第43話 男の正体
第43話~男の正体~
平原の主はいともあっけなく倒れた。魔物が弱かったと思うべきか、それとも俺達が強くなりすぎたと思うべきか。後者が濃厚な気がするが、それには気づかない振りをしておくことにする。
「まさか……、僕は生きているのか……?」
死を覚悟したはずなのに無傷で生きていて、尚且つ先ほどまで自分を殺そうとしていた元凶が目の前で死んでいる。
事実をなかなか受け入れられないのか、男は目を白黒させながらすでに事切れている巨大亀を眺めている。
「で、お前は誰で、ここでなにしてたんだ?」
この男が何を思っているのかは知らないが、結果的に俺達は男を助けたような形となった。であれば、こいつが何者であるのかを聞く権利くらいはあるはずだ。
「あ、あなた方は……?」
「この亀を殺した本人だよ。結果的にはお前を助けたということにもなる」
「恩を強調しながらも亀より強いという脅しを同時に相手に認識させる。なかなか高等技術じゃな」
『こいつ詐欺師の才能とかもあるんじゃないか?』
いつのものことながら背後がうるさいが、これまたいつものごとく無視をしておいた。
「この魔物を倒した……。はは、やっぱり僕は夢を見ているんだ……」
「現実逃避がうっとうしいですね。燃やします?」
そしてやっぱりカナデが燃やそうとするが、とりあえずそれも止める。
最後にどうするかはその時にならないとわからないが、帰らずの平原とまで呼ばれるこの平原に物好きにも入って来たのだ。
助けることにもなったのだから、とりあえず事情くらいは知っておいてもいいだろうからな。
◇
「この度は窮地を救っていただき誠にありがとうございました。申し遅れましたが私、シュライデン・リッチモンドとい言う者です」
これまたお約束の展開と言われればそれまでなのだが、これからどうにかしようと思っていた敵の関係者にその前に知り合う。どうやら俺の旅路もところどころ王道ファンタジー路線に乗っているのがどうにも気にいらない。
「一応聞いておくが、お前の知り合いにジェイド・リッチモンドとかいないよな」
「ジェイドは私の父です。向こうが今でもそう思っているかは定かではありませんが……」
なぜだろう。お約束が裏切られなかったことにひどく落胆した自分がいた。
さて、シュライデンの話をまとめるとこうだ。
ここ数年、どうにも父、ジェイドの様子がおかしくなった。やたらと好戦的になり、口を開けば戦争のことばかり。
これまで小競り合いこそあるものの、一定の距離感を保っていたキュリオス帝国に攻め込み領土を一部奪うという暴挙に出たり、自分の気にいらない進言をする臣下は即刻処刑した。
ついには国内、他の地方の領主が気に入らないとそれらをつぶし、自分こそが公王にふさわしいと声高に叫ぶようになったのだという。
まるで人が変わったかのようなその様子に、臣下や家族ですらも恐怖し、その方針に従わざるを得なくなった。
しかしそこで奮起したのが息子シュライデン。
このまま父親が北部を統治していては、北部地方どころか国がどうなってしまうかわからない。遅かれ早かれ内部分裂か、もしくはキュリオス帝国の逆鱗に触れて終わる。
この状況をなんとかしなければならないが、かといって自分の力だけではどうにもならない。そこでここ数年で力をつけてきている南部地方のマリオット公爵に助力を求めようと思い、北部地方を出たのだそうだ。
しかしその思惑は父であるジェイドに漏れていた。北部領を出た途端に追手がかかり、少人数とはいえ精鋭を引き連れていたはずのシュライデン一行は散り散りになってしまった。
このままではまずいと一縷の望みにかけてこの帰らずの平原に入ったのだが、案の定追手こそまけたが平原の魔物に蹂躙されてしまったというわけだ。
「もはやこれまでと思ったところでしたが、まさに九死に一生。この御恩は必ず返させていただきたいと思っています」
これで何度目かわからない深々とした礼には目もくれずに俺は考える。
あの魔族の証言で裏はとれていたが、これでますますリッチモンド伯爵の行動はおかしいということが分かった。
いきなり人が変わったような行動をとるということは、その時期に何かがあったはず。環境の大きな変化、性格を変えるほどの事件。もしくは誰かが成り代わっている。
可能性はかくあれど、この場で断定はできない。どちらにせよこのまま北部地方に行き、リッチモンド伯爵について調べなければ始まらないのだ。
「なぁ、シュライデン。お前、追われてるって言ってだけど、それは公にか?それとも秘密裏にか?」
「おそらく秘密裏にかと。いかに暴君と化している父と言え、表立った罪状のない僕を公に手配すれば角が立ちます。それに僕を追って来ていたのは“黒子”でしたし……」
「黒子?」
「ああ、すみません。簡単に言いますと、裏で暗躍する者の総称といいますか。表に出せないような汚い仕事をこなす、リッチモンド家お抱えの暗殺集団のことですよ」
「なるほどな。つまりお前はこのまま北部地方に帰れば間違いなく狙われると、そういうことでいいか?」
「残念ですが、すでに父からは敵として認識されているでしょうから……」
沈んだ顔をするシュライデンだが、これは俺にとっては朗報だ。なにせ北部地方に入ったところで次の手をどうするかはあまり当てがなかったのだ。
だが、このシュライデンとの接触のおかげで、なかったはずの道が出来、しかもだいぶ近道が出来そうになったのだからこれは非常に都合がいい。
「シュライデン、俺達はお前に協力してやってもいい。だが当然だがお前にも協力はしてもらうがどうする?」
「あなた方が僕に協力ですか?」
「ああ。政治的には無理だが、護衛くらいはしてやれる。俺達の強さはさっきのでわかったはずだ」
「いいんですか……?」
「ああ。俺もそんな奴は放っておけないからな。ぜひ協力させてくれ」
そんな俺の言葉をどう受け取ったのか。シュライデンは涙ぐみながらまた俺達に感謝を伝えてくる。
「是非!!是非お願いします!!この国はまだまだこれからなんです!!こんなところで躓いていてはいけないんです!!僕に出来ることは何でもします!!だからお願いします!!僕に力を貸してください!!」
「もちろんだ。何でもとまで言ってくれたんだ。出来る限りの協力をさせてもらう」
はい、言質とった。いやぁ、使命感をもって動いている奴ってのは扱いやすくていい。
心の声が顔に出ないように、俺は努めて真面目な、それでいて相手を労わるような顔を作る。
「絶対何か企んでいるに銀貨一枚」
「それなら儂は五枚じゃ」
『なら私は金貨一枚でいい。あんなどす黒い顔してるやつが碌なこと考えてるわけがない』
背後の声は今回も無視だ。
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