ。


「まずはクジョウを堕とす」


 俺ははっきりとそう明言した。


 暗殺者の男。こいつも結局はリッチモンド伯爵に弱みを握られたエルフの男だったのだ。


 自分で手を汚さず、かつ自身への繋がりはどこにも見せない。用心深い性格。裏を返せば臆病者。


「それがいいじゃろうな」


 エリザもまた俺の意見に同意を示す。俺がクジョウを堕とすと決めた理由。それはこのクジョウの街のトップもまた、くそ野郎だからだ。


 暗殺者の男の所属は実はクジョウの街のトップだった。元締めこそリッチモンド伯爵なのだが、実行犯に命を下すのはクジョウのトップ。


 要はこの街のトップはリッチモンド伯爵の子飼いの犬。それならばそこを逆に利用してしまえばいい。


「今夜中にクジョウのトップに会いに行く。それでいいなシュライデン?」


 おそらく人の死を見て、そして父親の黒い面をさらに知った。精神的ダメージをかなり受けたシュライデンは青白い顔で俺を見る。


「はい。よろしくお願いします」


 それでもはっきりとそう言えるのは、シュライデンという男の強さなのだろう。


 顔色の悪さと対称的に力のこもったシュライデンの瞳に、俺は頷き返しながらそう思うのだった。

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