第45話 楽しい尋問のお時間です

第45話~楽しい尋問のお時間です~


 効率だなんだといろいろ言ったが、早い話が今回行ったのはシュライデンを囮にした釣りだ。


 話からしてシュライデンは父親に狙われている。この国に住む人に取って最大のタブーである、帰らずの平原に入らざるをえないところまで追い込んだのだ。


 どうひいき目に見ても命を絶つ以外の狙いが見えてこない。


 そんなシュライデンがのこのこと北部地方に戻って来たとしたら、リッチモンド伯爵はどう思うか。


 絶対に生きて戻れない場所に入っていったはずなのに、怪我すらなく帰ってきてしまった。しかもなにやら見慣れないやつらと一緒に。


 結果はこれだ。


 多分リッチモンド伯爵は用心深い性格なのだろう。結果論となるが、こうして俺の予想通り問答無用で息子の命を取りに来たのだから。


 疑わしき者に弁解の余地すら与えない。自分にとって不利益になる可能性のあるものは即抹殺する。


 だからこそ俺はそれを利用し釣りをしかけたというわけだ。ここまであからさまだとは思わなかったが、シュライデンが現れれば何かしらのアクションや接触があると考えたのだ。


「それじゃあ、まずは何から聞こうか。名前とか言えるか?所属とかそういうのがあるならなおいいんだけど」


「……」


 クジョウの街、路地をいくつか奥に入った人の寄り付かない廃倉庫。俺達はそこにいた。


 目の前には餌に釣られた馬鹿が椅子に座らされ、後ろ手に縛られたまま威嚇を込めた目でこちらを睨んでいる。


 映画でよく見たシーン。敵に捕らえられた主人公が敵に尋問を受けるというよくあるシーンだ。


「しゃべった方が身のためだと思うぞ?」


「……」


 俺達を襲ったバカ、便宜上暗殺者とでも呼ぶが、はやはり口を開くことはない。映画の主人公ならこちらを罵る言葉のひとつでも吐くものだが、それもないのだからつまらない。


 脱出の機会をうかがっているのだろうか。実際、今暗殺者はただ縛られているという状態でしかない。魔法という物が存在するこの世界において、それだけでは当然だが拘束には力不足なのだ。


「なぁ、話ししようぜ?別に俺はお前を殺そうってわけじゃないんだからさ」


「馬鹿が……」


 俺がそう話しかけた途端、男の拘束が一気に解かれた。腕を縛っていたロープが風に舞っているところを見ると、どうやら風属性の魔法でも使ったのだろう。


 暗殺者の体が自由になる。だが、それまでだった。


「馬鹿はそっちです」


 瞬間、暗殺者の足が燃えた。右足が一本、深青の炎に包まれ、そして瞬く間に焼け落ちていく。


「あっ、がぁ!?」


「次は左手を燃やす。その次は左足、右手。話さないなら話すまで少しずつ燃やしていく。何、心配するな。傷口は塞ぐから死にはしないさ。痛みもある程度は緩和してやるから発狂もしないと思うぞ。さて、お前はどこまで耐えられるかな?」


 燃やすカナデと回復するエリザ。焼却一辺倒のカナデと違い、龍魔法のかくも便利なことか。


 自分でやっていて反吐が出るほど最低な拷問だとは思うが、それほどその行為に忌避感を覚えていない自分がいた。


 あの日、あの永久の森の中できっと、俺の普通の感覚は壊れてしまったのかもしれない。しかしその事実に後悔などないのだから、気にする必要などなにもないのだ。


「あ……あぁ……!?」


「もう一度最初から聞こうか。まずお前の名前はなんだ?それから所属はどこなのか教えてくれるか?」


「ぃ……っ、あ!?」


 恐怖にひきつる暗殺者の顔。もはやその表情に最初に威嚇をしていた勢いなどどこにもない。


 多分この男も、それなりの訓練は積んできていたはずだ。こういった状況への対処方も、自害の仕方も、もちろんその恐怖に打ち勝つ訓練も。


「答えてくれるよな?」


 だけど世の中には逆らうべきではないこともあるのだ。少なくとも、この暗殺者にとってその時は今。


 生殺与奪、すべてを握られたこの男に残された選択肢は多くない。


 しゃべるかしゃべらないか。


 その後どうなるかはわからない。どちらを選択しても死しか待っていないのかもしれない。それでも男は選ばなければならないのだ。


 残りの二人のように、襲い掛かった時に返り討ちに同じように死ねたならどれほど楽だっただろう。


 そう思ってもそれはもはや過去の事。いくらifを並べても、暗殺者にはもうその二択を選ぶしかないのだ。


「お、俺の名前は……」


 暗殺者はこの瞬間、人以下の存在になり下がったのだった。

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