第18話 新しい仲間

第18話~新しい仲間~


 俺とカナデの当初の目的は、永久の森を出てどこか近くの町へ行くことだった。それがどういうわけか死骨山脈で大量のワイバーンと戦うことになってしまったわけだが、紆余曲折を経てこうして山を下ることが出来ているのだから結果オーライとしておこう。


「それはそれとして、どうしてエリザが一緒にくっついてくるんだよ」


「言ったじゃろ?わしはお主に興味が湧いたのじゃ。人の身でありながらキング・ワイバーンを倒し、そして儂の血を受け入れ進化を果たした。そっちの幽霊娘も相当面白いスキルを持っておるようじゃし、これで興味をもつなという方が無理な話じゃ」


 あの後、仮の宿となっていた洞窟でさらに一泊をし、完調とは言えないまでも動くことは出来るようになったので山を下りることにしたのだが、エリザまで一緒についてきたのだ。


 もとよりこの山になんとなく住んでいただけのエリザにとって、興味の対象が俺に移っている以上、この山に執着などない。ゆえに俺達についてくることを決めるのに時間はいらなかったようだ。


「恭介さんの命の恩人ですし、悪い人じゃなさそうなのでいいんじゃないですか?」


「そうじゃろ?カナデよ、お主はよくわかっておるの。この唐変木にもっと言ってやるのじゃ」


「いざとなったら私が責任もって燃やしますからダメでしょうか?」


「いやお主、儂はゴミとかと一緒のカテゴリーなのかの?お主に燃やされるほど弱くはないとは思っておるが、流石に心に響くものがあるんじゃが」


 カナデの言葉に微妙に凹むエリザ。そのやり取りを見ながら俺は考える。


 エリザの同行を許すのか否か。正直なところ、余計な連れ合いを増やしたくないという気持ちはある。


 この世界に来てしょっぱなから受けた扱いを思い出すと、そうそう簡単に誰かを信じることは難しい。それでなくても元の世界でのこともあるのでその気持ちは強いのだ。


 カナデのことは信じているが、それでもまだ心の中では最終防衛線は守っている。信頼してはいるし信じたいとも思っていいるのだが、流石に長い人生の中で心に根付いてしまったものを払拭するにはまだ時間がかかる。


 その上でエリザの存在をどうするか。


 恐らくだがエリザは本当に俺に興味を持っただけで、そこに深い理由がないことは分かっている。強者ゆえの余裕。いざとなればどうとでもなるという自信は余計な策略など弄する必要もないのだから。


「わかったよ。ただし俺の邪魔はするなよ」


「そのくらいわかっておる。何も儂はお主たちの旅を邪魔したいわけじゃないからの。興味をもつ相手も出来たし、そろそろ山にも飽きて来た。ここらでどこかへ行くのも悪くないと思っておるだけじゃからの」


 からからとおかしそうに笑う見た目妙齢の美女。この世界に来る前なら思わず生唾を飲まずにはいられないであろう容姿にスタイルを持つエリザだが、今は食指も動くことはないのはきっと、こいつの本性を知っているからだろう。


 ここで仮についてくるなと言ったところで、こいつをどうにかする力は今のところ俺にはない。だったらいっそ味方としてついてきたもらう方がまだお得であろう。そんな打算もあって、俺はエリザの帯同を許可したのだった。


 命の恩人だということも一応はあるけどな。


「ところでお主らは一体どうしてこんなところにいたんじゃ?そもそもお主はこの世界の人間とも少し違うようじゃし。せっかくこれから一緒に旅する仲間となったんじゃから、その辺教えて欲しいんじゃがの」


 そう疑問を投げるエリザに、一瞬どうしようかと思案したが、俺は事の詳細を話すことにしたのだった。


 未だ体力の回復しきっていない体で飛槍を使うのはきつかったため、徒歩での下山をしている俺達には時間はたくさんある。


 それに勇者召喚や天恵について、始祖龍たるエリザなら何か知っているかもとも思ったというのもあるのだ。


「どこから話すかな。あれは、2週間位前のことなんだが……」


 後強いて言うなら、カナデと一緒でエリザもまた、信じることが出来ると感じたからかもしれない。根拠はないんだけどな。


 ◇


「なんとも不愉快な話過ぎて、流石の儂も少しばかりカチンときたんじゃが」


「怒ってくれるのは嬉しいが、魔力を抑えろよ。お前の魔力だとその量でも環境に影響が出るだろうが」


「いえ、エリザさんももっと怒るべきです!私も初めて恭介さんから話を聞いた時には全員燃やそうと思いましたし、今もう一回聞いて改めて国ごと燃やそうと思いましたもん!!」


「カナデは少し発言に節度を持った方がいいの。気持ちは分からなくもないが」


 道すがらこの世界に来てからのことをエリザに話したのだが、予想に反してエリザは俺の肩を持ってくれた。


 強さ至上主義が見え隠れするエリザなら、いいようにやられたお主も悪いくらは言うかと思ったが、嫌悪のこもった発言を聞くにそうではないらしい。


「理由はどうあれ無実の者を陥れるのは儂は好かんのじゃ。それに魔族が一方的に悪と決めてかかるところも鼻に尽くしの」


 そういって眉をすぼめるエリザに、話してよかったかなと思う。シルビアス王国の連中に比べて、おかしいことにしっかり異を唱えてくれるエリザがよっぽどまともに見えたからだ。


 それだけあの国が腐っていたともいえるのだが、所詮は出て来た国のことだ。今俺にはもう関係のないことなのだから考えるのはよそう。


「ところで山を下りた先って何があるのかエリザは知ってるか?さすがにまた森とかは勘弁してほしいんだが」


「儂の記憶が正しければ、確か山の麓から向こうはキュリオス帝国だったはずじゃが。今はどうなっておるかわからんの」


「500年も引きこもってたら国とかも変わっててもおかしくないですもんねー」


「実際そうなのじゃが、カナデよ、もう少し発言を優しくしてくれんか?儂の心が何気に辛いのじゃ」


 始祖龍もどうやらカナデの毒舌にはダメージを受けるらしい。しかも本人は無自覚なのだから余計にたちが悪い。


 しかし帝国か。人が住む町があるのは嬉しいが、帝国というのがいただけない。ファンタジー物に置いて、古今東西帝国というのはどうしてもいい印象がない国の代表格なのだ。


 あのくそったれな国を出て初めての他の国、それどころか初めての街だ。出来れば過ごしやすいところがいいのだが。


 そう思いながら俺達はゆっくりと、だが確実に山を下って歩いていく。途中、頂上の状況を知らないワイバーンが襲ってくることもあったが、全部カナデに燃やされていたのは言うまでもないだろう。


 数匹の群ではカナデに対抗できるわけもなく、そもそもカナデ自身も頂上でのクレート・ワイバーン大量虐殺により相当レベルが上がっていた。


“検索結果:対象のステータス

名前:カナデ

 種族:幽霊族

 レベル:48

 適職:焼却師

 適正魔法:焼却魔法(レベル25)

 スキル:浮遊(レベル16) 物理耐性(レベル14) 

     魔の雛(レベル3) 煉獄炎(レベル12)

 ステータス 攻撃:24

       防御:24

       素早さ:1265

       魔法攻撃:2351×5=11755

       魔法防御:2542×5=12710

       魔力:3068×5=15340“


 人を辞めることで大幅なステータスアップを果たした俺だが、どうやらカナデもいつの間にやらチート具合をさらに強化させていたようだ。


 特出すべきは魔法に関するステータスであるが、今までなかった倍率アップが付加されている。これによりステータスにブーストがかかっているのだが、その原因はこちらもスキルレベルが上がったことにより進化しているもののせいだろう。


“検索結果:『魔導の雛』 魔の適性を持つ者に現れるスキル。卵は孵り雛となった。今はまだ成長途中のひよっこ魔導士。覚醒まではまだまだ長い。全ての魔法ステータスを5倍にする”


 スキルの説明がなぜかおかしなことになっているが、最後におまけでくっついている扱いの内容がやばい。


 素の魔法に関するステータスが高いカナデにとって、5倍という補正は反則的だ。しかもスキル説明を見るに、どうやらさらに進化の余地を残したスキルのようで、これからさらに爆発的に能力が高まりそうな予感すらする。伸びしろとはこういうことを言うのだろう。


「いやー、レベルが上がったせいかワイバーンが前よりもよく焼けますねー。食用にも残しておきたいので火加減が難しいです」


「そういう時は込める魔力量で調整するんじゃよ。温度の調整よりも魔力での調整の方が加減はしやすいはずじゃ」


「そうなんですか!えっと、こうですかね?」


 エリザからレクチャーを受けて懲りずに現れたワイバーンを燃やすカナデ。言われた通りに魔力の量を抑えたのか、これまで消し炭どころか灰すら残らなかったワイバーンが、今回はしっかりと形を残したまま生命活動をストップさせるだけとなったようだ。


「上手に焼けました!!」


「いろいろと怒られるからやめとけ!!」


 その後も俺達はゆっくりと山を下って行った。時にはワイバーンを焼き、時にはトレーラーハウスで体を休め、なんだかんだとそれから三日の日を費やし、俺達はようやく山の麓の街に到着したのだった。


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