第4話

 ある時母が押し入れを整理していた。僕はいつものご機嫌取りで母を手伝うためにせっせと片づけをする母に近づくと、母は異様なほど僕の好意を拒否した。いつもだったら僕の親切を拒むことはそうない母親であるはずなのに、この時の母の行動に僕は疑問を抱いた。


 母にしては珍しく遠慮をしているのだろうと思った僕は、母が広げた荷物をただじっと見ていた。その中にアルバムがあるのを見つけ、手伝えないのならせめて母の話し相手にでもなろうと思った僕は、話題作りのためにそのアルバムに手を伸ばした。


しかし母は

「やめなさい!」

 そう言って僕のアルバムに伸ばした手を叩いた。


「ごめん……」


 僕は母の気に入らないことをしてしまったとその場では反省したが、後になってよく考えてみればアルバムを見ることぐらい怒ることではないはずだ。


 僕は母の行動への違和感を払拭できず、母が仕事で家を空けた時を見計らってそのアルバムを見た。すると僕の幼い時の写真が多く出てきたが、それは僕が3歳ぐらいの時の写真ばかりで、赤ん坊の時の写真は何故か少なかった。


 ページを進めていくと段々と空白のページばかりになった。


 もう写真はないのか、何故母はあんなにも僕を叱ったのだろうか? と思いながらアルバムを閉じようとすると、ふと最後のページが開いた。そのページにあった一枚の写真は、きっと僕だろうと推測される産まれたばかりの赤ん坊と、僕を抱きしめる女性の写真だった。けれどその女性の顔は黒いペンで塗りつぶされ、画びょうの針の跡が多数あった。怨念がこもったその写真からは、僕が生まれた幸福感は伝わってこない。


 なぜ写真はこんな悲惨な状態なのか、僕には分からなかった。けれど見てはいけないものを見てしまったという実感はあったため、僕はそのアルバムを綺麗に整頓された押し入れに戻した。


 きっと母が僕を叱ったのはこの写真が原因で、僕が産まれた時に何かあったのだろう、写真から推測できることはそれだけであった。

 母に聞いてみようかと一瞬考えたが、僕の手を叩いた母の様子を思い出しその考えはすぐに僕の中で却下された。


 恐ろしい母の逆鱗に触れてまで知る価値はその写真にはないような気がしたし、母が真実を教えてくれるとは思えなかったからだった。

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