街灯のない帰り道
春風月葉
街灯のない帰り道
すっかり日も暮れてしまった。
街灯もない田舎町、ここが都会なら左手の手提げ鞄だけで済んだろうに、そんなことを考えながら私は右手に持った懐中電灯のスイッチを親指で押した。
暗い町では明るいコンビニの光がやたらと目立つ、私はその光の中へ吸い込まれるように消えた。
店内でその日の夕食を適当に見繕うとそれらをまとめて会計まで運んだ。
このコンビニまでの道のりも決して近くはないため、少しは欲も出てしまい商品を一度で多めに購入することもあるが、そんな日には決まって帰り道で左手への重みとともに後悔を感じることになる。
そしてそれは今日の私も同じだった。
まったく、学習能力のない奴だと思う。
店を出ると外はすっかり夜の闇に覆われていた。
道中、意味もなく買ってしまったコーヒーゼリーの蓋を開け、プラスチックの小さなスプーンをビニール袋の中から探した。
左手にはゼリーの入った器、右手にスプーンを持つために私は懐中電灯を置いた。
蝉や蛙の鳴き声はいつのまにか蟋蟀や鈴虫の鳴き声に変わっていた。
人工の光がないこの辺りでは夜空の光がはっきりと見える。
カシオペア座から北極星に目をやる。
今夜も星と空気だけは綺麗だ。
私は自分の暮らすこの田舎町が好きではない。
しかし、この空の下でだけは、こんな場所も良いのかもしれないと思ってしまえた。
食べかけのゼリーを懐中電灯の隣に置き、空いた両手で星々を指差しては貼り付けられた星座の名を呟いた。
カツン、と不意に足下で小さな音がした。
星に夢中になっていた私の左足が、置いておいた懐中電灯を倒し、懐中電灯が倒れた先のコーヒーゼリーをひっくり返したのだ。
地面に広がったコーヒーゼリーは夜の色に混ざって消えてしまったが、まだそれなりに残っていたような覚えがあり、私は深く溜め息を吐いた。
ああ、やはりこんな田舎は嫌いだ。
街灯のない帰り道 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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