第2章

第1話 ヌテラの町に到着

 第1話 ヌテラの町に到着。


 ちょっと真剣な顔で言ってみる。


「私たちは今、ヌテラの町に来ています」


「・・・何やってるのカイちゃん」


 うーむ、キャスターごっこは通じなかった。

 突っ込み不在ってつらいんだよな~。


「わたしたちはいまぬとらにきています?」

「なぜです?」

「おなかすいたデス?」

「ぬとらってどこです?」


 ボケしかいないのってつらいんだよね。

 収拾がつかないし…


 まあそんなわけで俺たちはヌテラまでやってきました。

 最初は二日。かかっても三日と考えていたんだけどふたを開ければ一週間ほどかかりました。

 なぜならちょっと噂になりすぎたから。


 街道を疾走するまん丸イビルジェリー(?)はいかにも怪しすぎたのだ。


 下手をするとそのうち討伐体が編成されるレベル。


 そうでなくても見た人が腰を抜かして田んぼでおぼれかけるというような事件があったので、ボールローダーでの高速移動をあきらめざるを得なかったのですよ。


 残念。


 だが二日はそれなりに飛ばしたのでヌテラまで歩いても三日ほどの所まではこれで来てしまった。そのあとは歩き。

 田舎もんをなめんなよ! みたいな感じで大して苦にならなかったな。

 いろいろ魔法とかも使ったしね。


 で俺たちはいまヌテラの町の門に来ている。


「身分証はあるのかい?」


 門番のおっちゃんはこわもてだが優しそうな人だった。

 なんか歴戦の戦士みたいな風貌なのにしゃがんで目線を合わせて丁寧に対応してくれている。

 俺にはわかる。このおっちゃんは子供好きだ。


 なのでちょっと手をつかんでにへらッと笑って見せた。


 そしたらおっちゃん感動したみたいにぶるぶる震えていきなり抱きついたりして。


 困ったやつだ。


「きゃー、私のカイちゃんがー!」


 喧嘩勃発。

 困った姉だ。


 さて、おっちゃんが言うには町に入るには身分証が必要らしい。


「でも旅の人とかもいますよね?」


 おれは姉ちゃんに耳打ちして会話をさせる。


「ああ、行商人とかはいるよ。でも彼らは彼らでギルドの証明書を持っているんだ。ギルド証ってやつだ。こギルド証ってのは、ちゃんと税金、わかるか? 国に面倒を持てもらうためのお金を払っていると大体持っているもんだ」


 つまり身分証がないということはこの国には所属していない。という意味になる。不法入国者とか逃亡者とかだ。

 こういう人間は流民と呼ばれて、国の保護から外されている。


 つまり何をしてもいいということになるのだ。


 例えばここに数人の野郎がいたとする。

 そして美少女が流民としてここにいたとする。

 すると野郎どもは美少女をさんざん強姦して殺したりしてもいいし、壊れるまで玩具にしてその後奴隷として売り飛ばしても罪に問われたりはしないのだそうだ。


 おっちゃんは俺たちにそんな話をしてくれた。

 つまり姉ちゃんが美少女なので気を付けないといけないということだ。


 おっちゃんがいい人でよかったね。


 ただ俺たちぐらいの子供は身分証を持っていなくても不思議はないらしい。

 なぜなら税金を払うのは親だから。

 子供は親の持ちものとして親が責任を持つというのが常識のようだ。


「でも、うちは両親が先日魔物にやられて…」


 姉ちゃんは俺にしがみついて涙目である。

 姉ちゃんを泣かせるとは許せん。

 この場合許せない対象は国ということになるのか?


「だったらその親御さんの身分証を持っていないか? それがあればこの国の子と認められるからね」


 お役人さんにもいい人がいる。

 ことなかれ主義で画一的にダメダメというやつもいるのだが、中にはどうしたら大丈夫なのか一緒に考えてくれる人もいるのだ。

 このおっちゃんはそのタイプだな。


 そして俺たちは父ちゃんと母ちゃんの冒険者証を持っているのだ。

 生前父ちゃんたちが俺たちに見せびらかしてすごいだろう? とかやっていたからね。思い出に持ってきたのだ。

 グッジョブ俺!


 そして姉ちゃんがおずおずとそれを見せて…


「そんな…」


 なぜかおっちゃん愕然。


「坊主たちはユウマ先輩のお子さんたちか…じゃあ、君があの時の女の子か…」


 なんと、おっちゃんは父ちゃんたちの知り合いだった。姉ちゃんのことも知っているらしい。


「よし、身分証はこれで大丈夫だ。もうすぐ交代だから少し待ってくれ」


 そういうと俺たちを詰め所に通すおっちゃん。


「君たちのお父さんたちはこの町で冒険者をしていたんだ。俺も世話になったものさ、それに当時の仲間の人も多い。

 きっと力になってくれる。

 交代になったら案内するから心配するな」


 おっちゃんはどんと胸をたたいた。

 父ちゃんたちは死んでしまったけど、それでも俺たちはまだ父ちゃんたちに守られているんだなあ…


 なんて思った。

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