第41話 明確な敵意にはそれ相応の対価を
第41話~明確な敵意にはそれ相応の対価を~
“検索結果:対象のステータス
名前:グランド・ロック・タートル
種族:巨獣種
レベル:82
適正魔法:鉱物魔法
スキル:金剛(レベル23) 絶対防御(レベル:28) 鉱物操作(レベル25)
ステータス:攻撃:4289
防御:8763
素早さ:2342
魔法攻撃:1062
魔法防御:7327
魔力:2735
平原などの陸地に生息する古代種。甲羅は絶対的な防御力を誇り、表層の岩石層、中層の鉱石層、深層の魔鉱石層の三層から形成される。この防御を突き破るには並みの攻撃力では不可能”
巨大な岩山もとい、この平原の主であるグランド・ロック。タートルのステータスがこれだ。
見た目の通り、圧倒的な防御力を誇る陸ガメ。甲羅は岩石で囲われているが、どうやらそれはあくまで表層だけのようで、深部にはさらに固い層が控えているというのだから、このカメの防御力が半端ではないということだ。
素早さは見る限り低いようだが、それはあくまでこの亀の全能力的にというだけであって、この世界の常識から考えれば反則的に高いのだ。
「その亀からギリギリとはいえ、逃げているあいつらはなんなんだろうな」
少しは歯ごたえのある相手がいたと、勢い勇んでやってきた俺たちの目には、巨大亀の他にそれから必死に逃げる一人の人影が見えていた。
巨体をゆっくりと動かし踏みつぶそうとしている亀に対して、前後左右に蛇行をしまくりながら走る人影。俺たちがいうのもなんだが、どう考えてもあれは人が出せるスピードではない。
亀の素早さがすでに人の領域から大きく逸脱していることを考えると、あの人影もまたこっちの領域の人間ということなのだろうか。
殲滅しようと近づいたはいいものの、予想外の光景にとりあえず距離をとって状況の確認をしていたのだが、どうやらその人影が俺たちに気が付いたらしい。手を大きく振って、必死にこちらにアピールをしてきている。
「何か叫んでいるようじゃな」
「そうですねー。助けてくださいとか言ってます?」
俺たちを見つけるやいなや、逃げる進路をこっちに変えた人影は、身振り手振りだけじゃなく何やら声も出しているらしい。
「た……す……て!!……が……ます!!」
龍人となって強化された聴力でなんとか聞き取った声。確かに助けてほしいような事を言っている気もする。その証拠にこちらに向けられた表情が、これまた強化された視力で見ると、思い切り懇願しているように見えるのだ。
「どうするんじゃ?」
「うーん。助ける理由はないんだよな」
『私が言うのもあれだけど、身内以外には冷たいよなお前』
スルトはそう言うが、人というのは元来そんなものだ。何が楽しくて、自らの危険を顧みずに誰かを助けるような真似をしなくてはならないのか。見返りがあるというのなら考えるに値する話にもなるが、あの逃げている人影が死んだところで俺にとってはなんの損失にもならない。
ファンタジーというよりも、こういった状況で無償の善意で人助けをするという描写が良く描かれ、それが美談とされよくもてはやされるが、俺としてはそんなものはクソ喰らえとしかいいようがない。
人というのは自分がかわいく、誰かの為に頑張れるようにはできていないのだ。もしそれが出来るような状況があるというのなら、それはよっぽどの報酬が約束されているときか、もしくはその誰かが自分にとって大切な者か以外にはありえない。
危険を顧みずに自分の命をチップにするなんていう愚かな行為は物語だからこそ成立する。現実にはそんなうまい話などはありはしないのだ。
「様子見であれの観察するのがベターだと思うけどどう思う?」
ゆえにあの人影には人柱になってもらい、俺たちに多くの情報を与えてもらうことにしよう。ステータスの上では俺やカナデでよりも弱く、エリザやスルトに関しては圧倒的に格下だ。それでもこの世界の平均から見ればはるかに強い相手。キング・ワイバーンをも優に超えるステータスなのだから、油断はしないに越したことはない。
「私はどちらでも構いませんよ?というか今すぐ燃やしません?」
「堅そうじゃし、凍らせるのもいいかもしれんの」
カナデとエリザは最初から人影になど興味はなく、どうやって倒すかしか気にしてはいないようだ。こうなるとちゃんと理由まで考えた俺の方が馬鹿みたいになってくるが、あの二人に人間的な考え方を要求するのが筋違いなのだろう。幽霊だし、片方龍だし。
『なんだろう。あの人間を哀れに思う私の方がおかしいのかな?あれ、私も魔物側のはずなんだけど、あれ?』
どうやら俺たち四人の中では、スルトが一番人間的な思考を持っているらしい。まぁ、中身も子ども染みたところがあるくらいだから、きっと純粋なのだろう。
『おまっ!?いきなり何すんだ!!』
「コミュニケーションだろ?いちいち突っかかるなよ」
スルトの意外な純粋さを見て思わず撫でてしまったのだが、急な俺の行動に驚いたのか思い切り飛び退くスルト。そんなところも子どもっぽさを余計に引き立たせているのだが、当の本人は気づいていないのだろう。
ますます純粋で可愛いところもあるなと思っているあたり、どうやら俺はスルトに対して親目線なところがあるようだ。
「土偶を愛でる恭介さん……。これは審議ですね!!エリザさんどう思います?」
「土偶の中身は魔物とはいえ子どもみたいなもんじゃからの。セーフ、いや、ある意味アウトかもしれん」
そんな俺とスルトの様子に対して、余計な事を言っている後ろの二人は無視だ無視。俺のスルトへの行為はあくまでも身内、しかも子どもを見る視線なの。そこによこしまな気持などは一切ない。というか見た目土偶だぞ?どこに邪な気持が生まれるというのか。俺は断じてアブノーマルな人間ではないのだ。
『こっちみんなよ……』
「親に対してなんだその口のきき方は」
『誰が親だ!!』
うん、反抗期だな。
和やかな歓談。俺がそんな穏やかさを感じてまったりしているというのに、次第に近づいてくる足音がその空気をぶち壊していく。
「お願いだから助けて!!」
ついでにさっきまではっきりと聞こえなかった声が、ついに一言一句間違えることなく聞こえる距離まで接近を許してしまっていたらしい。仕方ないので視線をそちらに向けると、おそらく男と思われる何者かが息も絶え絶えでこちらに助けを求めていた。
「そんな必死に言われても」
正直助けるつもりがないから動かなかったのだ。スルトの行動に和んでもしまったし、いきなりのスイッチの切り替えは非常に難しい。面倒なので距離を取ろうかと、収納から飛翔用の槍を取り出そうとした時だった。
「ギィアァァアァアアアア!!!」
突如として唸り声をあげる巨大亀。そして何を思ったのか、今まで男を追うことしかしてこなかったはずなのに、急激に魔力を高め始めたのだ。
適正魔法は確か鉱物魔法だったはず。地中からいくつもの岩石、鉄塊、そしてミスリル塊と思われる物が空へと浮き上がっていった。
巨大亀と目があった。明らかな敵意と警戒の視線。どうやら亀の標的はすでに俺たちにシフトしているらしい。それは単純に気まぐれなのか、それとも強者である自分を脅かすかもしれないさらなる強者の気配を感じ取ったからなのか。
どちらにせよ俺たちをターゲットに据えたのなら、先ほどまでのスタンスは変わってくる。
空に打ち上げられた無数の巨大な塊がその場で静止した。次の瞬間にはあれが俺たちめがけて打ち付けられるのだろう。相手はこちらを殺しに来ている。明確な敵意を持ってこちらに害を為そうとしているのだ。
「だったらちゃんと殺さないとな」
降り注ぐ岩石を合図に、俺たちと平原の主との戦闘が始まったのだった。
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