第30話 スルトの本性と土偶
第30話~スルトの本性と土偶~
泣き叫ぶ伝説の魔物というあまりにシュールな光景を目の当たりにして固まる俺。
まさかという思いから煽ったのは俺だが、結果がこのようになるとは予想もしていなかった。
『だってしょうがなかったんだ!!私だって頼まれたから暴れただけなのに、急にこの場所に封印されて眠らされたと思ったら、知らない魔族に起こされて崇拝されるてわけわかんなかったんだ!!それでも封印が溶けるのかと思ってわくわくしてたら、急に現れたお前たちがまた封印を強くしちゃうし、エリザも一緒だし!しかも言いたいことだけ言ってこんな場所に私一人で置いていこうとするし!!お願いだから一人にしないでよ!!私も一緒に連れてけー!!』
もはや最初のしゃべり方はどこへやら。五歳児と言われれば納得しそうなほどに精神退行してしまった伝説の魔物の泣き声。
ちなみに姿かたちは炎の封印の中にあるため先ほどから見えてはいないのだが、声だけ聞いただけでガチ泣きしているのがわかる勢いだ。
「お、おい。泣くなよ」
「泣いてなんかない!!いから私もあんた達と一緒につれていってよ!!」
思わず声をかければ泣き声に混じった切れ気味の返答が返ってくる。
この状況、一体俺はどうしたらいいのだろうか。
スルトの話によれば、かつて地上で暴れて回ったのは誰かに頼まれたからということだ。その後、訳も分からず封印され、目が覚めたら件の魔族により封印が破られようとしていた。理由は分からないが、とにかくここから出られるならと喜んでいたら俺達が来て封印し直してしまった。
支離滅裂なスルトの説明だが、スルト自身が被害者だと考えれば一応の筋は通っている。
「なぁ、さっき頼まれたって言ってたが、誰に地上で暴れるように頼まれたんだ?」
『ぐすっ……、誰って神様本人に決まってるだろ。私だってすき好んで暴れたりなんかしないもん。めんどくさいし』
ところどころにさらに幼児退行している節が見られるがそこは置いておく。突っ込んでたら会話が続かないのは目に見えているからだ。
「理由は聞いたか?」
『詳しくは聞いてないけど、なんか人間が増えすぎたとか言ってたような……。それで一応神様から頼まれたことだし、私魔物だし、頑張ってたら神の使徒を名乗る人間がたくさんやってきてここに封印されて……、ぐすっ……』
説明しながらまた涙ぐむスルト。この話の真偽はともかく、過去に何があったのかが余計にわからなくなってきた。
スルトの話を本当だとするなら、神はスルトに増えすぎた人間を減らすように命じた。ある程度減らしたところで、今度は人間によってスルト自身が封じられてしまったことになる。
世界の抑止力。
強引な理屈にはなるが、こう考えてみればどうだろうか。
過去に増えすぎた人間をなんとかしようと、神がスルトという魔物を作り人間を間引こうとした。しかしスルトが強すぎたため、人間があまりにも減りすぎてしまった。そのため今度は人間側の何人かに特殊な力をつけてスルトに対抗させる。
スルトは長き時を封印されるが、いつしかまた人間が増えた頃に解き放たれ人間を減らす。そしてまた封印される。このリピート。
「その神の使徒ってやつはそんなに強いのか?仮にもお前伝説の魔物だろ?いくら強かろうがそう簡単に人間に遅れを取るのか?」
『私だって必死に戦ったけど、あいつらスキルとは違うなんか別の力を持ってたんだよ。たしか天恵だって言ったかな……?』
「天恵だと!?」
『何急に?そう、天恵。その能力がスキルとは比べ物にならない程で、一人ならともかくそれが何十人もいたらさすがに私も勝てなくて』
情報過多ここに極まれり。もはや今日はこれまでの異世界生活で群を抜いて圧倒的な情報量だ。これはもうこの場だけでは到底処理できない。さっきまでもその状況だったのに、そこに輪をかけて情報が飛び込んできたのだ。
普通こういうものは、時間をかけて少しづつ出てくるものだろうに、どこまでもファンタジーの常識を無視してくる世界である。
「わかった連れて行ってやるよ」
『本当か!?』
「ただしこの封印は解けない。お前の事なんか現状一ミリも信用できないし、何よりその図体で一緒に行動なんかできないからな。その条件をクリアして、尚且つ俺達についてこれるなら連れて行ってやる」
はっきり言って無茶苦茶な条件だが、これが俺がゆずれる最低限のラインでもあった。
スルトの持つ情報は非常に気になるが、そのまま連れてくわけにはいかない。だから別の方法でと言ったのだが、そんなことが出来るのであればとっくにスルト自身がしていたであろう。
不可能と分かっていながらもそう言ったのは、子供のように泣くスルトに少しばかり同情したのもあるのかもしれない。どうやら俺は、泣く子どもに弱いのかもしれなかった。
『それなら連れて行ってくれる?』
「出来るのか?」
『さっきの魔族が封印を弱めている間に、精神を一部切り離しておいたから、何か器のようなものがあれば大丈夫』
そういうと突如として俺の目の前に現れる炎。オレンジ色の暖かな炎が燃え上がり、ゆらゆらと目の前で揺れる様子は、さながら人魂と言ったところだろうか。
『何か器を作って。そしたらそれに憑依できるから』
「器ねぇ」
先ほどまで炎の封印の上の方から聞こえてきていた声が、今は人魂から聞こえてくる。
というかちゃっかり精神の切り離しとかしている辺り、腐っても伝説の魔物と言ったところなのだろう。これはどちらにしても俺の管理下に置いておく方がいいのかもしれない。主に俺の心の平穏のために。
これで放置しようものなら、いつの日か封印が溶けた日に復讐されるフラグにしかならない気がするからな。
「なんでもいいのか?」
『できれば人型のものがいい。人型といってもそんなに精巧な物じゃなくてもいいんだ。頭があって、手足があれば問題ない』
つまり人のパーツが揃ってればいいということか。それならばと俺は周囲に視線を巡らせ目的の物を探す。
“検索結果:周囲の鉱物。当該の部屋の外壁は70%が保炎石、20%が玄武岩、8%がミスリル、2%が炎熱鋼となっています”
聞きなれない鉱物の名前があったが、これだけの材料があれば十分だろう。俺自身、手先が器用ということはなく、工作などは苦手分野だが、錬金術のスキルを使用すれば手先の器用さなど関係ない。
“検索結果:スルトの器。脳内より資料を検索。抽出。最も相応しいと思われるフォルムを形成します。使用する鉱物は保炎石をベースにミスリルを混ぜ、核に炎熱鋼を使用します”
インデックスによる周辺鉱物の選別により、形作られる器の最適解が導き出される。俺はそれに従いスキルを使用するだけ。後は自動でどんどんと作り出されていくのを見守るだけだ。
「これって……」
出来上がった。確かに出来上がったのが、その形に俺は見覚えがあった。
『なかなかいいな。無駄もないし気に入ったぞ』
その見覚えのある器たる人形に、スルトの人魂がするりと入り込んだ。
急激に光る人形という、ある意味心霊現象に近い様子を眺めながら、俺はある単語が脳内に浮かんでいた。
“土偶”
いつかの社会の教科書で見たその姿は、かつて縄文時代につくられたと言われる独特のフォルムが印象に強い。
大きな目と短い手足、幾何学的な模様の入ったその形を見事に模したものが、今目の前にいる。
しかもスルトが中に入ったせいか、目が怪しくオレンジ色に光り、しかもぷかぷかと宙を浮くというおまけつきだ。
これがホラーと言わずに何と言おう。
『すごく気に入ったぞ私!お前なかなかセンスあるじゃないか!!』
「そりゃよかったな……」
いろいろと突っ込みたいことはあったが、もう今日は体力が限界だ。主に精神面のだが。時間と共に増える情報とカオスな状況。これ以上余計な情報が出てくれば、俺のキャパが流石にオーバーしてしまう。
「じゃあ行くぞ。他の奴らはもう行っちまったからな」
『あ、あぁ。これからよろしく頼むぞ!えっと……』
「恭介だ」
『よろしく頼むぞ、恭介!!』
こうして謎の仲間がまた一人増えてしまったのだった。なぜこうなってしまうのか。もはやそのことについて、俺は考えることを放棄するのだった。
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