第13話 一休み、そして山頂へ

第13話~一休み、そして山頂へ~


 山頂までおよそ200m。


 あの後も山頂に向かい飛び続けた俺達だったが、結局その手前にちょうどいい横穴を見つけたため、そこにトレーラーハウスを出して休息をとることにした。


 理由はいくつかあるが、一つはワイバーンが追撃をしてこなかったという点だ。正直なところ、群は抜けたがすぐさま追手が来るか第3陣が来ると予想していたのだが、一度抜けてしまうとそれ以降、一度もワイバーンと遭遇することはなかったのだ。


 敵もおらず、休息をとるのに適した横穴がある。穴の入り口を錬金術で塞げば即席の休息所の完成だ。


 魔力や体力の消費がいかに少なかったとはいえ、魔物の住処のど真ん中にいるのだから、休めるときに休んでおくのは定石という物だろう。


 そしてもう一つ。どちらかといえばこっちの理由の方が大きいのだが、目的地でもある山頂から非常に嫌な感じがしたのだ。


 恐らくだがあそこには強力な敵がいる。俺の中の何かがそう警鐘を鳴らし、そのままの勢いで山頂に向かうことを止めた。

 多分その予感は正しいのだろう。この山が死骨山脈と呼ばれ、山の中腹にも満たないうちにあれだけ強力なワイバーンが出現する。しかもそれらはきっちりと統率がとれた動きを見せるとなれば、これはもう、あのワイバーンの群を統べる何かがいることは容易に予想がつくというものだ。


 だとすれば、山頂にいるのはその統べる者の可能性が高い。尚の事、休息をとることは必要だったのだ。


「何がいると思います?」


 カナデが問う。


「さてな。どうせ友好的な奴じゃないことだけは確実だろう」


「そしたら燃やせばいいんですよ!!」


「その意見には概ね賛成だけど、お前、二言目には燃やすだよな」


 トレーラーハウスの中、ベッドに寝そべりながら山頂に潜むものについて予測をしようとしたが、俺達の性格的に無理であることが分かった。


 俺のスタンスは俺の邪魔をするものすべて殺す。カナデのスタンスはとりあえず燃やす。


 いい話し合いなど最初から出来るわけもないのだ。


 もっとも、だからこそ俺はカナデと一緒に行動をしているのだろう。これでカナデがよくファンタジーものに登場する正義を振りかざすような存在だとしたら、一笑のもとに切り伏せている可能性が非常に高いのだから。


「仮に勝てなかったとしても、撤退は出来るだろう」


「何を弱気なことを言ってるんですか!!さっきのワイバーンだって余裕で突破した私達ですよ!?どんな敵が出たところで一網打尽に決まってます!!」


「さっきの勝利も一度撤退があったからこそだってことを忘れんなよ」


 過去より未来に生きるのはいいが、反省くらいはしてほしいものだとは思うが、俺自身、よっぽどの相手でもなければ負けはないと思っている。


 ワイバーンとの戦闘で、俺達のレベルはさらに上がっている。


 “検索結果:対象のステータス

名前:斎藤 恭介

 種族:人族

 レベル:23

 適職:なし

 適正魔法:身体強化魔法(レベル23)

 スキル:槍術(レベル9) 錬金術(レベル6) 

     索引(レベル7) 収納(レベル6)

 見切り(レベル3)

 ステータス 攻撃:196×4.6=902

       防御:164×4.6=754

       素早さ:171×4.6=787

       魔法攻撃:110×4.6=506

       魔法防御:110×4.6=506

       魔力:118×4.6=543“


 一番低いステータスですでにこの世界の上位者と同レベル。身体強化魔法のチート性能っぷりが輝かしい。攻撃に至っては、そろそろ4桁が見えるレベルまで来ているのだから、この世界に来た当初、俺のステータスを笑った奴らを今なら見返すことも出来るだろう。


 今こうして改めてステータスを見ても、なぜあの時俺はあんな扱いを受けなければならなかったのか不思議でならない。確かに天恵とやらはなかったかもしれないが、それでもこれだけ優秀なスキルがあるのだから、俺が逆の立場だったらきっと利用したことは間違いないだろう。


 解せない。だがそれもどうでもいいか。


 そのおかげでこうして今、自分の意志で行動できていると考えればもはや全て過ぎたこと。今更あんな怒りの感情しかわかない出来事を思い返したところで、何も得るものなどないのだ。


 思考が脇道に逸れたが、俺の能力が相当上がっていることはわかった。次はカナデだ。


検索結果:対象のステータス

 名前:カナデ

 種族:幽霊族

 レベル:39

 適職:焼却師

 適正魔法:焼却魔法(レベル18)

スキル:浮遊(レベル9) 物理耐性(レベル10) 

    魔力の卵(レベル15) 煉獄炎(レベル3)

 ステータス 攻撃:17

       防御:17

       素早さ:944

       魔法攻撃:1860

       魔法防御:1953

       魔力:2749“


 相変わらずぶっ飛んでいた。物理が低いのは変わらないが、その反動か魔力がものすごいことになっている。この能力なら、あのビックマウスも許せるという物だ。


 そしてもうひとつ驚いたことに、どうにもカナデのスキルが変化しているのだ。


 前回に見た時は獄炎という名のスキルだったはずのものが、今は煉獄炎になっている。ただでさえ物騒な名前だったスキルが、さらに物騒な名前になっている。これは一体どういうことのなのか。


“検索結果:スキルは一定のレベルに達すると進化します。進化条件レベルは20。そのレベルに達し、次にスキルレベルが上がった時点で上位スキルへと進化をする仕組みとなっています”


 思案する俺にインデックスが素早く答えをくれた。なるほど、スキルはどうやら進化するらしい。確かに前回カナデのスキルを見た時、獄炎のレベルはちょうど20だった。そこからワイバーンとの戦闘でレベルが上がり、知らないうちに進化していたということだろう。


“検索結果:『煉獄炎』獄炎の上位スキル。煉獄より召喚した炎を操る。その炎は浄化の効力を有し、触れた者の魂まで燃やし尽くす。自身の炎系統魔法に付与される”


 有機物、無機物という枠組みを飛び越えて、魂という概念的なものまで燃やすことが出来るようになったらしい。


 全てを燃やすというカナデの性格に非常にマッチしたスキルなのは言うまでもないが、危険度が増したことは俺だけの秘密にしておこう。


 現状、カナデに俺がステータスを覗けることは教えてはいない。もう少し互いの信頼関係を構築してから明かしていこうと思っていたのだが、どうやらそれが功を奏したようだ。


 どこまでも物騒なカナデがこの事実を知ってしまったら、本当に全部燃やし尽くしかねないからな。


「どうかしました?」


「いや、ひと眠りしたら出発するぞ」


「了解です!!ようやく山越えですね!!」


 話を逸らす俺に、カナデは特に追及するでもなく頷いた。そしてベッドで横になる俺の隣で抱き着くように寝ころんだ。


「幽霊って寝れるのか?」


「寝なくても問題ないですけど、気分って大事じゃないですか!!」


「否定はしない」


 俺とカナデはひと時の休息をとるため眠りにつく。目が覚めたら、いよいよ山頂の攻略だ。


 何がいるのかは知らないが、どんな敵だろうと俺の邪魔をするなら容赦はしない。全部倒して前に進んでやるさ。


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