1-6 勝ち組?

1-6 勝ち組?


『おお、少年。水の力を持つものよ~。よくぞわしを顕現させた~』


「う(お…恐れ入ります)」


 その精霊はいかにも年経た仙人の風貌をしていた。

 まあそう作ったんだけどね。それ以上になんか風格があるんだ。


「に(しかし、なぜ勇者を?)」


 ザックザック耕したのでしょうか?


『うーむ、これに関してはそなたに頼みがあるのじゃ…まずそれには精霊とは何なのかを話さねばならない~』


 なぜそんな壮大な話になる?

 しかし俺のささやかな疑問は無視された。


 というわけで精霊仙人の話を聞きました。

 まあ、あっち行ったりこっち行ったりでわかりづらい話だったから俺がまとめようと思う。


 まず精霊というのは細かい粒子のような状態で漂っているものらしい。

 これが精霊たちの言う『手下』だ。

 

 この粒子のようなものが集まると情報処理能力を獲得して意志を持った精霊になる。つまり俺の周りで今はしゃいでいる連中だ。

 彼らは集合して形の成し、力を失ってはばらけ、また集まって個性を持つ。そういうことを繰り返しているらしい。


 だが長い間個を保ち続ける精霊は安定してさらに上位の存在になる。

 それが今目の前にいる精霊仙人のような精霊だ。

 【微精霊】【下位精霊】【上位精霊】という順序らししい。


 この上に【王位精霊】【神位精霊】とあって、ここまでくると神様としてまつられているらしいのだけど、本当に神様レベルの力を持っているらしい。天変地異とかね。


 で、精霊には精霊のルールがある。

 例えば等価交換のルールだ。


 精霊は自然の物であり、自然の中でバランスを保ちながら活動するのであって。一方的な搾取は許さない。ということだそうだ。

 精霊になにかをさせるときには『魔力』という対価を支払って精霊を従えるということになる。

 つまりこれが魔法なのだそうだ。


 となると俺の『水芸』とは何なのかという話にもなるのだが、これは俺自身が精霊のように水という存在に直接干渉できる力であるらしい。


『じゃ~が魔力を対価として払っておらぬのであまり大したことはできぬのじゃよ~』


 なんと、そんな制限があったとは。


『じゃが今そのことは一先ず置くのじゃ。問題はこの馬鹿がお前さんの作った水人形をかってにもらってしまったことにあるのじゃ~』


 そういうと精霊仙人はもう一人の魔法使いユニットをザクザクと耕しだした。

 他のはいいらしい。なぜならちゃんと俺の許可を取ったから。

 俺からもらったということになり、ちゃんと、将来的にお返しをする義務が発生するらしいが、まあ、貸しである。

 だが最初の二人は勝手に人形にとりつき、私物化した。

 これは等価交換の原則に反する。


 そう、等価交換は相互に守るルールなのだ。


 このままではルールを破った角により、この精霊二体は崩れてしまうことになる。分解して元の微精霊に戻ってしまうのだ。


『そ~ん~な~?』

『うっかりしてた?』


 疑問形だから他人ごとに聞こえる。だが二体の精霊は本気で焦っているようだ。


『こいつらはこんなだがそれなりに長い時を過ごしてきた精霊なのじゃ~。今失われるのは惜しいのじゃ~。ちゃんと自我を持った精霊は多ければ多いほどいいのじゃ~。というわけでこいつらを坊やの契約精霊にしてほしいのじゃ~』


 契約精霊であれば最終的な帳尻が合えばいいのであって、その途中で一時的に貸しが超過したり、借りが超過しても問題はない。ということらしい。

 まあ別にかまわんだろう。


『そうか~。かまわないのか~。残念じゃ~。精霊と契約すると精霊魔法が使えるようになるのじゃ~。お前さんの水芸と合わせればそれはいろいろなことができたんじゃがの~』


『こら爺! 契約してくれるって言ってるの?』

『これで勝ち組?』

『勝利にサインはV?』


『なんじゃと?』


 漫才コンビだ。


『爺も対価を払わないといけないの?』

『そうなの、それは普通より大きいの?』

『爺も勝ち組?』

『むしろカチコミ?』


 うん、まあカチコミに来たといえなくもない。


『わ~かっておる~。どうじゃ坊や、この体の代わりとしてわしが坊やに技を授けよう。精霊も儂ぐらいになると随分ながくデーターを蓄積しているからいろいろなことを知っておるぞ。

 精霊魔法は水魔法の上位互換。しかもみずを操って攻撃力に変える武術もあるのじゃ~。とってもお得じゃ』


『地獄の特訓?』

『それは負け組?』

『むしろ自殺?』

『推奨?』


 推奨するなよ。


『なんと~!』


 ずがびーんと精霊仙人が衝撃を受けた。

 そして再び耕しタイム。精霊って実体がないし、体はただの水だから平気なんだよね。たぶん。


『それは違う?』

『水の波動がダメージ増幅?』

『結構いたい?』

『覚えると攻撃力アップ?』


『なんだかとってもいい感じ?』


 いや、その扉は開きたくない。

 だがまあ、くれるというのだもらってもよいだろう。

 しかしちゃんと覚えられるのだろうか?


『問題ないじゃろう、水芸は出力の問題で大したことはできないが、精霊と契約すればべつものじゃ~。契約に従って魔力が渡されるからの~。どんな大魔法も大技も思いのままじゃ~』


 なんと、水芸が化けた!

 これで俺も勝ち組か!


『おめでとう?』

『勝ち組?』

『みんな勝ち組?』


『全部勝ち組? それ勝ち組?』


 合成の誤謬じゃあるまいし、そこまで広範囲じゃないよ。


 かくして齢一歳半にして俺は師匠を手に入れた。


 訓練の毎日は…結構地獄だったといっておこう。


 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●


 こんな感じでゆるーく進行するつもりです。

 まあ、偶にでも付き合ってあげてください。 

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