第28話 伝説の魔物と封印
第28話~伝説の魔物と封印~
「俺の目的は、その封印されている伝説の魔物を復活させることだ」
魔族の男はそう言うと、背後の大きな氷柱を見上げた。今の話からして、おそらくこの氷柱こそが洞窟内部の環境を変えた原因だと思うが、高さにして十数メートルものそれは一体何なのか。
「お前まさか、その伝説の魔物で人間を皆殺しにする気じゃないだろうな!!」
これまでの話を聞いていたグローインがそう叫ぶ。敵対している者同士、相手が大きな戦力を有するというのは気が気ではないだろう。
しかもそれが伝説の魔物ときている。もしそうだとすれば人間側にとって悪夢以外の何物でもない。
「人間などどうでもいい。弱小種族には過剰な戦力だ。そんなものを使わずとも、お前らなどすぐにでも殺せるのだ」
「てめぇ!?」
「そもそも戦いを始めたのはお前ら人間のほうだろう。欲深い種族よ。自身の領土で満足できずに我らの縄張りに侵入したのは人間たちだ。それに反撃をしたとして我らが責められるいわれはない」
なにやらまた新たな事実が出てきたような気がするが、今大事なのはそこじゃない。その伝説の魔物とやらを復活させようとしている魔族。こいつの処遇をどうするかが何よりも大事なのだ。
復活させた魔物で何をしようとしているのか。その魔物を制御などできるのか。
俺がそれを訪ねようとした時、エリザが重々しく口を開く。
「まさかとは思うがお主、炎の巨人を復活させようとしておるわけではなかろうな?」
「なぜお前がそれを知っている?」
「馬鹿のことは辞めておくがいい。あれは、あの巨人はお前が思うようなものではない。復活すれば最後、世界が炎の海に沈むことになるぞ」
エリザのその言葉に誰もが言葉を失う。
確かにエリザならその伝説の魔物とやらを知っていてもおかしくはない。
始祖龍という、こいつこそがまさに伝説の魔物のような存在なのだ。一緒にいるからたまに忘れそうになるが、おそらくエリザもまたこの世界最強の一角。
そのエリザがそこまで言うものが封印されていて、目の前の魔族はそれを復活させようとしているのだ。もはや問答は必要ないのかもしれない。
「エリザ、簡潔に答えろ。その炎の巨人に俺は勝てるか?」
「今のお主では荷が重かろう。ここから成長すればわからぬがな」
「わかった」
「待て!お前何を!?」
男の焦った声が聞こえたが、それに付き合う気はなかった。飛槍によって俺の手から放たれた槍は、魔族の男が抵抗する間もなくその首を一瞬で切断した。
「あ……?」
苦しむことも、そもそも自分のされたことも理解することなく死ねた。そのことだけが魔族の男の幸福な点であっただろう。
“検索結果:謎の氷柱。炎の巨人を封じる結界を凍らせたもの。封印はこの世のものではない炎を使用しており、炎の温度によって封印強度が変化する。温度が高いほど強度が上がり、低下すれば強度は下がる”
「カナデ!最高出力でこの氷を燃やし尽くせ!!」
「あいあいさーですよ!!」
説明はしない。というよりもその時間がない。インデックスの回答から考えれば、この氷柱はもとは炎柱だったということだ。
それを魔族の男が封印を解くために凍らせ、温度を落とした。一体いつからこの作業をしていたのか、どの程度まで温度を下げれば封印は溶けてしまうのか。それすらもわからない状況だが、とにかくやることは一つだ。
迷う必要などない。今すぐにこの氷を溶かして封印をもとに戻さなくてはならないのだ。
「あなたたち一体何を!?」
「いきますよー!!炎獄焼却!!」
アリスの静止の声を無視し、カナデの魔力が解き放たれた。
俺が最後にカナデの最高出力を見たのは死骨山脈の山頂。そこでグレート・ワイバーンを大量に屠った時のことだ。
洞窟の中、しかもその最深部で深青色の炎が縦横無尽に暴れまわる。場違いと言われればそれまでだが、俺にはその暴れまわる青い炎がひどく美しく見えた。
「まったく、その勢いで魔力を解放すれば洞窟内の酸素などすぐに尽きてしまうぞ」
洞窟のような風の通りが非常に弱い場所で、炎を燃やすという行為は自殺行為だ。エリザの言う通り、そこにたまる酸素が一瞬で使いつくされてしまい、すぐに酸欠の空間となってしまうからだ。
俺やカナデ、エリザは問題ないが、グローインとアリスはその空間に耐えられない。それが分かっていながら俺がカナデに氷柱を燃やすように頼んだのは、今すぐにあれをなんとかしなければという思い。もう一つはエリザならなんとかするだとういう信頼からだ。
「うおぉぉぉぉ!っ!?」
「きゃあぁぁっぁっ!?」
二人の悲鳴があがるが、悲鳴が上げられるということは生きていることだ。どうやっているのかは知らないがエリザがうまくやっているのだろう。
俺自身も流石にカナデの炎を浴びればただでは済まないので、部屋の隅に避難し槍を回転させることで炎から身を守る。
時間にして一分もたってはいなかっただろう。しかし体感で感じた時間はそれよりもはるかに長く感じた。
部屋を埋め尽くした青い炎が収まった時には、部屋に残るのは俺達五人の他にあるのはただ一つ。
先ほどまであった氷柱が、どす黒い炎柱に変わったもの。
当然だが、守る物がなかった魔族の死体はすでに燃え尽きている。もしかしたら何かしらの重要な物を持っていたのかもしれないが、優先順位を考えればどうでもいいだろう。
「とりあえずなんとかなったかな」
「そのようじゃな。方法はともかくとして、これで封印が再びもとの役割に戻ったと考えてよいじゃろう」
「それはつまり、カナデさんのお手柄ということでよろしいです?」
「そうだな。カナデのおかげだ」
俺の言葉にはしゃぐカナデ。勢いそのままに抱き着いてくるカナデを、なんとか引きはがそうとする俺達の姿を笑いながら眺めるエリザ。
情報過多過ぎて、考えなければいけないことは多そうだが、とりあえずこれでゴウロン山でおきている問題は解決しただろう。
そう思った時だった。
『人間風情がやってくれたものだな』
腹の底から響くような、そんなこれまでに聞いたどの声よりも恐ろしい声が、洞窟の中に響き割ったのだった。
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