第8話 戦士には敬意を

第8話 戦士には敬意を


『艦長、敵影見ゆ、です?』


 船長から艦長になった。


『昇進です?』


『そんなことより三時方向から敵接近です?』

『館長砲雷撃戦です?』


 どやってだよ。

 そもそも三時方向ってどっちだ? みんなてんでんばらばら見てるぞ。

 それにカンチョウが違う。


 相変わらず突っ込みどころ満載の会話だ。


 だが彼らは役に立つ。

 出てきたのは羊だった。


「いかん、シールドシープだ」


「えっと、毛がもこもこで物理攻撃がほとんど効かない羊。でもって巨体と角を利用した突進は人間を撥ね殺すほどの威力がある。

 だったかしら」


「おおー、姉ちゃんすごい」


「えへへ、とりあえず周辺から勉強しているの」


 とりあえずみんな拍手~。ぱちぱち。

 姉ちゃんは基本的にまじめだからね。ギルドの資料でいろんなことを勉強しているのだ。


『でも軍曹どの忙しいであります?』


 あっ、一周して軍曹に戻った。

 と、こんなのんきなことをしていられるのも精霊たちがそのシールドシープを牽制してくれているからだ。


 シールドシープは結構大きい。二mを楽に超える巨体だ。

 その足元をアラクネ型多脚水人形戦車精霊部隊がちょこまかと動き回ってその行動を阻害している。してくれている。なのでこちらには来ていないのだ。


「うーむ、いかんな、手負いだ。普段おとなしい魔物でも手負いになると手当たり次第に襲ってくるぞ。いったん逃げた方がいい」


 爺さんが助言をくれる。

 気持ちは分かるのだ。でも…


「逃げれます?」


「・・・・・・・・」


 爺さんは沈黙した。


 そもそも二足歩行の人間と四足の獣では走行速度が段違いなのだ。

 俺たちが逃げてこいつが追いかけてこないならそれでいいけど、追いかけてきたら壊滅間違いなし。


『きゃー、救援を求むですー?』


 アラクネ型多脚戦車の一台が撃破された。踏みつぶされてしまったのだ。

 まあ、精霊たちは死なないし怪我しないから遊んでいると言っていいんだけど。


『補給をお願いするです?』


 ほら、すぐに俺の足元に来て次の要求だ。


「自分で作れないのか?」


『あそこまで複雑だと大変です? もう少ししてなじむと意識しなくてもできるようになるです』


 はいはい、わかりました。ほれ、合身!


 次を作ってクレリック型の精霊を乗せてやる。


『きゃー』


 とか言って喜んでいるし。


 しかし楽しそうに遊んでるな。姉ちゃんも爺さんもちょっと見いっちゃってるよ。

 なかなか鋭い動きでシールドシープを翻弄してチクチクと攻撃…といっても遊びレベルのやつだけど繰り返している。

 もしこの羊が健康だったら逃げ出したのかもしれないが、手負いでしかも一匹切り。

 かなりむきになって向かってきている。

 これはかえって、かわいそうかね。


「よし、多脚戦車起動」


「「え?」」


 俺の声に引きずられるように精霊界から導き出され、俺に触れた部分から形を得て巨大な蜘蛛型戦車に代わる。

 俺を頭の上に取り込むような形で。


 つまり俺を人間部分としたメカニカルなアラクネ型戦車爆誕なのだ。

 子供とは言え俺も精霊よりはでっかいからね、優に3mはある巨体だ。


「カイちゃん」


「ちょっとかわいそうだからとどめを刺してくるよ」


 きゅいぃぃぃぃん。ズン!

 ふしゅるるるるっ。


 いきなり自分に倍する巨大な化け物が現れたので羊は鼻息荒く威嚇してくる。

 そして突進。


 俺はシャッと横にスライドして躱した。そして尻を振るように方向転換。

 形が形だから人間とは全く違った動きになるね。


 そして今度は俺が突進してマニピュレータでつかみかかる。


「ああっ」


 姉ちゃんが悲鳴を上げた。

 一応捕まえたのだが暴れられて逃げられた。

 しかもその時後ろ脚でけりを食らって頭部が大きくへこんだ。


「まあ、水だからすぐに戻るけどね」


 しかし危ない。これでは防御力が足りない。

 というか俺に攻撃が当たったら死んでしまふ。


『軍曹どのファイト?』

『艦長素敵ー?』

『やっぱ官庁が最強です?』


 間違いなのに間違ってないような気もするこの不思議。というか理不尽。


 しかしこのままではいけない。俺はさらに水を操り装甲を硬質化させ、自分の両側に円盤状のシールドを作り出した。宙に浮いて俺の左右を守っている。

 そしてこのシールドには秘密がある。


 めえぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!


 羊が突進してくる。俺は盾の一枚を正面に回し迎え撃つ。


 ずどん、という音がしてついでバシャッという水音。その音に引かれるように羊が転んだ。


「え? なんで?」


 ふっふっふっ、水流と水圧なんだよ。


 つまりこの盾を構成している水は円形に高速回転しているのだ。

 だから表面ではじかれる。そして力づくで突進してくれば深海もかくやという水圧で横にはじかれる。

 この巨大な羊を簡単に引き倒せるほどなのだ。


「くらえ、ハイドロプレッシャー!」


 水は高速なら岩さえも切る。その速度で撃ちだされる水の塊。大体バレーボール大。

 ちなみに発射口は蜘蛛の口当たり。


 ずばーん!!

 ずぱーん!!

 どばーん!!


 立て続けに打ち付けられる高速水球。

 ぶつかるときの衝撃は鉄球なみ。

 しかもその後砕けた水球は羊の内部に衝撃を叩き込む。

 生き物の体はほぼ水なので水の衝撃は伝播するのだ。


 めええぇぇぇぇっ…


 悲しげな鳴き声だ。

 俺は一体何と戦ったのか。


「今楽にしてやるからな」


 俺の得意技は窒息攻撃だ。

 だが窒息は苦しい。

 これ以上この羊に鞭うつことはためらわれる。

 どうしよう…


 そうだ。


 俺は空中にある盾を少し変形させる。回転する外輪部を薄く薄く…

 そして羊の首に。


 シュパン!


 羊の首は切り落とされた。

 これは単分子サイズの高速水流で出来たカッターだ。岩でも鉄でも切るだろう。

 ほとんど痛みもなく。


「総員、勇敢に戦った羊くんに敬礼」


 びしっ!


 俺と精霊たちは最後にシールドシープに敬意を表した。

 ひとつの戦いが終わったのだ。

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