第22話 二人の赤ランク冒険者
第22話~二人の赤ランク冒険者~
ゴウロン山は死骨山脈に比べれば可愛い山だった。
頂上はちゃんと見えるし、麓から中腹にかけては木や植物もしっかりと自生している。麓付近には数件の小屋もあり、おまけのおまけに山道まで整備されているのだ。
あのワイバーンが群れる山と比べれば、この山は天国とでもいえるのではないだろうか。
「普通は山なんてこんなもんじゃよ。未開の山脈ならともかく、最初に遭遇する山があの山じゃったのだのがお主の運のなさよの」
「それを容易く切り抜けるんですから、流石は恭介さんですね!!」
「まぁ、そうともいうの」
なにやら外野二人がうるさいが、人間を辞めることで攻略した山を容易く切り抜けたとは普通は言わない。言わないが、そこに突っ込みを入れても無駄なのは、短い付き合いとはいえわかっているので俺はあえて何もいうことはしなかった。
「お、元気そうなのが来たな!」
「随分と可愛い子たちみたいね」
そんな俺達に話しかけてくる二人の人物。一人は2メートル近い巨体に短い赤髪の豪快そうな男。もう一人はこちらも赤いウェーブのかかった髪に細身の体躯。スレンダー女優という言葉がぴったりのお姉さん的な女性。
どうやらこの二人が今回俺達の引率をする冒険者らしい。
「あんた達が赤ランク冒険者でいいのか?」
「おうとも。俺がグローイン。そんでこっちがアリスだ。一応夫婦で赤ランク冒険者なんてもんをやってんな」
「よろしくねボウヤ達。わからないことがあったらお姉さんになんでも聞いてね」
グローイン・ロイタール。アリス・ロイタール。
ギルドの受付嬢から聞いていた今回の引率者である二人の名前。
姓が同じであることから、二人の間に何らかの関係があるとは思っていたが、まさか夫婦だとは思わなかった。見た目は対照的な性格をしている二人に見えるが、非常に仲がいいということだけはわかった。
「あの、なんで手を?」
「ん?あぁ、これか。気にすんな!これはまぁ、癖みたいなもんだな!」
「恥ずかしいからやめってって言ってるのに、ほんとに困った人なのよ。ごめんなさいね?」
「別に悪いことしてるわけでもねぇんだから堂々としてりゃいいんだ!!お前たちもそう思うだろ?」
つまりだ。この二人、初対面の俺達の前にも関わらず、しっかりと手を繋いで自己紹介をしているのだ。もちろん繋ぎ方は恋人繋ぎ。
ここまで堂々とされては、変な物言いをしてしまえばこちらが悪いような気さえする見事な開き直りっぷり。その様子に、俺だけはなく、どうやらカナデとエリザも圧倒されているようだった。
「えっと……、仲がいいのはいいこと、ですよね?」
「そうじゃの……。いきなりだったんで面食らってしもうたが、仲がいいのはいいことじゃな」
「なかなか話の分かる奴らじゃねえか!!気に入ったぜお前ら!」
「最近はどうにも波長の合う新人がいないものね。久々に楽しい依頼になりそうだわ」
うん、きっと悪い二人ではない。俺は無理矢理そう思うことにした。
その後俺達の自己紹介も簡単に済ませ、いざ依頼の話となったところでグローインが口を開いた。
「さて、それじゃあ早速だが今回の依頼について話していくぞ」
その言葉を皮切りに雰囲気を変えるグローイン。先ほどまでの豪快さの中にあった陽気さはなりを潜め、まさに歴戦の猛者と言った雰囲気を纏っている。
妻であるアリスの方も、表情に笑みは浮かべている者の、その瞳は油断なく周囲を警戒していた。
なるほど。これが赤ランクまで上り詰めた冒険者というやつなのだろう。冒険者について決して詳しいわけじゃないが、少なくともルグナン村にいた度の冒険者よりも強いというのだけは一目でわかった。
しっかりと手は繋いだままなので台無しだけどな。
「依頼内容は保炎石の採取。量は最低でも10キロ。道中俺達は基本的には口を出すことはないが、危険と判断すればもちろんサポートはする。それが引率者である俺達の仕事だからな」
「山に入るのは明日。もう昼も超えているから、今日は麓の小屋に泊まってコンディションを整えなさい。多少だけど火山で役立つアイテムも売ってるから購入するのもありね。準備も含めて冒険者ってわけ」
「聞いてるかもしれんが、今の火口は噴火後で魔物が沈静化しているからまず危険はない。ないとは思うが万が一はあるからな。各々油断はせずに明日に望め!!」
グローインのその言葉で顔合わせは終了し、今日の所はお開きとなった。二人は俺達に明日の朝の集合時間を告げると、止まっている宿へと去っていく。
「なるほどの。あの二人、なかなかやりそうじゃな」
「そうですか?燃やしたらすぐ死んじゃいそうですけど」
「お主の尺度で物を計るでない。あくまで人としては、じゃ」
一部不適切な表現があったが、エリザの言葉は正しい。余裕を持った態度と冷静な判断力。ある程度の力を持ったものは、どうしても自身の力を過信しがちとなる。
しかしあの二人は赤ランクという、それなりの力を持っていながら、まだ太陽の高い時間だというのに山へ入るのを明日に持ち越したのだ。
グローインも言っていたが、いかに魔物が沈静化しているとはいえ、それでも魔物が住むテリトリーに侵入するのだから万が一はある。加えてあくまでも今の俺達は新米冒険者という立ち位置であり、いかにステータスがぶっ壊れていても、他人からみれば力がないと思われても仕方がないのだ。
自身の力量と、サポートするべき人の力量を把握し万全の状態で依頼に望む。まさしくベテラン冒険者といったところだろう。
まだステータスを覗いたわけではないが、今のやり取りだけで二人の力量が垣間見えたというわけだ。
「せっかく二人が気を使ってくれたんだ。今日の所は大人しく宿でもとって、明日に備えることにしようぜ」
そんな俺の提案にカナデとエリザが同意を示す。ゴウロン山の麓には宿は一軒しかないが、ギルドが入山を管理している以上、泊まれないということはないだろう。
そう思い、三人で宿に向かいながら俺は思っていた。
元の世界で出会った人たち、そしてこの世界に来てから出会った人たち。カナデに出会うまではそれまでの経験から、他人なんて信じることはできないと、そう本気で俺は思っていた。
だからこそ俺を蔑み、蔑ろにしたこの世界に抗おうと決めたのだ。あの森で、たった一人で。
だけどカナデと出会い、エリザと出会い、そして今日ロイタール夫婦と出会ったことで俺の中の考えは少し変わりつつある。
きっと全てが敵ではない。全員が俺に対して理不尽であるというわけではない。俺のことを何も知らないからということもあるかもしれないが、それでも分け隔てなく接してくれる人はたくさんいるのだ。
だからこれからはそう言う人を、俺が自分で信頼できると思った人を大切にしていこう。自分のような人をこれ以上増やさないために。
きっとそれこそが、傷だらけになってしまった自分の心を救うことにもなるだろうから。
だけど、敵に対しては容赦はしない。俺に対して、そして俺の信頼する奴の敵に対しては、殺意でもって答えよう。それこそが俺の安寧に繋がるのだから。
そう心の中で静かに誓うのだった
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