第24話 火山地帯の魔物
第24話~火山地帯の魔物~
山に入って三時間ほど経った頃だろうか。東の空の低いところにあった太陽が頭上近くまで昇って来た頃に、それは突然現れた。
「ボルケーノ・バイソンだと!?なんでこいつがこんなところまで降りてきているんだ!!」
「あなた達下がりなさい!!こんなのが出るなんて聞いてないわ!この依頼はここで中止よ!私達が相手をしている間にあなた達はすぐに山を降りなさい!」
山道の脇から現れた3匹の魔物。
湾曲した二本の角、盛り上がった肩に長く縮れた体毛で覆われた体。地球にいたバイソンとほぼ同一の姿形をした魔物であるが、唯一違う点を挙げるとすれば、その体が赤熱を帯びているということくらいだろうか。
「あれ、強いのか?」
「本来なら火口の洞窟、しかも深部に生息している奴らだよ!!いいから早く逃げろ!俺達でもあいつら相手じゃ勝てるかどうかわからん!!」
グローインがそう叫ぶが、正直なところ俺にはあれが脅威とはとてもじゃないが思えなかったのだ。
“検索結果:『ボルケーノ・バイソン』 種族:猛獣種。バイソンが魔物化したもの。角を武器とした突進を得意とする。トップスピードの突進は巨石をも砕く。主に火山帯、それも高温地帯に好んで生息する。溶岩を取り込んだ体は触れるものを溶解させる。火属性に耐性を持つ。
レベル:22
攻撃:263
防御:221
素早さ:243
魔法攻撃:27
魔法防御:31
魔力:9”
雑魚もいいところだ。物理に特化している面と数値はワイバーンに似ているが、こいつらはワイバーンに比べ圧倒的に劣る。
このボルケーノ・バイソンは空を飛べない。いかにステータスが同じとはいえその差は圧倒的なものとなるのだ。
しかも今の俺達は、ワイバーンと初めて戦った時に比べてステータスがもはや比較にならないほどに上昇してしまっている。これでは脅威になり得るはずもないのだ。
“検索結果:対象のステータス
名前:グローイン・ロイタール
種族:人族
レベル:25
適職:戦斧士
適正魔法:土魔法(レベル3)
スキル:斧術(レベル5) 剛力(レベル4)
ステータス 攻撃:255
防御:289
素早さ:152
魔法攻撃:104
魔法防御:172
魔力:98
名前:アリス・ロイタール
種族:人族
レベル:23
適職:祈祷師
適正魔法:白魔法(レベル4) 光魔法(レベル3)
スキル:慈悲の癒し(レベル6) 弓術(レベル4)
ステータス 攻撃:121
防御:89
素早さ:187
魔法攻撃:271
魔法防御:322
魔力:356“
これが二人のステータスだが、この世界の平均を考えれば弱くなどない。むしろ赤ランクにふさわしい強い能力と言えるはずだ。
だがこれではボルケーノ・バイソンを三体相手するには足りない。一体であれば問題なかったであろうが、自分たちの人数を上回る相手では荷が重すぎるだろう。
本当は今回の依頼、無難にこなしてロイタール夫妻に俺達の強さをばらすつもりはなかった。
別に冒険者として大成したいわけでもないし、何より表立って目立ちたいわけでもない。ただ生活をしていくための金を稼ぐのに、冒険者が都合がよかったというだけ。
だから俺達は、初心者冒険者として無難に依頼をこなし、ランクを上げるだけのつもりだったのだ。見習いにしては少しは強いんじゃないか、という評価くらいで。
「カナデ、全部燃やしていいぞ」
「いいんですか?」
「悪い人たちじゃないからな。見捨てて死なれたら寝覚めが悪い」
「意外じゃな。お主の過去からすれば他人なんて簡単に切り捨てそうなきがしたがの」
エリザの言うことはもっともで、俺だって誰彼構わず助けようというつもりはない。敵は全て排除すると宣言もしたし、何より俺のこれまでの人生から、そう簡単に誰かを信じるなんてことは到底無理なのだ。
それでも出会って一日足らずの相手を、信頼までは行かないとはいえ見捨てずに助けようと思えているのは、きっとカナデのおかげなんだと思う。
カナデがあの時、図々しくも俺の心に侵入してきてくれたから、きっと俺は誰一人信じることが出来なくなるという、最後の一線を越えずに済んだ。
だからこうして誰かを助けようと思うことが出来るのだろう。
「気が向いただけだよ。それにあの二人に死なれたら、俺達の見習い卒業が不意になっちまうかもしれないだろ?」
「ふむ、まぁそれもあるかの。お主がそういうならそうなんじゃろうな」
俺の言葉をどこまで深読みしたのかは知らないが、エリザが訳知り顔で頷く。なんとなくそれ以上余計な分析をされたくなかった俺は顔を背けることを囁かな抵抗としたのだった。
「お前たち何やってんだ!?早く逃げろって言っただろう!!死にたいのか!!」
逃げろと叫んだにも関わらず、後方で何やら話し始めた俺達にグローインが再度怒鳴り声をあげた。
グローインが怒るのも無理はない。勝てる見込みが薄い相手がすでにこちらに気づき、いつ襲ってくるかもわからない状態なのに、逃がそうと決めた新人たちはくっちゃっべって一向にその場を離脱しようとしないのだ。怒鳴るだけで済ませている彼を誉めるべきだと思う。
「グローイン!いいからこっちに集中して!いくら“光彩の恩寵”をかけてるとはいえ、あいつらの突進を受けたら無事じゃすまないわよ!!」
魔物から視線を切り、俺達に目を向けているグローインにアリスが檄を飛ばす。アリスはつがえた弓をボルケーノ・バイソンに向けたまま、その視線を片時も離すことはない。それはきっとわかっているからだろう。もし少しでも集中力を切らしてしまえば、たちどころに目の前の魔物によって自分たちが蹂躙されてしまうであろうことを。
矢をきつく引き絞りながら、アリスは何かを呟く。次の瞬間に溢れる光がアリスとグローインに降り注いだ。
“検索結果:『光彩の恩寵』 光魔法の一つ。一定時間の間光による加護を得る。攻撃と防御のステータスが上昇する。ステータスの上昇率と持続時間は、使用者の光魔法のレベルと魔力に依存する”
つまりアリスは光魔法によりバフをかけたようだ。その状態でもう一度二人のステータスを覗いてみると、なるほど、攻撃と防御が20ずつ上昇していた。
「お願いだから早く逃げて!!そしてこのことをギルドに伝えるの!!こんな異常事態、早く知らせなきゃ大変なことになるわ!!」
悲痛な叫びが山道に響く。
自分達がここまでピンチなのに、しっかりとその後のことを考えることが出来る。やっぱりこの二人はここで死なせるには惜しい人材だ。
「カナデ、殺れ」
「了解です!!焼却!!」
ついにこちらへ向けて突進を開始しようとしていた3匹のボルケーノ・バイソンだったが、その突進も数メートル進んだところで終わりを迎えた。
カナデから放たれた深青の炎が3匹を呑み込み燃やし尽くしたからだ。しかも炎はそこで止まらずに山道を突き進み、わずかばかりに生えていた草木や岩をも燃やし尽くしていった。
普段焼却の範囲を寸文とたがわないカナデにしては珍しいミス。
「おかしいですね?このくらいの力なら3匹を燃やすくらいで済んだはずなんですが?」
「お主もレベルが上がって魔力量とスキルレベルがあがっておるからの。以前よりも威力がけた違いに上がっておるんじゃ。何、カナデならすぐになれるじゃろ」
どうやらカナデは自分の力を把握しきれていなかったようだ。確かに今までよりも魔力は比べ物にならない程増加し、スキルは進化をしている。エリザの言う通り、そのうち慣れるのだろうが、味方を巻き込まないように注意して欲しいものだ。
「「……」」
今の一連のカナデの魔法について、そんな風に考察をしている俺達と対称的に、グローインとアリスの二人は言葉を発することすらできずにただ茫然と目の前の景色を眺めていた。
「なに……いまの……」
「ボルケーノ・バイソンが燃え尽きた……」
「というか道も全部燃えてるわ……」
「きっと夢でも見てるんだろ……」
自分の目で見たはずなのにその現実を受け入れられない二人。お互いの頬を引っ張り合っているその光景は、なかなかにシュールだったが流石に可哀そうになってくる。
二人を落ち着かせるため、俺達はそこで一時休憩をとることにするのであった。
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