第7話 精霊さん使える子伝説

第7話 精霊さん使える子伝説


「悪は滅びた」


 というか今まさに滅んでいる真っ最中だった。

 悪とはチンピラ冒険者のことだ。


 彼らは草地を歩いていていきなり足を滑らせて転んだり。


「いやーん、パンツまでビショビショ」


 いきなり〔できた〕深い水たまり〔泥〕に足を突っ込んだり。


「ひいっ、なんでこんなところに落とし穴が」


 とにかく水系の災難が逃げ出した冒険者を襲っていた。

 一人は大やけどで早く治療しないといけないだろうに難儀なことだ。


『軍曹どの。悪は滅びたです?』

『軍曹どの。灰汁は取れたです?』

『軍曹どの。アクアリュウムです?』


 俺は料理もしてないし水族館でもないぞ。


『軍曹どの…えっと、えっと…悪を滅ぼすです?』


 いえいえ、もう十分でしょう。


「てえしたもんだな。あの魔法の構築速度、それに無詠唱だ。いい魔法使いだと聞いていたが、いやはや。

 それにあいつらも無様さも笑えたな。ふざけたことばかりしているから罰が当たったんだろう」


 爺さんが無精ひげをなでながらにやついている。

 精霊は見えていないからね。


「じゃあ、薬草採取しようか」


「そうね、気を取り直していきましょう。役割分担はどうする?」


 ここは森の中だから魔物が出る可能性もある。

 見張りは必要だろう。


『はいはいはいはい、軍曹どの軍曹どの、任せてほしいであります?』


 まだ軍曹どの続けるの? 気に入ったの?


『『『えへへーです?』』』

『薬草探すです?』

『僕ら物知りです?』

『薬草を育てるのは僕らです?』


 ふむ、薬草採取に自信ありか、だったら…


「オプションパーツを追加しよう」


 ふふふふふ、俺の趣味は常に進化するのだ。


「カイちゃんどうなったの?」


 姉ちゃんが聞いてくるから精霊たちが薬草採取をやりたがっているのを話して人間がサポートにつくことにした旨を話す。


 姉ちゃんには薬草の勉強もしてもらって、解析の魔法を使ってもらおう。

 解析は複合属性の結構難しい魔法で、何かを対象として行使するとその対象のデーターを解析記憶する魔法だ。


 これで薬草を解析しておけば次からはそこらにある草の中から薬草を抽出することができるのだ。


 さらに今回姉ちゃんの収納魔法を初お披露目となる。ナナエさんに教わった覚えたんだ。覚えるのが早くてとても吃驚していた。

 姉ちゃんはずっと俺と一緒に育ったから俺の知識とか吸収して結構チートなのだ。


 さて、俺の方も負けてはいられない。そして俺は不敵に笑う。


「ふっふっふっふっふっ」


「キャーどうしたの? カイちゃんかわいい!」


 あるえ~? 結構ニヒルに笑ったつもりだったんだけど。


『かわいいです?』

『真似するです?』

『『ふふふふ腐?』』


 ショック!


 ・・・気を取り直して。行くぞ。新発明。


「多脚式水人形戦車。ドラゴンホース!」


 ドン!


 と出たそれはお得意の水を固定して作ったフィギュアだ。


 丸い胴体に大きなおしり、昆虫のような六本の足を持ち、二本のマニピュレータを装備したどこかで見た未来的な電脳的な戦車に似た物体だった。

 お名前はドラゴンホースとおっしゃる。

 ドラゴンホースだよ。


『おおーっです?』

『何です?』

『蜘蛛です?』

『バッタです?』


「えっと何かなこれ?」

「なんじゃ?」


 精霊化していないので人間にも見えるのだ。

 だがこれで終わりではない。

 俺はちび精霊を持ち上げ、ドラゴンホースの頭の部分におろす。


「合身!」


『しゃきーん?』


 出来上がったのは蜘蛛の頭の部分から人間の上半身が生えたような水人形だった。

 精霊と合身したことで自然とこれも精霊化する。


「でも姿は消さないで」


『了解船長?』


 軍曹どこ行った。


「なっ、なんじゃこりゃ」


 合身の影響で爺さんにも精霊のちび勇者が見えるようになっている。水人形は実態だから姿を消そうとしなければ見えるのだ。


「精霊さんだよ」


「何と、話には聞いておったが、これが精霊様か」


 精霊は信仰の対象です。


 でもこいつらを信仰とかして大丈夫か? という気はする。確かに善神だろうし、楽しいだろうけど、自然は恵みと被害をもたらすものだ。


 あっ、いかんいかん、ついまじめな話に。

 こいつらは友達だからいいのだ。


 続けて三体、アラクネ型多脚水人形戦車が完成して、彼らが足の車輪を利用してきゅいんきゅいんと草原をかける。

 そして見つけた薬草をどんどん採取してきてくれる。

 ものすごい効率だ。


 そして姉ちゃんは解析の魔法で薬草を調べ、一つずつ整理して記録していく。

 まだ姉ちゃんはあいつらとうまく意思の疎通ができないから俺は隣で通訳する。


『これはいいものです?』


「これはヒール草っていうんだって、薬草とは違って魔法のヒールみたいな効果があるんだってさ、飲むと怪我が治るんだって」


『痛いの痛いの飛んでけです?』


「こっちは傷薬草。塗り薬にするんだって、魔力をためる蓄魔草と混ぜて軟膏を作るとすごく傷が早く治るんだって」


 といった具合。


 ちなみに上の違いを解説するとヒール草というのは生命力を活性化する薬草でなんにでも聞くといわれているそうだ。煮出して成分を抽出。それに何やかや混ぜて、濾して、小さな瓶に詰める。

 つまり飲むポーションだね。

 戦闘中なんかでも飲むと止血、回復が始まるので緊急時の薬として重宝される。


 傷薬草は…なんかオトギリソウににているね。葉や根を乾燥させ、すりつぶして少量のヒール草とかを混ぜ、何やかやも混ぜ、軟膏〔透き通った緑色〕にしてきずに塗り込む。

 ヒールポーションのような即効性はないが、包帯などで傷をしっかり固定すれば大きな切り傷なんかもきれいに治る優れもの。


 蓄魔草は純粋な大地の魔力をため込んだ小さな実〔ごまみたい〕をつける草で、これを少量混ぜると薬の効果が劇的に早くなる。


 ほかにも虫下しや、月経不順とか、頭痛とか、皮膚病とかに効くいろいろな薬草が見つかった。


 そんで変な気配を感じて後ろを振り返ったら爺さんがぽかんと口を開けて唖然としていた。

 なんね?


「ぼ、ぼーぼぼぼぼ…」


「あっ、ごめん、俺その漫画知らないや」


 確かそんなのあったよね。


「違う! お前さんのその知識は…わしらの知らない薬草の知識だ…一体なんで…」


「なんでって、精霊は基本人間よりもずっと長生きだから、よくものを知っているよ。でも自分で何かを作ったりはしないから、これは人間が作ったものだと思うよ」


 もし、これが知らない知識だとしたら昔あって、今は失われたものなのかもしれない。


 爺さんはふら、ふら、ふらっと頭を押さえて大げさによろめきばたりと倒れた。


 ヤバイ、脳梗塞か! とか思ったら。


『健康です?』

『知恵熱です?』

『老衰までもう少しです?』

『ばんざーい? はにゃ?』


 やめなさい君たち。

 でもまあ、ショックを受けて気が遠くなっただけみたいだな。放っておいていいだろう。

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