第6話 粗暴な冒険者

第6話 粗暴な冒険者


「よーし、準備はいいか?」


「「はい。準備OKであります」」


「なんじゃおーけーって」


 むむ、通じなかった。

 姉ちゃんも首をひねっている。

 姉ちゃんってずっと俺と暮らしているから向こうの言葉を微妙に覚えてるんだよね。だから姉ちゃんとは違和感なく会話しちゃっているけど、うん、他の人と話すと普通に通じないことがある。

 気を付けよう。


 さて、これから俺たちは冒険に出る。


 とはいっても駆け出しの定番、薬草採取だ。

 もちろんというと変だが薬草を栽培する農家なんてものもちゃんとある。そこではけっこな種類の薬草が作られているらしい、だが中には栽培のできないものもある。


 栽培の条件が分かっていないというのだろうか。野生でないと十分な薬効が発揮されないとかだそうだ。

 そういのは冒険者ギルドに対して注文が出される。


 あまり割のいい仕事ではないが駆け出しの冒険者には安全で、そこそこ稼げる仕事だったりするのだ。


「まあ、初仕事と言ったらこれだろうからね、行っといで」


 と、ナナエさんがおっゃる。

 わざわざ出入りの薬屋から新人向けに依頼を取ってきてくれたらしい。


 薬草採取なんかは村でもずいぶんやったから得意分野だが、これでお金を得るのは初めて、しかも定石といっていい依頼。

 なんか胸が弾む。


「なんかわくわくするね」

「うん」


 姉ちゃんも同じらしい。


「こらそこ、甘いことを言ってはいかん。依頼に失敗すれば罰金が発生することもあるし、今回のテロテロ草は割と森の浅いところに生えているとはいえ、魔物が出てこないとも限らない。決して油断することなく取り組んでもらいたい」


「「さー、いえっさー」」


「あんだって?」


 あっ、また通じなかった。

 ちなみにこの微妙な軍曹みたいなことをやっているのはギルドの先輩で爺さんだ。引率だって。本当に子ども扱いだね。


 ■ ■ ■


「えー、いま私たちは幻の薬草。テロテロを求めて深淵魔境にやってきています」


 どっかのキャスター風にしゃべってみると姉ちゃんがくすくす笑っている。

 元ネタは知らないが俺はそういうやつだと思ってくれているのだ。


 引率の爺さんは俺たちを見て微妙な顔をしている。


 ふざけているっぽいから叱りたいけど、なんかほほえましいから顔が緩んじゃう。そんな感じだ。

 爺だしな。


 だが俺は油断はしていない。

 精霊さんたちが偵察に出てくれているのだ。


 その精霊さんから連絡がきた。

 前にも話したが俺と精霊たちは水の精霊界経由で話ができるので距離とか関係なく通話できるのだ。便利だなあ。


「軍曹どの。接近する人間を確認しました?」

「軍曹どのたちに対して微弱な悪意を発しているであります?」


 俺はいつから軍曹になったんだ。

 ひょっとしたら新人をしごきまくって『貴様らはこの世で最も劣ったくそ虫だ!』とか言わないとだめなのかな?

 あそこまで下品になれる自信がない。


 もしくはガンプラとか作りまくって仕事さぼるとか…うん、こっちならできそう。


 そして件の人間はすぐにやってきた。


「よう、爺さん、まだ生きていたのか?」

「もうとうに引退したと思ってたよ」

「墓の下でねー」


『失礼な冒険者が現れた』

 ▶戦う

  殺す


 ちょっと大げさか?


「あいも変わらず失礼なガキどもだ」


 爺さんが唸る!


 ちなみにこの爺さん隻眼だが普段は好々爺といった雰囲気なんだが、基本こわもてだからすごむと怖い。

 それに結構迫力というか鬼気がすごいことになっている。


「な…なによ…いつもは口答えなんかしないのに…」


 相手の冒険者は3人組。男一人、女二人だ。女二人は戦士と…シーフかなそんな雰囲気だが露出が多い。

 もうちょっと振り切れると痴女だなこれは。


 うちの姉ちゃん? うちのは家族の前で油断しているだけだよ。


「おっ、かわいい子発見」


 まあ、うちの姉ちゃんは美人だ。

 はっきり言ってクオリティーが違うのだ。


「ねえ、か~の女。君、新人の冒険者だろ?」

「ダメだよ弱小ギルドなんかはいったら」

「そうそう、うちにおいでよ。うちは『フクロウの森』っていうギルドなんだ。魔法が売りでさ、誰でも魔法が使える杖とかあるんだよ」

「君みたいなかわいい子ならすぐに上にいけるさ」


 かわいいと冒険者の実力がどうかかわるんだ?

 まあ、花があるみたいな意味では意味があるかもしれないが。


 そんなことを考えていたら冒険者の馬鹿がいきなり姉ちゃんの胸に手を伸ばした。

 姉ちゃん十二才だけど結構育っているしな。

 どうやらこいつは下半身からくるバカだったらしい。


 俺は水芸で迎撃。


 冒険者はおっぱいを揉んでいるつもりで俺の作った水の膜を揉んでいるのだ。

 そして姉ちゃんか一瞬遅れて魔法を展開。

 ものすごい呪文の構築スピードだ。

 だから俺が一枚防御をはさむのに意味がある。


「貴様!」


 じいちゃんも次に反応したが姉ちゃん方が早かった。



「ぎいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっ」


 男の手が燃えている。

 もちろん姉ちゃんは水の膜で守られてます。


「ギンちゃん!」


「あぢい、あぢいよー」


 こいつギンとかいうらしい。

 右手に火が付いたまま転げまわる男。

 女二人は火を消そうと…してないな。慌ててるだけだ。

 魔法得意じゃなかったのか?


 露出が多すぎるから火を消すのに布も使えない。


 まあ、魔法の火だから直に消える。


「きしゃまら、こんなことしてただでしゅむと…ぐご」


 泣きながら怒鳴り散らす男の顔に爺さんの鉄拳がぶち込まれた。

 後頭部から地面に打ち付けられて男はピクピクするのみとなった。


 女二人はおろおろして目を合わそうともしない。

 まさか反撃されるとは! みたいな?


「このガキを連れてとっととうせろ」


「「はいいっ」」


 ということで冒険者に絡まれる一幕はおしまい。

 

 あいつらはライバルギルドの冒険者たちだそうな。

 結構乱暴者が多いギルドで、でも評判は悪くない。


「うまいこと隠しているのさ。それに冒険者というのは粗暴な者が多いからな。実害がひどくなければあまり問題にならない」


 ということらしい。


 ふーん…という感じか。


「ほんと失礼しちゃうわね。私のおっぱいに触っていいのはカイちゃんだけなのに」


 それよりもこっちを早く何とかしないとだめなんじゃないか?

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