1-7 五歳になりました。

 1-7 五歳になりました。


 さらに時が流れた。俺はたぶん5歳になった。


 この世界の子供はみんな新年を迎えるときにまとめて年を取るようだ。

 数え年に似ているが決定的に違うのは『ゼロ歳』という概念があることだろうね。

 数え年だと生まれた年が一歳なのに対して、ここでは生まれた年はゼロ歳なのだ。


 多分俺が生まれたのは春なので満年齢も現在は五歳だと思われる。


 さて、五歳になると結構行動範囲は広がってくる。

 しかもここは農村のせいか五歳の子供も仕事があったりする。


 姉ちゃんはすでに一〇歳で一端に畑仕事などを手伝っていたりするのだ。


 ただこの村は他の村に比べると仕事は格段に楽だと思う。俺がいるから。


 水精霊と契約した俺は村の利水を整え、村が水に困らないようにしているからだ。

 おおっぴらにはしていないから村の人は『天の恵み』『精霊様のご加護』なんて喜んでいるがまあいいのだ。

 俺の所為とか思われると面倒くさくなりそうだからね。


 家族は知っているしね。


 その家族だが、俺の親父というのは昔、冒険者という仕事をしていたらしい。


 話をせがむとよくある冒険者という存在で間違いないようだ。


 ただなんというか…地味? うん、地道な活動が多く、華々しい活躍をするのはほんの一握りみたいだな。

 冒険者=魔物も狩るハンター。ブラス何でも屋。という感じ。


 おふくろと結婚して子供を持って、落ち着き先として選んだのが親父の生まれ故郷のこの『パタンガ村』だったということらしい。


 ここで畑を耕し、そして狩りなどをして家は暮らしている。


 村全体が農作物の出来がいいので割と豊かな暮らしをしていると思うのだ。


 後分かったことというと姉ちゃんが姉ちゃんではないということだろうか。


 姉ちゃんは親父たちの友人の娘だったらしい。

 一緒にパーティーを組んでいて、姉ちゃんの両親は魔物との戦いで命を落とした。


 それも親父たちの引退の一因であったようだ。


 あっ、もちろん俺が聞いた話じゃないよ。


 五歳にもならない子供にそんなことをいうのは頭おかしい。

 これは姉ちゃんが両親に聞いた話を俺が隣で聞いていたということだな。まあ子供だからわからないと思ったんだろうね。


 だがそれで何が変わることもなく、変わらずに家族として暮らしている。

 ただこの時から姉ちゃんの夢は冒険者になって活躍することになったみたいだ。


 水の精霊たちから主に精霊仙人から俺はいろいろなことを教わった。

 魔力の増やし方とか、魔法のコツとかだ。

 水芸のスキルは水との親和性が極端に高くなるらしく、俺は水以外の属性は使えないらしいのだが、理論は理解したのだ。


 そして姉ちゃんにもそれを教えた。


 わが姉ながら変な人で、幼児が言うことを真に受けて真剣に努力しまくった姉だった。

 その結果わが姉はちょっとした魔法使いになってしまったようだ。

 うん。


 俺ってば水限定という制限があるのだが、姉ちゃんにはそんな制約がなくて、どの属性の魔法も使えるようになった。


 そして母ちゃんは冒険者の時に魔法使いだったらしい。魔法にそこそこ詳しかった。

 おかげで現在姉ちゃんは『火』『風』『土』の初級魔法。『水』の中級魔法に加え、回復魔法まで使えるようになってしまった。

 うん、すごいね。


 水が高いのは水精霊の加護があるせいだろう。まあ俺つながりで。


 ちなみにその姉はものすごくきれいになった。

 清楚可憐な正統派の美少女だ。

 すごい美人だ。

 大事なことだから繰り返した。


 村の男どもが熱を上げていて、村長の息子なんかからすでに縁談などが来ている。

 だが両親は姉の『冒険者になりたい』という意向を優先してすべて断っている。


 男どもは悶えているようだ。


 まあ気持ちは分かる。


 美人だし、一〇才なのにオッパイもそれなりに膨らんできているし、腰は細くなってきている…いや、逆か、おしりが豊かになってきたのかな?

 すでに下の毛も生えてきている。


 なんで知っているかというといまだに俺が姉ちゃんの抱き枕だからだな。


 この地方は夜が寒いので寝るときは裸なんだよね。

 つまり姉ちゃんと裸で抱き合って寝ているわけだ。


 でも変なことはないよ。俺は五歳だし。


 それに結構五歳の子供のふりをちゃんとしているから誰も何にも言わない。


 でも最近思うんだよね。姉ちゃんって俺のこと好きすぎじゃないかな?

 なんかそんな気がする。


 ◆・◆・◆


 さて、今度は修業の話でもしようか。

 じつのところ俺は結構強い。強くなった。


 どのぐらいかというと…


「とりゃ!」


 どすっ。

 ずばっ!


 イノシシを一撃で倒せるぐらい。


「すごいね、カイちゃん。えらいね」


 イノシシをしとめた俺を抱きしめ、頬ずりしてキスして…姉よ、少し落ち着け。


 さて、このイノシシだかまあ地球の猪ぐらいだな。

 結構危険なんだよ、それでも。


 でも俺はワンパンで倒す。

 なんかかっこいいよね。ワンパン。

 ワンパン幼児だ。


 でも筋力などに頼っているわけではない。

 五歳の子供に筋肉なんか期待してはいけないのだ。ぷにぷになのだ。筋トレとかありえないのだ。

 それにもし筋肉がついても筋肉が肉体の成長の妨げになるのでよろしくない。


 俺の戦闘の力は水芸の力だ。


 俺はいつも水の気に包まれているような状態で、俺が動くと俺を包んでいる水気も動くのだ。

 この水気の動きが俺の体を支え、物理的な作用を作り出してくれる。なので飛んだり跳ねたりしても常に水気に支えられているようにバランスが保てているし、しかも動きに補正も入る。


 精霊仙人はそれを前提に俺に武術を教えてくれた。

 水を操り水を武器とする武術だ。


 精霊仙人のいうことは至極もっともで、長く存在をし続けてきた精霊というやつは本当にいろいろなことを知ってた。

 とても勉強になった。


 俺ってば見た目は幼児だが俺の鍛錬はとても見事なのではないだろうか?


 俺のパンチなんか所詮は五歳の子供のパンチで、まあ動きは“すぱっ”と行くのだが、それでもパンチは“ぽてっ”てなもんだ。


 だがそれに加えて水の気が追随するので攻撃力は信じられないぐらい高くなる。

 言ってみれば水で出来た強いハンマーで殴るような感じだろうか。


 動きのサポートとか、足りない力を補ってくれるところとか、はっきり言ってパワードスーツみたいなものだ。

 いや、むしろ機動戦士?


 なので俺はどう見ても五歳のぷにぷに幼児でありながら猪なんかとガチで戦える力を持つに至った。

 それどころか水を使った必殺技みたいなものまで使えるようになった。

 あと、サポート的な使い方もできたりする。


 あれやこれやには前世のオタク知識が役に立っていたりするのだ。


 素晴らしい。

 エクセレントを取り起こしてマーベラスである。

 よくわからないけど。


「おーい、カイト、そろそろ頼むよ」


「あい」


 俺は親父の呼びかけて水を呼び出す。

 呼べば水がやってくる。それが水芸。


 これは問答無用で水の事象に干渉できるすごいスキルだったのだと精霊仙人に教わった。

 水のを制御できるスキルだ。

 いや、もっと言うならば液体の動きと状態を制御できるのだ。


 唯一の欠点は問答無用であるがゆえに魔力の消費をしないこと。

 それの何が欠点かというかもしれないが、魔力というのは使わないと増えないのだ。

 そして水芸の制御力は魔力の制御力に比例する。


「つまりじゃ水芸のスキルを持つものの魔力は世界に広がり、水と同化する。それが水を自在に操る秘密なのだ」


 と精霊仙人は言っている。


「そうです?」

「賢いです?」

「年の功です?」

「先がないです?」


 と精霊たちも言っている。


 つまり魔力が多いほど制御力は大きくなる。だが水芸は魔力を使わないスキルだ。

 魔力は使えば増える。

 だが水芸のスキルを持っているとほかの属性の魔法は使えない。

 水魔法も自然と水芸に切り替わってしまうから水魔法で魔力を増やすことができない。


 なるほど確かに条件は悪い。


 だが今の俺の魔力はガンガン伸びている。

 なぜなら精霊と契約したために精霊たちが魔力を消費してくれるからだ。


「おいしいです?」

「好条件。三食昼寝だけです?」

「ぱわーあっぷ?」

「天下を取る日も近いです?」


 なんかダメなのもあったぞ。なんだよ昼寝だけって?

 三食昼寝だけ…うん、考えてみると素晴らしいかも。


 まあ、そんなこんなで俺の水芸の力でどこからともなく霧雨のような水が降りそそぎ、親父たちが耕していた畑を良好に湿らせていく。

 水の恵みの力に満ちた水だ。

 おかげて我が家は不作知らず。


 素晴らしい。

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