第6話 ステータスの確認 そして森のさらに奥へ
第6話~ステータスの確認 そして森のさらに奥へ~
一番に目に入ったのは見知らぬ天井だった。
そんな冗談を考える余裕ができるくらいには、どうやら俺の体力と気力は回復したようだ。
俺の体力を回復させるのに大いに貢献してくれたベッドから身を起こし、辺りを見渡す。どうやら寝る前に見た荷車の中という状況は変化がなく、ぱっと見何かをされたというわけではなさそうだ。
「ん?」
昨日寝る前に俺が食べ散らかしたはずなのに、綺麗に片付けられたテーブルの上に、何かが書かれた一枚の羊皮紙が置かれている。おそらくあの行商人の男が片付けたのだとは思うが、寝ている俺に対して何もしてこなかったところを見るに、どうやら信じて間違いはなかったようだ。
そんなことを思いながら、羊皮紙に目を落とす。見知らぬ文字のはずなのに問題なく読めるあたりは、ファンタジー世界ということで納得しておくことにする。
『おはようございます。ゆっくりとお休みになられたでしょうか?申し訳ないのですが、急用が入ってしまったため失礼させていただきます。お客様のお目覚めまでお付き合いすることが出来ず、私としても恐縮ですがご容赦していただけると幸いです。そのお詫びとしまして、お休みになられている荷車は差し上げます。旅の道中にお役立てください。
追伸 頂きました素材の代金の残りを置いておきます。またのご利用をお待ちしております』
一度羊皮紙に目を通し、読み終えたところでもう一度読み直す。
どうやら俺の読み間違いではなく、あの男はこの荷車、いや、もうトレーラーハウスと呼ぼう、を俺にくれると言っているのだ。
いくら何でもあのスケルトンの骨がこれと釣り合うとは思えない。しかもテーブルの上には羊皮紙のほかに、皮袋にぎっしりと詰まった銀貨が置かれているではないか。
“検索結果:アースベルにおける貨幣価値。流通している通貨は銅貨、銀貨、金貨、大金貨の四種類。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨百枚で大金貨一枚となる。銅貨一枚の貨幣価値は日本円の一円に相当する”
つまり今ここにある銀貨の山、数えてみると二百枚ほど、と十枚の金貨、占めて十二万円の現金を手に入れたということになる。
物価が分からない以上なんとも言えないが、少なくとも俺が一夜にして大儲けをしたことに間違いはないだろう。
トレーラーハウスを飛び出し辺りを見渡すが、男の姿はどこにもない。周囲は相変わらずの深い森に囲まれていて、寝る前にわずかにあった陽の光はすでになくなってしまっている。どうやら日中の時間、全て睡眠に使ってしまったらしい。
「いないか……」
もう一度周囲を見渡し、男の姿がやはりないことを確認してからトレーラーハウスの中に戻った。
いないのであれば仕方がない。もう少し待ってみてもいいが、差し上げると手紙に書いてある以上、男が戻ってくる可能性は低いだろう。
だったら幸運だったと喜ぶべきだ。この世界に来て、不幸続きだった俺に、ようやく運が巡って来たと思えばいい。
男は怪しいし、目的もはっきりしない。それでもあの男は俺に何かの危害を加えるでもなく休ませてくれた。だったら信じてもいいだろう。もしこれで騙されて、後で手痛いしっぺ返しを食らうとしたら、もはやそれは俺にとことん運という奴がなかったと諦めるべきだ。
考えがまとまれば話は早い。手早く身支度を整え、トレーラーハウスの外へ出る。収納から槍を出したところで、さてこのトレーラーハウスをどうやって運ぼうかと思ったが、それは俺のスキルでいともたやすく解決した。
「収納ってマジ便利だな」
物は試しと収納にトレーラーハウスを仕舞ってみたのだが、あれだけ小型の家程あったそれは、次の瞬間には目の前から見事に消え失せてしまったのだ。
しかも出し入れも問題ない。俺の意志ひとつで再び出て来たトレーラーハウスを見て、これで道中の宿が確保できたことにほくそ笑む。
「さぁ、出発だ」
しっかり睡眠をとったことで体力は回復した。食事もとって腹も満たされた。おまけに宿、というか家も確保し食料や水も確保できた。
俺はその事実にテンションを少し上げつつ、さらに森の奥へと進んでいくことにしたのだった。
◇
右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても木。
森の中はどちらを見ても同じ景色として目に移り、それはさながら天然の迷宮の様相を呈していた。
「よくここまで無事に城から離れられたよな」
昨夜の俺はただがむしゃらに真っ直ぐ歩いていたが、この森をよく真っ直ぐ進めたものだと思う。冷静になった今だから分かるが、この森の同じ景色は人の方向感覚を狂わせる。もしかすると、冷静さを欠いていた時だったからこそ、城を離れる方向に真っ直ぐ進めていたのかもしれない。
“検索結果:進行方向、北北東。シルビアス城から北北東へ76キロ地点”
そして冷静さを取り戻した今の俺は、索引のスキルによって正しく方向を確認することが出来る。いちいちある程度進むごとにスキルを使うのは面倒だが、それでも方向を間違えないというのは非常にありがたい。
“検索結果:方角の検索が一定回数に到達したため、これより方位磁石を表示します”
その言葉と同時、視界の隅に現れた丸いコンパスの表示。どうやら現在の方角を表してくれているらしい。
「索引マジ便利」
これでさらに楽に森を進めるようになった。
森を歩く傍ら、俺は現れる魔物を片っ端から倒していた。
相変わらず多種多様な形をしたスケルトンしか出てこないが、その全ては俺よりもステータスが低く、その上単調な攻撃しかしてこないため非常に倒しやすい。時折数体まとめて出てくることもあったが、それでも今の俺の敵にはならない程には俺も強くなったのだ。
「ここらでちゃんと自分の魔法とスキルをもう一度確認しておいた方がいいよな」
昨夜も多少は確認したが、それはあくまで急場をしのぐために急いで行ったもの。余裕のなかったあの状態では見落としもあったかもしれないし、何より俺の身を守る大事な役割を担う物なのだ。こういうゆとりのある時にしっかりと把握しておいた方がいいだろう。
「まずは今のステータスの確認っと」
早速索引で自身のステータスに検索をかける。
“検索結果:対象のステータス
名前:斎藤 恭介
種族:人族
レベル:8
適職:なし
適正魔法:身体強化魔法(レベル8)
スキル:槍術(レベル3) 錬金術(レベル2)
索引(レベル3) 収納(レベル2)
ステータス 攻撃:66×2.6=172
防御:54×2.6=140
素早さ:56×2.6=146
魔法攻撃:35×2.6=91
魔法防御:38×2.6=99
魔力:32×2.6=83”
レベルが少し上がり、ステータスも上がっている。相変わらず素のステータスは低く、ここまで来ても木山のレベル1よりも低い状態ではあるが、それを補って身体強化魔法の倍率が異常なことになっていた。
どうやら身体強化魔法は自身のレベルと連動するらしく、その上がり幅も0.2倍ずつ増えるということで間違いはないらしい。そうだとすれば、俺のステータスはレベルが上がれば上がるだけ指数関数的に増加していくことになり、それなりに時間が経てばステータスは相当強くなることが予想できた。
「他のスキルはと」
身体強化魔法はだいたいわかっているので、今一度俺の持つ他のスキルへと注目する。
“検索結果:槍術 槍を武器として使用した場合、使用者に情報補正。ステータスに槍術補正。レベル上昇に伴い派生スキルを取得可能”
まず最初に槍術について検索をしたが、これは概ね予想通りだった。当然だが槍の扱いが上手くなり、また、槍術を使用するにふさわしいステータス補正がかかるようだ。
ステータスの伸びが魔力面が低く、物理面が高くなっているのはそのためだろう。ファンタジーの世界で魔力が低いというのは少し残念な気もするが、使える魔法が身体強化魔法だけで、魔力の使用が初回のみなのだから、実質俺に魔力は現状必要ない。であればこのステータスでも問題はないのだ。
“検索結果:錬金術 物質を分解、分離、生成、再構築を行う。物質同士の合成も可能。ただし対象となる物質の構成成分を変化させることは不可能。対象の持つ質量を変化させることも不可能。対象となる物質の構成を理解しなければ発動不可能。スキルの使用は手に触れた物に限られる。レベルの上昇により、錬成速度、容量、品質が上昇する”
こちらはすでに検索した錬金術だが、改めて認識したのはこの錬金術が物理法則にきっちり則っているということだ。
もととなる物質を理解し、そこから成分を分解・抽出し、自身が望む形へと変化させる。もともと含まれる質量を変化させることは出来ず、構成成分もかえられない。
それはつまり物質の構成成分、つまりは元素を理解するということ。そして錬金過程は質量保存の法則に従うということだ。
これは非常に面白い。一見デメリットの多い要素にも見えるが、そこを理解していればとんでもないスキルと言える。
異なる二つの物質の元素を知っていれば、それを抽出し合成することが出来る。つまり、材料と知識さえあれば、合金だろうが複雑な化学薬品だろうが造り放題となるわけだ。
まさに一人科学工場の誕生だ。
そして最大のデメリット、構成成分の理解については次のスキルが全てを解決してくれる。
“検索結果:索引 視界に入る全ての情報を読み取り、情報を検索する。検索できる情報量はスキルレベルに依存する”
はっきり言うが、このスキルが一番のバグ性能だと思う。短いスキル説明だが、あえてそれを簡単にするとすれば、Google先生が味方についたとことだ。
しかもレベルアップによるアップデート付というのだから、これはもうチートと言っても過言ではないだろう。
現に、今こうしてステータスを事細かに調べられるのも索引のおかげだ。視界に入る全てとあるが、脳内の情報関する検索は、一度視界を通ったと物として処理されるらしい。確かに目に見えている物というのは、目というレンズを使って脳が理解しているだけなのだから、この理屈はあながち間違ってはいないのだろう。
とりあえずのところ便利なのだからOKだ。
そしてこのスキルのおかげで俺は敵の能力も知ることが出来るし、今いる場所、方角なんかも知ることが出来る。
情報は数多の武器をも凌駕する。
このスキルがいかにぶっ壊れ性能を誇るのか。それはこれから先にさらに実感することになるだろう。
というわけで、俺はこのスキルを敬意をこめてインデックスさんと呼ぶことに決めた。横文字の方がなんかかっこいいし、何より索引よりも親しみを込めやすい。決して、某食いしん坊シスターにあやかっているわけではないことだけはここに明記しておくことにする。
そして最後のスキルが収納だ。
“検索結果:収納(ストレージ)。対象を大きさ、質量を問わず別空間に収納する。容量などはレベルに依存する”
言葉の通りの収納スキル。使ってみた感じだが、どうやら収納先では時間が停止しているらしく、食料は傷むことはないということはすでにわかっている。
加えてトレーラーハウスの中にそのまま閉まってある物も、いちいちトレーラーハウスを出すことなく、中身だけ取ることが可能なのだ。
未だに容量がどのくらいなのかは分からないが、すでに相当の大きさがあることは明らかだ。しかもこのスキルもレベルが上がれば容量がさらに増えるというのだから、これから先を考えれば非常に有用であることは間違いない。
以上、魔法とスキル、合わせて五つを改めて調べてみたのだが、どれも便利であり、かつ強いとしか言いようがなかった。
使用方法さえ的確に使えば、それほど敵に後れを取るとも考えにくい。現に俺はこの森で魔物をちゃんと退けているのだ。弱いからと言って王女たちにあんな扱いを受けるとはとてもじゃないが考えにくかった。
「まぁ、いいか」
考えられる可能性はいくつかあるし、理屈も通る。だが、それは全て可能性でしかなく、そもそもが全部今更だ。
あいつらは俺を敵と認定した。こちらの言い分を聞かず、思い込みで魔族と断定し迫害したのだ。
クラスメイトも同じだ。木山はもちろんのこと、誰も俺を助けようとはしなかったのだ。木山の報復を恐れる気持ちは分かるが、それでもあの結末を見たんだ。誰か一人くらいは止めて欲しかった。
ゆえにあそこにいた奴らは全て敵だ。どんな理由があったとしても、許すことなどできるはずがない。
ただあいつらには俺にないものがある。適職と天恵といういかにも強そうなものだ。
インデックスで検索をしてみたのだが、レベルが低いせいか、出て来た情報はスキルや魔法の上級能力ということだけ。
だがそれならそれでいい。あいつらがどんなに強い能力を持っていたとしても、俺はさらにそれよりも強くなればいいだけなのだから。
自身のステータスを改めて確認した俺は、魔物を屠りつつさらに森を進む。その心は黒く染まり、命を奪うことに対する忌避感などは、すでに一かけらも感じなくなっていた。
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