1-8 突然のサヨナラ

 1-8 突然のサヨナラ。


『元気出すです?』

『ダメです?』

『頑張れるデス?』


 両親が死んだ。

 魔物の襲撃だった。


 俺と姉ちゃんは他の村人とともに荼毘に付され、煙になって天に昇っていく両親を送った。


 ・・・・・・・・・・


 この世界には魔物がいる。

 それは分かっていたけれどこの周辺の魔物は弱く、親父やおふくろの脅威になるようなものではなかったのですっかり油断していた。


 あの日、いきなり村が騒然として魔物の襲来が告げられた。


 村人も男たちは武器…といっても鎌や鍬だが…を持って魔物に対応するために出ていった。女子供は安全のために村の集会場に集められ、年寄りやおばちゃんなんかの肝の座った人たちに守られて震えていた。


 いや、俺たちは違うよ。俺たちの両親は最強だ! なんて思っていたりはしないけど、この辺りの魔物に後れを取ったりはしない。と信じていたから。


 村の周辺は頑丈な策でおおわれているしね、立てこもるようにして数を減らせばそうそう問題はない。と思っていたんだ。


 だが俺はうっかりしていた。

 魔物が大挙して村に押し寄せるには理由が必要だということを。


 やってきたのはハリマグロやツノウサギやスライムだ。


 例えば餌がなくなれば村に来るかもしれない。

 例えば森の奥で大量発生したとかね。


 多分そなものと思っていた。


 姉ちゃんもそうで集会場で俺を抱きしめ暢気に時間をつぶしていた。


 だけどそれは間違いだった。


 村の防衛線はあっさり破られ、柵が壊され、そして『ぐろろろろろろろろろろつ』とか言うものすごい唸り声が聞こえてきたのだ。

 大人たちがパニックになり、それでも子供たちを抱えて逃げようとし、俺も姉ちゃんに手を引かれて逃げ出した。


 魔物が押し寄せるもう一つの可能性。

 より強い魔物に追われて逃げてきた場合。


 襲ってきたのはシールドベアという巨大なクマだった。

 なんか冒険者でも少数で挑むのは危険な魔物なんだそうだ。


 ハリマグロやツノウサギが逃げ、それを追いかけてきた熊は村で新しい餌を見つけた。

 人間という餌を。


 逃げ惑う中俺たちは大きな熊と勇敢に戦う両親を見た。

 かっこよかった。

 分が悪いのは見てわかった。

 だが父ちゃんも母ちゃんも村のため、そしてきっと俺と姉ちゃんのために命がけで戦ったのだ。


 何とかクマに手傷を負わせ、追い返すことに成功した。

 だがその時には村の大人5人が犠牲になり、そのうちの二人は父ちゃんと母ちゃんだった。

 さらに言うと子供が一人犠牲になり、その子供は熊にさらわれてしまった。


 大惨事であった。


 ◆・◆・◆


 それから数日。村の大人たちは壊された集会場に集まってあーでもない、こうでもないと話し合いを続けている。


 結局のところこういう時は『冒険者』を呼んで熊を討伐してもらうしかないらしい。

 なぜなら人間の味を覚えた熊は何度でもやってくるから。


 子供たちのショックも大きかったようだ。


 夜中にいきなり泣き出して駆け回る子供とかもいるし、襲撃のショックでほ茫然としている子供もいる。

 ただ親を亡くしたのはうちだけみたいだ。


 これからの生活をどうするか…


 狩りとかは結構いけると思うけど現在の俺の年齢は七歳。七歳の子供が森に出かけて狩りをしてくるのはいかにも異常だ。

 そして十二歳の姉ちゃんと二人では農作業も思うに任せない…ということはないか。精霊たちも手伝ってくれるしどうとでもなる。


 だがその異常性が問題だ。


 だが今年はいいかな、農作物はちょうど収穫の時期だし、そのぐらいなら兄弟二人でも不自然さはない。


 というわけで俺は一人畑に出て収穫作業などをやっていたりする。

 水精霊勇者チームが手伝ってくれるから楽勝だ。


 姉ちゃんはまだ泣いている。


 気持ちは分かる。いくつになったって家族の死はつらいのだ。

 俺がこうして動けるのは…たぶん自分が一かい死んでいるからだろうな。

 なんか不思議に落ち着いている。


 実年齢は俺の方が下だけど、通算年齢では俺の方がずっと年上だから姉ちゃんのことはちゃんと守ってやらないとな。


 とそんなことを思っていたんだけど、姉ちゃんの方でも俺のことを守らなくちゃ。と思っていたらしい。


「ねえ、カイちゃん。私、村長の息子の所に嫁に行こうと思うの」


 青天の霹靂であった。


「姉ちゃん、どうして?」


「うん、二人きりじゃ暮らしていけないから…私じゃカイちゃんのこと守れないから…」


 つまり俺を養うために嫁に行くという決意をしたらしい。

 でも俺は言う。


「ダメだよ。姉ちゃんは冒険者になるんでしょ? もう十二歳だから町に行けば冒険者になれるよ?」


「でも…冒険者になってもすぐに暮らしていけるかどうか…」


「大丈夫だよ。力を合わせれば何でもできるさ。それに姉ちゃんが夢を諦めたら父ちゃんたちが泣くよ」


「!」


 父ちゃんも母ちゃんも姉ちゃんが冒険者になるのを本気で応援していたからな。きっと姉ちゃんがいやいや嫁に行ったらきっと悲しむだろう。

 自分たちが死んだせいで姉ちゃんが。なんてことになったら死んでも死にきれない。と思う。


 俺は姉ちゃんにしっかりと抱き着いた。

 いやね、ビジュアル的に抱きしめられればいかったんだけど、年齢差があるからさ、俺の頭って姉ちゃんの胸ぐらいまでしかないんだよね。

 でもおでこに姉ちゃんのおっぱいが当たってこれはこれで役得だ。


 姉ちゃん成長著しいから。


 姉ちゃんが落ち着くまでしばらく待って、それからご飯だな。

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