第23話 いざギレ―火口へ

第23話~いざギレ―火口へ~


 翌朝、日の出と共に俺達五人はゴウロン山へと入山した。


 麓から眺めていた段階で分かっていたのだが、どうやらゴウロン山は火山としては成層火山にあたるようだった。


 成層火山は同一箇所の火口から噴火を繰り返し、その周囲に溶解岩と火山砕屑岩が積み重なった円錐形に近い山のことだ。


 元の世界の日本に多く、代表的なものは富士山なんかがこれにあたる。


 そして今回の目的地は、この山の頂上の噴火を繰り返すその火口。その付近にある洞窟。常識的に考えればいかに危険な依頼かということが簡単にわかる。


 それでもこの世界ではそれが一定の基準を満たす冒険者にとって、割と当たり前の仕事となっているのは、やはり魔法という存在がなにより大きいのだろう。


「あなた達、耐熱魔法は使えるのよね?」


「心配は無用じゃ。そのくらいなら儂が問題なく使えるでの」


「そう。それならいいのよ。新人さんの中には、それすら知らずに火口に挑もうとするお馬鹿さんもたまにいるの。あなた達なら大丈夫だと思っていたけど一応確認させてもらっただけよ」


「気遣ってもらって悪いのう。とりあえずはその辺りは大丈夫じゃから心配はいらんぞ」


 アリスの問いかけにエリザがそう答える。


 普通、火口にある洞窟なんてあまりに気温が高く生身の人間が侵入できるはずがない。近くまでは何とかなったとしても、すぐにその暑さでやられてしまうのがおちだ。


 しかしこの世界には魔法がある。外気の暑さや炎などから身を守ることが出来る耐熱魔法という物だ。


 俺自身、身体強化魔法しか使えないのであまり深く考えて居なかったのだが、魔法というのは個人の適性により使える魔法がさまざまであるが、適正魔法以外にも基本魔法というものがある。


 例えばカナデの焼却魔法は、カナデの適正魔法でありカナデにしか使用することは出来ないが、基本魔法の中にも火を使った魔法は存在しているのだ。


 もっともその威力は弱く、どちらかと言えば戦闘よりも火をつけたりなどの生活用といった傾向が強い。


 他にも水を出したり光を灯すなど、基本魔法は端的に言えば人々の生活を便利にするといった程度の魔法なのだ。


 しかしその便利さは言わずもがな。魔力さえあれば実際は魔力を使っているので違うのだが、見た目は無から有を生み出すことに等しい。いかに人々の生活と切って切れない関係かがこれだけでもわかるというものだ。


 今アリスが言っていた耐熱魔法というのもその基本魔法の一つ。


 これがあれば火山の火口という、人間にとって過酷すぎる環境でも、少し暑いかな、くらいの感覚で探索することができるというわけだ。


 もっとも、エリザは始祖龍なんて異次元の存在なので火山の暑さくらいはなんともない。カナデも今は普通の人間として見せるために実体化しているが、そもそもが幽霊なので暑さなど感じない。俺は俺で龍人に進化したせいか、暑さは感じてもそれでどうこうなることなどない。


 方便でアリスさんにはああ答えたが、実際のところ俺達に火山程度の環境など関係はなかったりするのだ。


 自分で言っててなんだが、化け物しかいないな俺達。


「山道は整備されてるが気を付けろよ。今でも噴火をしている活火山だ。足場の悪いところは山ほどあるし、魔物もそういうところに潜む傾向があるからな」


 グローインの言葉の通り、山道を外れた場所は基本的に足場が悪い。おそらくこの火山の溶岩の粘度がそう高くないのだろう。表面がガラガラのクリンカーで覆われており、玄武岩質の溶岩が冷え固まって堆積している。


 もしそこで戦闘になったなら、足場に気を使って戦わなければいけないことは明白だ。


「口を出さないって言ってた割にいろいろアドバイスしてくれているような気がするんですが?」


「おいおい嬢ちゃん。これくらいは世間話の範疇じゃねぇか。あくまで先輩と後輩のコミュニケーション。そんなに長くない行程とはいえ、道中一言も話さないってのも味気ないだろ?」


「それには同意です!ずっと黙ってるなんて耐えられません!!」


「昨日から思ってたんだが、三人の中でも嬢ちゃんとは一番気が合いそうな気がするぜ!!」


「ええ!私もそう思ってたんですよ!!」


 カナデとグローインがやけに意気投合しているが、なんとなく性格が似ていそうな二人だ。きっと通づる物があるのだろう。


 それに限定的なパーティーとはいえ、一緒に行動するのだから仲が悪いよりもいい方がいいに決まっている。そう思い、エリザの方に俺は視線を移してみた。


「ほう。アイテム袋か。実に興味深いの」


「ベテラン冒険者の必需品ね。物によって容量は変わるけれど、最低でも十日分の食料くらいは携帯できるわ。冒険者にとっては荷物は切っても切り離せないもの。だけど戦闘時には荷物が邪魔になるから少しでも軽装でいたい。だからアイテム袋は重宝するってわけね」


「便利なんもんじゃな。儂も一つくらいは欲しいのう」


「王都くらい大きなところなら売ってるけど金額的に現実的じゃないわね。冒険者をしてるのだから、ダンジョンで拾うこともあるはずよ。私達もダンジョンでアイテム袋を手に入れたから」


「そうかそうか。なら儂もダンジョンに潜った際には探してみることにしようかの」


 こちらも何やら仲良さげに話している。口調ではエリザの方が明らかに年上に聞こえるのだが、エリザの容姿は少し幼い。女優顔負けの美貌とスタイルをもつエリザだが、アリスに比べると、どうにも姉と妹のような関係にみえてしまうのだ。


 まぁなんにしても、こちらも仲が良くなっているようなのでいい。即席パーティーとしてはこれ以上はないだろう。


 パーティーの様子に満足したところで目を背けていた事実に向き合ってみる。カナデとグローイン。エリザとアリス。五人のメンバーがペアを作って話し始めてしまったら。


「……」


 寂しくなんてないやい。


 二組のペアが楽しそうに話す声を背中に聞きながら、俺は一人黙々と火口に向けて歩を進めるのだった。


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