第2話 冒険者ギルド・月影

第2話 冒険者ギルド・月影


「さあ、ここだ」


 といって連れてこられたのはちょっと裏通りにある少し寂れた感じの店屋だった。

 ウエスタン風の扉を開け…たのはおっちゃんと姉ちゃんで、俺はというとキコキコ動く扉の下をくぐったりする。

 なんか楽しい。


「ほら、ちゃんとして」


「うん」


 やっぱりなりが子供だと情動が引っ張られるところがどうしてもあるんだよね。


 で、そんなやり取りをしているもんだから店の中の人が一斉にこちらを向いた。


 店は酒場のようだった。


 カウンターがあってその向こうにバーテンがいて、棚には酒が並んでいて、室内はシンプルなテーブルと椅子が並んでいて、そこで若者…というにはかなり老けているおっちゃんやおばちゃんが酒を飲んでいた。


「やあ、ショーン、どうしたんだい? 今日は仕事じゃなかったのかい?」


 そう声をかけてきたのはバーテン? それてもマスター?

 ちょっとくたびれた感じの男の人で、ショーンさんよりは年上だ。

 なんかヌーボーとした人で…でも隙がないように見える。


 そうそう、門番のおっちゃんはショーンさんというらしい。

 ここに来るまで自己紹介といろいろ説明を受けた。


「やあ、マスター、仕事は上がったよ。夜勤明けだったんだ」


「そいつぁご苦労さん」


 飲んでいる大人たちも気さくに声をかけてくれる。

 なんか雰囲気はいいね。


「それで、そっちの子供は? また迷子でも拾ったのかい」


「似たようなもんだ」


「おいおい、なんでもかんでも迷子をウチにつれてくるなよ。うちは孤児院じゃないんだぜ?」


 酔っ払いの一人が楽しそうに言うがショーンさんは全く気にしない。


「もちろんただの孤児ならちゃんと教会に連れていくさ、ただこの子たちは冒険者志望でね、それに縁がある」


 そういうとショーンさんは姉ちゃんから二枚の身分証を受け取ってマスターに示して見せた。

 そしてその瞬間マスターの顔色が変わる。

 目がキラーンと光る感じだ。


「ユウマの子供達か…」


 ガタンと音がして飲んでいた大人たちか立ち上がった。

 そしてみんなが俺たちの方に押し寄せてくる。


「おー、ほんとだ、この坊主はリコによく似てやがるな」

「何てこったい。そんじゃこの女の子はあの時の赤ん坊かい」

「ユウマになにかあったのかよ」

「馬鹿やろ、子供二人でくるんだ…わかりきってるだろ…ずびーっ」


 みんな父ちゃんたちの知り合いみたいだ。そして父ちゃんたちに起こったことを察して涙ぐんでてる。


「二人でここまで来たのかい? 大変だったろうに」

「ショーン、よくやった。よく見つけた」

「リコの導きだろうぜ。あいつは妙に要領のいい奴だったからな」

「あの子たちが守ってきたのかね…」


 俺たちはもみくちゃで、みんなが落ち着くまで少しかかってしまった。


■ ■ ■


「そうかい、そんなことがね…」


 俺たちは事情を話した。

 ほぼ全部。村で殺されそうになって逃げてきたことも。

 みんなかなり憤慨してくれていたが、はっきり言って捨ててきた村だ。どうでもいい。

 それよりも。


「冒険者になって稼ぐことの方が大事です」


 

と姉ちゃん。


「うん、そうだね。しっかりした子だ。お父さんに似たんだね」


「父ちゃん? あの人は全然しっかりはして…あっそうか。姉ちゃんの父ちゃんか」


「ありゃりゃ、口が滑っちまったかね、つまり二人とも知ってるんだね?」


 すんませーん、口が滑ったのは俺の方でした。俺ってば姉ちゃんか本当の姉ちゃんでないことを知らないことになってたんだよね。

 案の定、姉ちゃんがびっくりしていた。

 でも、すぐに持ち直した。カイちゃんは賢いから…で納得したみたい。

 ごめんね。


「二人ともいい子だ。頑張るんだよ」


おばちゃんはそういって俺たちを抱きしめる。

この人はナナエさんといってやっぱり父ちゃんたちの知り合いだ。


かなりの感激屋らしく、事あるごとに感極まって俺たちを抱きしめる。

母ちゃんと違って恰幅のいい(はっきり言ってビア樽)おばちゃんで、もう心配いらないよ。任せておきな。

といって胸をたたく。

このギルドの営業担当であるらしい。


 ほかにもここにいたおじさんたちというか爺さんたちはみんな冒険者で、父ちゃんたちの知り合いで、みんな丸くなって話を聞いてくれていた。


「おう、坊主、この子らの冒険者登録してやれや」


 なんてカウンターの中のおっちゃんをたきつける。


「わかってますよ。ほい、これがギルドの冒険者証だ」


「何だ、すでにできてたのかよ」


「まあ、剃刀だからな」


 剃刀? と姉ちゃんが首をひねる。


「おうよ、すっごい切れ者だからよ、あだ名が剃刀なんだぜ」


「まあそれでも俺らから見りゃ坊やだけどな」


 爺ってこういう生き物だ。


 さてこの人、名前はゴートンさんといって、この酒場を本部にする冒険者ギルドのギルド長らしい。

 父ちゃんたちと同年代で、父ちゃんたちが引退して引っ込んでからもここに残り、現在はこの【冒険者ギルト・月影】のギルド長を務めているのだとか。


 ここに来るまで知らなかったのだが冒険者ギルドというのはこの世界では『会社』のようなもので、ひとつじゃなくて複数あって、それぞれに冒険者が所属していて、それぞれに活動している。そういうものらしい。

 なのでいい仕事を取るのにも売込みとか必要だし、依頼の成果も一定の水準を保たなくては行けなかったり、戦利品の処分も担当者によって高くなったり安くなったりする。


 ナナエさんの営業って何かな? と思ったらそういうことなんだね。


 ちなみに月影は老舗で歴史は長いけど小さ目のギルドで、あまり羽振りはよくないらしい。

 でも地道に暮らしていくならいいところだと爺さん連中が言っていた。


 ゴートンさんも『それでもいいかい?』と聞いてくれたがもちろんいいのだ。


 俺は姉ちゃんと頷きあう。


 なんといっても雰囲気がいいしね。

 知り合いだしね。


 それに七歳のガキを抱えた十二歳の女の子を何やかや不問で入れてくれるところなんて縁故でもない限りないだろう。

 もしあったら姉ちゃんになにかよからぬことを企んでいるに違いない。

 たぶん。偏見だけど。


「よーし、こんでまた明日からたのしくなりそうだな」

「そうだな、冒険者のイロハは? 何、リコに教わった?」

「だが冒険者ってのは奥が深いんだせ、俺たちがちゃんと教えてやるよ」

「リコのことだちゃんと教えているとは思うがよ、ところ変わればってのがあるからよ」

「そうだな、この森の歩き方とか重要だぜ」


「「「「「よーし、今日は宴会だーーーーーっ!!」」」」」


 爺どもは宴会を始めた。


 俺たちはと言えばナナエさんに連れられてバーの二階に上がる。

 二階は下宿屋みたいになっているようで、ここに住めばいいと言ってくれたのだ。もともと新人にはこの下宿部屋を貸してくれるんだって。


 四畳半ぐらいの部屋だけど、新しい俺たちの家だ。


「うん、悪くないね」


 と姉ちゃんが言う。


「そうだね。いいね」


 と俺が言う。


 そして俺は家具や食器(といってもお茶の道具ぐらい)を出してもらって並べていく。


「いいお部屋です?」

「一国一城の主です?」

「イッコクカンの主です?」

「主って何です?」


 ステルスモードで普通の人には見えないが精霊たちが部屋に散ったせいで一段とにぎやかになった。


「とりあえず今日はもう寝ようか?」


「そうだね」


「ふふふっ、二人だけの時間だね」


 という姉ちゃんの足元を精霊たちが元気に駆け回っていた。

 姉ちゃんには見えているはずなのにどうやら員数外らしい。


「はい」


『おー、だいたん?』

『えろえろ?』

『スリーサイズが見事です?』

『だいたんすりー?』


 ちょっと危ない精霊たちをしり目に姉ちゃんは全裸になってちょっと足を開いて、両手を広げて、すっくと立つ。

 もう隠すところなど何もないというありさまだ。


 なんでこういうことをするかというと俺に身体をきれいにさせるため。


 水芸で操る水が姉ちゃんの体を包むように這いまわり、つま先の先から頭のてっぺんまできれいにしてく。

 もう全部隅々まで。素晴らしい水なのでシャンプー、リンス何のその見たいな効果なのだ。


 二人ときの時は昔からこれをやらせるんだよね。


 そりゃ前はさ、姉ちゃんも小さかったし、俺だって前世では妹とかいたからちっちゃい子の体を洗うようなつもりできれいにしてたけどさ、さすがに十二歳はまずいんじゃないかな?


 でも言えないのだ。


 それを言うと俺が姉ちゃんを女として意識しているみたいでね、俺は七歳のガキだし。


 姉ちゃんに次いで自分もきれいにすると姉ちゃんに布団に引き込まれる。

 なんかこの時は魔物に食われるような感じがするんだよな…

 なんでだ?


 でもいいか、今日も姉ちゃんは柔らかくて温かくて最高のお布団だった。

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