1-10 行動開始!

 1-10 行動開始!


 退場したはずの内股三兄弟も戻ってきてしまった。

 泣きながら三人が状況を説明する。


 曰く


『どうせいけにえとして死ぬんだからその前に思いを遂げようとした』


 と。


「つまり、状況はばれてしもうたんか…」


 そう言ったのは村長だ。

 なんかいやらしい感じの年寄りだ。

 その村長が顎をしゃくると大人たち。男ばかりだが、そいつらが周囲を取り囲むように移動する。


「仕方ない。明日にするつもりだったが、すぐにアイナを森に運ぶんじゃ」


「しかし村長、夜の森は…」


 つい前日魔物の衝撃があったばかりだ。夜の森は怖いのだろう。


「森奥まで行く必要はないんじゃ。あの熊がやってくる道は一つしかない。その道に娘を縛っておいておけばいい」


「それなら…」


「それから弟も捕まえておけ、姉を助けたりすると面倒だ」


「それなら一緒に縛っておいておけばいいんじゃねえですかね?」


「いや、もし冒険者が時間がかかるようならほかにも餌が必要になる」


 うわー、驚いだ。ものすごい身勝手なことを言っているよ。

 だがいいや、それならもう遠慮はいらないだろう。


「人でなし!」


 姉ちゃんは俺を助けようと暴れるが、さすがに十数人の成人男性が相手では無理がある。

 それでも引っかいたり蹴飛ばしたり噛みついたりで結構ダメージを与えているけどね。

 つよいぞ姉ちゃん。


 でも結局つかまって縛られてしまった。

 おれを悲しそうな目で見ている。

 だけど心配するな。すぐに助けに行くぜ。


 俺は強い意志を目に込めてじっと姉ちゃんをみて、そして頷く。

 伝わったのだろうか。いや、伝わった。

 姉ちゃんは情けない顔はやめて毅然と顔を上げた。


 そして紐で引かれて森の中に。

 俺は水精霊勇者チームに姉ちゃんに護衛を頼む。


『任せるです?』

『任されたです?』

『頼れる男です?』

『僕らは男です?』


 あー…こんなでも頼りになるんですよ。ほんと。


 そして俺は村の倉庫に。


 地下に彫られた小麦粉なんかを保存するひんやりしたところだ。

 お肉とかも保存されている。


「お肉あるじゃん。これ使えよ」


 と一応言ってみる。


「すまんなカイト。人間の味を覚えた魔物はまず何より人間を食おうとする。これじゃ駄目なんだ」


 あーなるほどそういうこともあるのか。


 そして俺は何か麻袋に入れられて縛られ、小屋に放り込まれた。つまり死んじゃってもいいぐらいなんだろうな。ここは半地下でひんやりしていて肉の保存とができるわけだし。


 まあ、おとなしくしているつもりはないけどね。


 ◆・◆・◆


 水芸というスキルをもらってすでに七年、精霊の協力を得て魔力を伸ばして六年がたった。俺の水芸はかなりのレベルになっているのだ。たぶん。


 上を見ればきりがないというのはあるらしいよ。精霊仙人の話だと極めれば水の中を、水に溶け込むようにして自由に動けたりするらしいし、水の精霊界とかいうところにも入れるらしい。


 さすがにそのレベルまではいかないけど、物理的なところは大したものなのだ。

 なぜなら俺には知識があるから。


 魔法に限らずこういったものはイメージとか常識とかに縛られるものらしい。


 つまり知らないことはできない。これがルールだ。


 だからこの世界の人は水を気化爆発させるようなこともできない。知らないから。


 高速で動く水が岩をも切断することも知らない。つまりできない。

 だが、俺ならできるのだ。


「というわけでウォーターナイフ」


 わざわざ格好をつける必要はないような気がするが、まあ気分だ。この方がやりやすいというのもある。


 俺の右手には水で出来たナイフがあった。

 単純な形の諸刃の短剣だ。


 水を短剣の形に整え、そのうえで水分子の動きをガッチリと固定する。

 水が結局は分子で出来ているという知識があればこれができる。

 氷よりもはるかに硬く、下手をすると鋼よりも硬い…かもしれない固定された水の塊。


 氷のような個体になるとそれは俺のコントロールを受け付けないんだけど、水を固定するのなら制御可能なんだよな。

 ここら辺も要検証だ。


 だが今は麻袋が切れればいい。

 ということで。


 すぱっ。


 わーい、剃刀以上の切れ味だ。



 そして。


「ハイパードリル!」


 俺の掲げだ右腕に水が集まり渦を巻く。

 それはもうすごい勢いで。

 岩すら切断する勢いで。


 俺はそれを床に向ける。


 硬質な水のブロックと高速の水の回転が床の土を削っていく。

 あっという間に俺が進めるぐらいの穴が開いていく。


 同時に水の膜が穴を抑え、崩れるのを許さない。

 まるでシールドマスィーンだ。


 俺はまっすぐ下に進み、ある程度いったら横に進路を変える。

 掘る掘るほるほる。ドリルは掘ってなんぼじゃ!!


 そして出たのは俺の家だ。


「ふむ、まだ手を付けてないみたいだな」


 あいつらのことだ、俺たちがいなくなったらこの家を壊して、使えるものは奪い取るつもりだろう。だが今はまだそこまでは気が回っていないようだ。

 ここで精霊仙人を呼び出す。


「じいちゃんお願い」


『おう、よんだかの~』


「うん呼んだ。この家にある荷物を全部預かってほしいんだ」


『ふむ、これをかね…まあ、お安い御用だ』


 精霊仙人はそういうと小さながま口を取り出すと家の中に在るものを父ちゃんたちの遺品はもちろん、食器や家具まで、まあ大したものはないんだけどどんどん取り込んでしまった。

 精霊のがま口というらしい。


 その先は水の精霊界につながっていて、精霊仙人の支配領域に荷物を預かっもらうという話なのだ。


「さて、あとは大量の水がいるんだ。たぶんものすごい量。ここで出せるかな?」


『ふむ、出せはするがの、やはり一度に出せる量には限りがあるのう』


「俺との合わせ技でも無理かな?」


『坊主が欲しがっている量となると朝までかかるな』


 うーむ、俺の水芸も水を呼び出すことができるわけだ。それも魔力量が増えてからかなり大量に。でもやはり一度にというのは無理だったりする。

 水道の蛇口みたいなものだ。時間単位の取り出せる量が限られるのだ。


「となると精霊の泉に行くしかないかな?」


『そうじゃな。それが早かろうな』


 よし、決まったら即行動だ。



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