死の博打

夜霧林檎

第1話

死の博打


 命を賭けた博打。負けた者は全財産だけで無く、心臓、肺、肝臓等売れば金になる内臓を全て勝者に渡し、勝った者はその内臓を闇市で売ったときの金と全財産を獲得すること出来る、生か死かと呼ばれるこの命がけの博打は博打打の間で大流行しており一日に何十人もの博打打が集まるほどだった。


  どうだい?君もひとつその命を賭けた博打とやらを覗いてみないかい?


 生か死かが行われていたのは何処にでもある何の変哲もない古びた神社だった。蜘蛛の巣が張り巡らされた賽銭箱にギシギシと音を立てる廊下。頭上からは何かが駆け巡る音が響く。ぼろぼろな障子にはゆらゆらと揺れるか細い灯りと大小をかねた三つの影が映る。破れた障子の隙間からそっと中をのぞけば一般人が目にすることも無いであろう高級なブランド物のスーツを身にまとった七三の男と、本当にこの世に存在する女性なのかと思うほど可憐で美しい女性が一つのトランプの束を囲っていた。手元には五枚のトランプがもたれており、七三の男はその手札をみるとにやっとはしたなく気味の悪い笑みを浮かべた。勝ちは貰った。そんな言葉が口から出さずとも伝わってくる程だった。それに対し美少女は真意の掴めぬ、いわばポーカーフェイスの状態で目の前の男を眺めていた。


「"Queens full of ninesだ。」


 七三の男はQと書かれたトランプを三枚、9と書かれたトランプ二枚をばんと音をたて床に叩き付ける。寺がギシギシと音を立て、天井からは木屑がぱらぱらと落ちてきた。


「勝ちは俺のものだ。さっさと金を渡せ」


「フルハウス如きで勝ちを確信できるとは少々覚悟のではないかえ?まあ、よい」


 女性は着ていた朱色の美しい着物の袖を押さえ、5つのトランプをまるでピアノを奏でるような手つきで床に並べる。トランプの数はキングが四つとクイーンが一枚。


「フォー・オブ・ア・カインド」


 なかなかロイヤルストレートフラッシュは作れんのう。と袖で口元を隠し笑顔でゆるむ美少女の顔とは逆に七三の男の顔は見る見るうちに絶望色に染まり、そのままこっそりと除く私たちのもとに勢い良く走ってくる。が、後ろに控えた瑠璃色の袴を着た体格の良い男が七三の方を掴む。恐怖から暴れる男は「死にたくない」「もう一試合」「イカサマだ」「何でもするから命だけは助けてくれ」などと喚きながら我々のいる障子と向かい合わせに設置された障子の奥へと連れて行かれる。暫くすると男性の苦痛にもがき叫ぶ悲鳴が寺中に響き渡る。すると隣でその悲鳴を聞いた人間はどてんと尻餅をつき、逃げるように廊下の奥へと走り出した。走り走り走った先にはまた一室あった。そこはさっきまでの空間とは打って変わって埃どころか傷一つ無いまるでかぐや姫が過ごした一室のように美しく現実離れした空間だった。あまりの美しさに目を奪われた少年は動けないでいると襖の開く音がした。少年はあわてて障子を閉めると廊下の隅で息を潜めた。


「今回も見事な手さばきでした。お嬢様」


「あら、おおきにな」


「しかし、此処に来る人間はなんて愚かなのでしょうか」


「まったくじゃ。狐の化かしは下船で卑劣な人間如きに見抜ける訳もなかろうに」


「お嬢様の言うとおりで御座います」


「じゃがこれは誰にも教えるで無いぞ?わっちとおぬしだけの秘密じゃ。なんてったって、人間ほど良い餌はこの世には存在せぬからな」


「心得ております。もしも情報が漏れてしまった場合私が全力で始末させて頂きます」


 人間はがくがくと震えだし、自分の意思では動かぬ足を叩いて無理やり動かし森のほうへ逃げようとする。そんな人間の手を軽く引き自分の胸元へ埋める。

ああ、知ってしまいましたね。本当はすぐに返すつもりでしたがこうなってしまっては帰す訳には行かなくなってしまった。


 人間は力の入らぬ手で私の胸元を押すが所詮人間。それに恐怖で震える手でどうやって押し返せるというのだろうか。


 私は少年の首元に5cm程の爪を突き刺す。人間の首下から綺麗な赤い血がまるで糸のように流れ出し、人間の目は痛みと恐怖で埋まっていた。


「さあ人間よ。我が姫様の貢物として精々私の役に立ってくださいね。」


 そう耳元で囁いたときには人間の口元からは微かな風も感じなかった。















新しいニュースをお伝えします。本日未明行方意不明だった○○県××市にお住まいの榊玲人さんと柊研磨さんが骨となって発見されました。警察は死体が何かに食べられつくしされたような状況だということから前日に発見された同じ状況だった数人の犯人と同じ犯人と考え調査を進めています・・・・・・

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