第8話 共闘、そして制圧
第8話~共闘、そして制圧~
見上げた先に見えた白のパンツ。正確に言えば、スカートの中に除く誰かの白のパンツだ。
もはやカオスな状況に俺の行動が一時的に全て止まってしまったとして、一体だれがそれを責められるというのだろう。
「グッ!?」
惚けてしまったことで、距離を詰めて来たスケルトンの一匹が振るった剣が俺の肩口を強襲する。
すぐに我に返り、槍を振るいスケルトンを倒すが、肩に鋭い痛みが走った。
“検索結果:左肩に裂傷。傷の深度5mm。出血の程度、軽微。パフォーマンスに与える影響、2%”
すぐさまインデックスの分析が入るが、この程度であれば問題はないだろう。ボロボロだとはいえ、刃物で切られてその程度のダメージというのは、きっとステータスが上昇しているおかげなのだろうか。
俺はそう内心で納得していたのだが、どうやらそうではなかった奴がいた。
「大丈夫ですか!?すぐに治しますからじっとしていてください!!」
謎の白パンツの声が焦ったようにそう言うと、突如右肩に感じる暖かい感覚。見れば、右肩が緑っぽい淡い光に包まれているではないか。
「これは……?」
あまりの事態に反応が遅れてしまったが、どうやらその光は俺に害をなすものではないようだ。その証拠に肩口の痛みが引いていき、血がにじんでいた傷口がふさがっている。
「回復薬です!!これで大丈夫!さぁ、二人でこの骨さん達をやっつけましょう!!」
そう言うと、正体不明の何かは俺の隣にふわりと並んだ。白パンツの正体、それはこの場に不釣り合いな容姿を持つ女性だったようだ。
真っ白のワンピースを纏った、黒く長い髪が一際目を惹く少女。状況は読めないが、本人はいたくやる気なようで、丸っこい目はらんらんと輝いている。
犬のような奴。それが俺がこのアンノウンに抱いた第一印象だ。
「何を惚けてるんですか!?敵は待ってくれないんですよ!!」
あまりの状況の様変わり具合に再びフリーズしかけた俺の思考を、アンノウンが注意する。俺の注意力が散漫になった原因である奴に言われるのは癪だが、それでもそいつの言っていることが今は正しい。
乱れ突きのおかげでスケルトン・キャプテンまでの距離は後半分、群がるスケルトンも減っては来ているが、それでも俺が魔物の群のど真ん中にいる状況は何一つ変わっていないのだから。
「確認だ」
「なんですか!?スリーサイズとかは答えませんよ!?」
「……、お前は俺の敵か?」
いろいろと聞きたいことはあるが、今聞くべきはそれだけ。このアンノウンが俺の敵なのか否か。いくら状況が状況であったとしても、それを確認もせず隣で一緒に戦うなどできるはずがない。
もちろん嘘をつかれる可能性もあるとは思うが、なんとなくだがこのアンノウンが嘘をつくとは思えなかった。警戒をもっとするべきだとは思うが、きっとそれはこいつの態度に毒気を抜かれてしまったからだろう。
「私はお兄さんの味方ですよ!!この薄気味悪い森でやっと出会えた骨さん以外の人です!絶対に逃がしませんから、泥船に乗ったつもりで私を仲間にしちゃってください!!」
あ、敵とがじゃなくてこれは違った意味で関わっちゃダメな奴だ。
そう思ったがきっとこいつと邂逅してしまった時点ですでに遅い気がする。
本当に聞きたいことは多々ある。たとえばどうしてこんなところで一人なのかとか、どうして浮いているのかだとか、どうして体が半透明なのかとか、隣で鼻息荒くスケルトンを睨みつけているアンノウンに、本当に、本当に今すぐ聞きたいことはたくさんあるのだ。
「焼却!!」
だが、それらは全て後回し。先陣を切るとばかりに放たれたアンノウンの炎をにより、再び戦いが再開される。まずはこいつらを全て駆逐するのが先だ。
見たこともないような炎に焼かれるスケルトンの群に対し、俺も槍を握締め突撃していく。
この戦いの戦局が、完全にこちら側に傾いた瞬間だった。
◇
「乱れ突き!!」
「範囲焼却!!」
俺の槍による超高速の突きが、直線的な攻撃だとするならば、謎のアンノウンの攻撃は扇状型の攻撃だ。
燃え盛る炎と言えば聞こえはいいのだろうが、さっきから繰り出されている攻撃はそんな優しいものではない。
ファンタジー世界における炎魔法と言えば、真っ先に想像するのはオレンジや赤の、いかにも炎と言った色の物だろう。実際俺もそれを想像するし、ゲームなんかのエフェクトもそうであることがほとんどだ。
だがこのアンノウンの『焼灼』と呼ぶ技は違う。色が青いのだ。これは炎が完全燃焼をしているという証拠にほかならない。
通常の炎が赤いのは、簡単に言えば酸素の不足により効率よく燃えることが出来ていない状態だからだ。しかし青い炎は酸素がきっちりと必要分供給され、効率的に燃えている状態。
完全燃焼の青い炎は、不完全燃焼であるオレンジの炎に比べ圧倒的に温度が高い。オレンジの炎が500~1000℃ほどに比べ、青い炎は1000~1500℃にまで達すると言われている。
もちろん種々の条件で温度は変化するが、今も猛威を振るい続ける青い炎が、圧倒的な熱量を持つことに間違いはないだろう。
「魂まで燃え尽きるといいんですよ!!」
やたらと物騒なことを言いながらまき散らされる炎。アンノウンから噴き出す炎は、スケルトンを呑み込み全てを溶かしつくしていく。
骨の主成分であるリン酸カルシウムの融点はおよそ1650℃。炎に触れたスケルトンが跡形もなく消えるということは、やはりあの炎はそれ以上の温度を有するということだ。
「汚物は消毒ですよー!!」
燃え盛る炎にスケルトン達はなすすべがない。それどころか逃げ惑う個体まで出てくるほどになっている。そいつらに対して無差別に繰り出される炎と、どこか楽しそうにその様子を眺めているアンノウン。
散々スケルトンを槍で殺した俺が言うことじゃないが、もうどっちが魔物かわかりゃしないな。
「でも、まぁ、あの正体不明の奴のおかげで、助かったことも事実なんだよなぁ。お前もそう思うだろ?」
戦闘開始から1時間半。いろいろあったが、ようやく、本当にようやく俺はこの群のボスと思われる、スケルトン・キャプテンと相対するところまで来ることができたのだ。
“検索結果:スケルトンキャプテンのステータス
レベル:20
種族:アンデット
スキル:集団支配 鼓舞 黄泉への誘い
ステータス 攻撃:130
防御:100
素早さ:120
魔法攻撃:50
魔法防御:50
魔力:0”
流石にキャプテンというだけあって、そのステータスは高い。最後に調べた自身のステータスには及んでいないものの、それでもこの世界に来てから出会った魔物の中では飛びぬけたステータスだ。
「おにいさーん!!やっちゃってくださーい!!」
俺が一際でかいスケルトンと対峙しているのを見て、遠くで相変わらず青い炎をまき散らすアンノウンがそう叫ぶ。スケルトン群れも、もはや群れと呼べなくなるくらいに減少してきている。ここまで来れば、後はこいつを倒せば瓦解するのも時間の問題だろう。
「様子を見るか?」
インデックスのおかげである程度の情報を持って挑める俺は、基本である様子見をする必要はないかもしれない。
だが俺が今しているのは、混じりけのない命のやり取りだ。どちらも相手を殺そうとしている状況で、ひとつの油断は死に直結する。
ここまでステータス差によって目立ったダメージがないから忘れがちだが、ここで行われてるのは命の取り合いなのだ。数字だけを見て判断を下すなど愚の骨頂でしかない。
「オオオオオォォ!!」
後の先を取ると決めた俺に、その逆を選択したらしいスケルトン・キャプテンの剣が振り下ろされる。通常のスケルトンの三倍はあろうかという体躯を生かした攻撃。
一見すれば単純な攻撃だが、巨躯を持つ者がそれを行うということは非常に恐ろしいものとなる。
まず上からの攻撃という物がひどく有利になる点に加え、大きさは攻撃力に直結する。つまりスケルトン・キャプテンの攻撃は一撃必殺を秘めることになるのだ。
振り下ろされた一撃は地面を抉り、衝撃で少し離れた位置にいたスケルトンを吹き飛ばす。想像通りの破壊力を籠った一撃。当たれば即死だろう。当たればな。
「遅すぎるな」
ここに来た段階の俺なら躱しきれなかったかもしれない。それほどまでに速く、そして重い一撃だった。だが、俺のステータスは大量のスケルトンを倒すことで向上している。現に今の攻撃も、俺の目には相当遅く見えたのだから。
“検索結果:一定数の回避行為により、スキル『見切り』を取得。槍術が一定レベルに到達したため、派生スキル『龍槍』を取得しました”
頭に響くインデックスの情報。間髪入れずに追撃を行うスケルトン・キャプテン。
「いい加減疲れたし、ここらで幕引きにさせてもらうぞ」
下から斜め上へと切り上げられた剣だが、俺はそれを薄皮一枚のとことで回避した。新しいスキルである『見切り』はどうやら回避の性能をあげるものらしい。相手の攻撃の範囲が見え、どう躱せば効率的かが手に取るようにわかる。
「竜槍」
次の攻撃のチャンスなど与えない。無駄なく回避したおかげで、その勢いを使って攻撃を繰り出すことができる。
使ったのは槍術の新しい派生スキルである『龍槍』。踏み込み、スケルトン・キャプテンに放たれた槍による一撃は、槍の周囲に発生した金色の竜を纏い敵を喰らいつくす。
金色の龍はスケルトン・キャプテンを蹂躙し、そのままの勢いで残りのスケルトンをも呑み込んだ。
まさに必殺の一撃。もはやこの空間を埋め尽くさんばかりにいたスケルトンは一匹も残ってはいない。
後に残されたのは俺と、いきなりの竜の出現に何が起こったのかとわたわたしている謎のアンノウンだけだ。
「あー疲れた!」
いきなりのスケルトンの襲撃に、謎の共闘者といろいろあったが、とにもかくにも戦いはこれで終わり。
この勝負は俺の勝ちだ。
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