第42話 主と言えども例外には弱い

第42話~主と言えども例外には弱い~


 余談なのだが、俺の持っている槍は現在3本ある。


 一本はシルビアス王国から脱出した際に間に合わせで作った槍。地中の成分から錬金術のスキルで鉄を抽出。鋼鉄製のシンプルな槍となっている。


 もう一本は死骨山脈で作った飛槍のスキルにより、俺自身がそれに乗るための槍だ。自分自身を支えるため持ち手部分は通常よりもだいぶ太く、足を固定できるような細工も施してある。刃の部分はチタン合金で、これは地球でも飛行機の材料にも使用されるほどの丈夫さ、耐腐食性、熱への強さを持っているため、飛槍の使用用途にばっちり適合したのだ。


 欠点として加工の難しさがあげられるが、これは錬金術のスキルの前では無問題。容易に加工ができ、俺の空を飛ぶ手段として非常に役に立っている。


 そして最後の槍なのだが、これはつい最近、ギレー火口の洞窟内で採取した材料で新に作ったものとなる。デザインのイメージはかつて無双と謳われた三国志の雄、呂布が使用したと言われる方天画戟。通常の方天戟と違い、穂先に一対でついている月牙が一方にしかついていないデザインが特徴だ。


 今回新たな槍をこのデザインにしたのは、単に思いついたのがこれしかなかったから。それに呂布が使っていたものというニュアンスだけで非常にかっこいいし、何より強い気がしてならない。


 もちろんデザインだけではなく、使う素材にもこだわっている。ギレー火口の洞窟で手に入れた主な鉱石は保炎石だが、深部ではミスリルが多量に手に入った。さらに炎熱鋼という新素材まで手に入っているのだからこれを使わない手はないのだ。


“検索結果:『炎熱鋼』 火山の奥深く、人が踏み込める場所にこの鉱石が存在することはない。かつて炎の巨人がその絶大な炎を使用した際、極小の確率でミスリルと結合した鉱石。ミスリルよりも魔力伝導率が高く、かつ強度も高い。魔力を込める量により温度状態が変化する。しかし形状が損なわれることはない”


 確かにこれならスルトの器として申し分なかったのも納得だ。もとが自分の魔力なわけだから、親和性も高かったのだろう。


 それにしてもインデックスによる検索結果から考えると、この鉱石の性質は反則だ。いろいろと突っ込みどころはあるが、やはり最後の部分が一番おかしい。


 採取後に実験として炎熱鋼に魔力を込めてみたのだが、ある程度の魔力を込めたところでその温度は余裕で鉄を溶かす温度を超えたのだ。


 鉄の融点はおおよそ1500度。その温度を超えても鉱石の形状は損なわれない。魔力もまだまだ込められる余地はありそうで、温度の伸びしろも相当にありそうだ。


 そんな鉱石を惜しげもなく使用した方天画戟。普通に使っても抜群の切れ味を誇るその槍は、魔力を込めればあっという間に超高温のブレードに早変わり。3本目のこの槍は、相当の強さを秘めたものとなっているのだ。


 余談はこのくらいにして話を戻そう。


 今の状況を端的に言い表すのであれば、無数の隕石が降って来たとでもいうのがいいだろうか。グランド・ロック・タートルによって上空に打ち上げられた様々な鉱石塊が、一斉に俺達めがけて降り注いできたのだ。


 このまま何もしなければ鉱石塊の直撃を受け圧殺されるか、その余波で吹き飛ばされる。どちらにしてもいい気分でないことだけは確かだ。


「お終いだ……」


 助けを求めていた男は、その光景に諦めたのか力なくその場に崩れ落ちた。


 男がどうなろうと知ったことではないが、あの巨大亀は俺達を敵と認識し、攻撃を仕掛けて来た。だとすればこれを無視することなどできるはずはないのだ。


「隕石かなんだか知りませんが、全部燃やせば関係ないんです!!」


 先陣を切ったのはカナデだった。相変わらず燃やすという一辺倒の攻撃だが、今のところその膨大な魔力でもって燃やせなかったものはないのだがからそれはそれでいい。


 今回も吹き荒れる深青の炎が俺達目掛けて降り注ぐ鉱石塊に触れ、瞬く間にそれらを溶解させていく。


「カナデよ。それでは隕石が溶岩に変わったようなものじゃぞ?」


 カナデの焼却魔法で溶けた鉱石塊が今度は溶岩のごとく地表に降り注ごうとするが、今度はそれを見たエリザが動いた。


 突如として巻き起こる風がうねりを上げ降り注ぐ溶岩を一か所に集中させる。先ほどまで無風に近かったこの場所が、今では暴風域真っただ中といった具合だ。


 さらにエリザはそれら全てを絶対零度で凍らせた。風属性と氷属性。他属性を器用に使い分ける龍魔法とは本当に便利なものだ。


『次は私の番だ!!』


 そんな二人の様子を見てうずうずしていたのか、勢いよく飛び出していったのはスルト。無数にあった鉱石か塊は今ではひとつの巨大な氷塊となっているが、一体どうするつもりなのか。


『この体だとこれしか出ないのか。まぁ、この程度の相手なら問題ないな!!』


 スルトの手、というか土偶の手に現れたのは一本の棒のようなもの。土偶の大きさが30センチない程度なので、棒の大きさは10センチにも満たないほどだろう。


『レーヴァテインの力受けてみな!!』


 氷塊に向けて土偶がその棒を振るった。振るったというよりは、土偶が棒を持って突撃したというのが正しいのだが、ともかくその棒が氷塊にあたったのだ。


 その瞬間に爆散する氷塊。しかも指向性を持って爆散した氷塊はその全てがグランド・ロック・タートルに向けて降り注いだ。


「ギィヤァアアアアアアア!?」


 自分で仕掛けた攻撃が訳も分からぬうちに自分に向かって牙を向く。おそらく強者である巨大亀にとって、この事態は衝撃以外の何物でもなかったのだろう。


 氷塊弾による攻撃は甲羅の防御力もあってこらえたようだが、それでも表層の岩石は剥がれ落ち、中層の鉄鉱石にまでいくつもめり込んでいる。


 しかしダメージよりもこの異常事態に衝撃を受けたのか、巨大亀はたたらを踏んだように少し後ずさった。


「戦闘で後ずさるのは悪手だぞ?」


 ひるんだ敵ほど脆いものはない。もし勝てないと悟ったのなら、その時点で即時撤退するべきなのだ。中途半端な行動こそ危険であり、こちらにとっては好機となる。


「龍牙槍」


 亀の眼前に一気に突っ込んだ俺が放ったのは、現状使える技で最も攻撃力が高いスキルだ。


 魔槍召喚によるグングニルの方が攻撃力は高いのだが、どういうわけか今は使用することが出来ない。おそらくだが、あれを使った時、俺は不倶戴天のスキルも一緒に使っていた。発動条件にそう言ったからみがあるのだろう。


 方天画戟の周囲に金色の龍が発生する。同時に魔力も出来うる限り込めたせいか、金色の龍が超高温に変化し赤熱していく。


 龍人に進化したことで龍槍も変化し龍牙槍になった。


 放たれた金色の龍は巨大亀に襲い掛かり、甲羅の中層を一気に突き抜けるとそのまま深層のミスリルをも突き破り体内へ侵入。そのまま侵入した場所の逆側に突き抜けると旋回し、また別の場所から体内を蹂躙していく。


 数秒後、金色の龍が暴れまわった後に残っていたのは、無数の巨大な穴を開けられ絶命したグランド・ロック・タートルの姿だった。

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