1-5 精霊劇場

 1-5 精霊劇場


 ぎゃーっ、へんなのが出たーーーーーっ。


 と思ったら俺の作った水の人形だった。

 構造はシンプルの一言。


 丸い頭部。つぶらな(単純なともいう)目とかまぼこ口。

 2.5頭身で手のひらも指もない単純な構造。

 自作の粘土人形みたいなやつだ。


 これ自体はいい。

 自分で作ったものだから。


 でもなぜか動いている。


「なんにゃ? (なんで動いているのかな?)」


『精霊だって動くです? 動いちゃいけないです? 我々にも動く権利は必要です?』


 おお、なんか手をパタパタさせながら講義している。むっちゃかわいいかも。


「せいれ? (精霊なのか?)」


『そうです? 精霊です? その一です? えらいです?』


 語尾が上がっているから全部疑問形に聞こえる。

 しかしこれは何だ? 本当に精霊なんてものが出てきたのか? それとも俺…寝てたりするか?


 ほっぺたをつねってみる。

 わーい。ぷにってしていてすっごくいい感じ。


『いや、そうでなくて?』


 的確な突込みが来た。

 本当になんなんだこの謎存在は。


 ■ ■ ■


「うー(つまり本当に精霊であると…)」


 うーむ、彼(彼女?)の話によるとこの存在は本当に精霊であるということだ。

 この世界には人間以外にもいろいろなファンタジー種族がいて、その中には半分霊体のような『精霊』と呼ばれる存在もいるらしい。


 どうもこの世界は思っていたより面白い世界みたいだ。


 精霊というのは属性があって、水の気が強いところには水の精霊が存在し、火の属性が強いところには火の精霊が存在する。

 だが普通の世界では精霊はそれとわかるほど集まったりはしないらしい。


『でもここはいいです? とても水の気が強いです? なぜです?』


 ひょっとして俺の水芸の所為だろうか?


『とってもいいです? ここちいいです? 頑張るです?』


 何をやねんといいたいが、とにかくいろいろであるらしい。

 精霊というのは常に力をふるうことを指向する存在であるらしい。

 それは世界を回す力であり、世界そのものの生命活動みたいなものなのだそうだ。


 だから精霊は目に見えないけれどそこら辺を漂っていて、雨を降らせ、風を吹かせ、火を燃やす。

 それは純粋な力の行使でありそこに善悪は存在しない。だから時には干ばつや津波のような災害になることもある。

 それはいろいろな属性の精霊の力がせめぎ合ったバランスの上に成り立つので、別にそれはそれでいいらしい。


 人間大迷惑。


「あー(で? その精霊が何で俺の作った人形になっているのかな? いるのかな?)」


『? 単なる気まぐれ?』

『そこに水の人形があるからです?』


 いや、そこに山があからだみたいに言われても…っていつの間にか増えてる!


 同じようなのがもう一匹増えてた。


 ■ ■ ■ そのころ


「あらやだ、うちの息子ったら精霊様と話し込んでるよ」

「おお、いいこっちゃ」

「えーん、わたしも混ざりたいーーっ」


 ■ ■ ■


 彼らはこの近くを漂っていた。

 そしたら強い水の気を感じだ。

 そしたらそこに水で出来た人形があった。水で出来ているくせにちゃんとした形があって安定している。こういうのは『依り代』としてうってつけであるらしい。


 本来精霊というは目に見えないもののようだ。

 属性の力が強くなると淡い球のように見えたりはするらしいが普段は見えない。

 ただ依り代があるとこうなるらしい。


「いくにゃー(しかしあまり可愛くないな。もう少しひねるか)」


 せっかくの家族以外の…というか人間以外の知性体と遭遇したんだ。この縁は大事にするべきだ。さーびすさーびす~。


 そしてふと気が付いた。

 人形を精霊にとられたからそれ以降は人形の維持に力を使っていないのだ。つまり精霊が憑りついたことでこの人形は人形として、否、精霊の体として確立したのではないだろうか。

 だったらもう少し造形に凝ってもいいのではないでしょうか?


 モデラー魂がうずくぜ。

 俺は『まっすぃーん』から『ねんプチ』まで何でもござれなんだよ。


 かくして精霊改造計画が始まった。

 はっきり言うと人形のバージョンアップだ。


「とーずー(とりあえず服を着せる)」


 水で服を作って人形に着せるだけだけどね。


「しー(シャツを作って~)うー(ズボンを作って~)」


 さらに髪の毛みたいなのをつけてみよう。

 できれば色も欲しいな。水芸で水に色を付けたり…あっ、できた。


 そこには体長20センチ弱のちびロイドがいた。ちびロイドとは生前にあったアニメなんかのキャラクターをスーパーディフォルメした動かせるおもちゃだ。


 一体目は素朴な青年風のちびロイドになった。


「あー(なんかかわいい)」


 俺は調子に乗った。


「ぼ…し(帽子を作って~ローブを作って~)」


 二体目は魔法使い風になった。

 三角帽子にひらひらローブ。手にはねじくれた魔法の杖。ザ・魔法使い。


『お?』

『おー?』


『なんかいいです?』

『僕も何か欲しいです?』


 素朴な青年風の精霊が手持無沙汰でおねだりしてくる。


「なー(簡単な鎧と剣でも作るか…)」


 というわけで一人目はなんちゃって勇者風になった。


『うらめやましいといっているです?』


 なんです『うらめやましい』って?


『仲間が集まっているです?』

『後二人です?』

『人形希望?』

『依り代希望?』


 かくして俺はクレリック風の人形と、格闘家風の人形を作る羽目になった。

 そして勇者パーティーが出現した。


 クレリックが攻撃魔法を叩き込み、魔法使いが肉弾戦をいどみ、勇者が回復魔法を展開し、格闘家が寝ている。


 ねえ、君ら喧嘩売ってる?


『売ってないです?』

『たまたまです?』

『偶然の一致です?』


 いや、そもそも一致ではない。


 しかし面白い。精霊ってこんなに軽やかな性格をしているんだね。

 せっかく勇者パーティーだから敵も必要だろう。


 魔王は…難しいから怪獣だな。

 といっても難しいのは無理だからスライムでいいや。


 かくして勇者たちと大きなスライム(といっても勇者たちの三倍ぐらい)の決戦が始まった。

 いたってのんびりした牧歌的な戦いだった。


 おやつ時には家族もやってきて軽く堅焼きパンなどをつまみながら勇者劇団の公演を見守った。


『これ希望?』

『所望いたす?』


 あれ? スライムが欲しいって?


『手下を取り憑かせるです?』

『つまり手下です?』


「うー(よくわからんけどいいよ)」


『わーいやったですー?』


 精霊の声と同時にスライムに光の粒が集まるような感じになって、そしたらスライムが俺の制御を外れて動き出した。

 勇者がそれに乗り込みぽよんぽょんと走り始める。

 ほかの精霊たちにせがまれて俺はさらに三体のスライムを作る。

 作った尻からねだられて許可を出したらやはり独立していった。


「あら、カイちゃんは精霊様の声が聞こえるのね。すごいわ」

「うーん、私には何にも聞こえないよ」

「うん、いいことだ」


 何がだ! というのは置いておいてこいつらの声は俺にしか聞こえてないようだ。

 こんなにやかまし…いやいや、姦しいのに。


 そして三人が仕事に戻っていったあと、精霊たちがまたお願いに来た。


『もう一つ人形所望です?』

『今度はちょっと大きくて、威厳のある感じでお願いです?』

『この辺りのリーダーです?』


 大なんか大物が来たらしい。

 といってもまだまだ俺が作れるのは単純な形のみ。

 それでも精いっぱい作ったよ。


 白いひげ、白いローブの仙人風だな。


「おおー勇者よ死んでしまうとは情けない~」


 そう言いながら精霊仙人は勇者を手に持った杖でザクザクさし始めた。

 カオスだ。

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