1-3 魔物が出た。戦闘になった。
1-3 魔物が出た。戦闘になった。
さらに時間が流れ、俺は(たぶん)1歳になった。
誕生日のお祝いなどはしないからよくわからないが、たぶんそれぐらいだと思う。
その証拠に俺は片言でなら話せるようになったし、ハイハイはもちろんよたよたと歩くこともできるようになった。
意識の方も大体明確だ。
でもやはり赤ん坊は赤ん坊だと思う。
精神年齢が高くても身体が付いてこないんだよね。頭の中では明確な思考ができてもしゃべろうとすると口や声帯の発達が不自由分で『にゃかへ…ちゃ(おなかへった)』とかになっちゃう。
しかし活動範囲かは確かに広がった。
なので冒険をするのだ。
と調子をこいてうろちょろした結果親と特に姉が心配して今は畑仕事をする親の目の届く木陰で木の幹に縛られている。
変な縛り方ではないよ。胴に紐を結んで動ける範囲を制限されているのだ。
『ふっふっふっ、この程度のことで俺を拘束できるとでも思ったのか』なんてかっこよくボースをきめて(すべて主観です)ロープをほどこうとしたら…ダメでした。赤ちゃんの指と力では全然無理。
『ふん、今日の所はこれくらいにておいてやろう』とかいっておとなしく紐の届く範囲で冒険をする。
最近は姉も仕事を手伝うようになったので一人なのだ。
でも俺のことが心配なのか、父ちゃんも母ちゃんも姉ちゃんも頻繁に木陰にやってきて水筒の水を飲んだりして、ついでにちょこっとだけ俺をかまっていく。
ああ、姉ちゃんは一度戻るとなかなか仕事に戻らないので母ちゃんに引きずられていく。
俺は我が家のアイドルだ。
うむ、大変によろしい。
なのでお礼として水筒に水を補給してあげよう。
大変おいしくていいお水である。
水筒は竹を切ったもので、時代劇で見るようなあれだが、近くにある湧水を組んで木陰においてある。
だが俺の呼び出す水の方がはるかにおいしいのですり替え済みなのだ。
「最近は水がうまいなあ…」
「ほんとね。水の質が良くなったのかしら」
なんて会話がこえてくる。
グッジョブ俺。
さて、ここで家族の紹介をしよう。
まず俺。俺の名前は『カイト』だ。
うーむ、前世と被るな。
ちなみにただのカイト。苗字はない。必要ないからだな。
姉の名前はアイナというらしい。現在6歳の黒髪のきれいなかなかかわいい女の子だ。
母親はリコというらしい。
父親はユウマだ。
母はともかくあの父がユーマというのはなんか納得がいく、新種の熊人間とかだったりして。
そして俺が住んでいる所は里山だった。
北側(かどうか知らないが太陽の反対側)に山があり、そこは山菜取りや狩猟の場となっている。
南はなだらかな坂になっていて、広々とした段々畑が作られている。
村の人口はたぶん100人はいないな。
残念なことにお米は作っておらず、小麦や野菜を栽培している。実りは豊かで自然豊かな里山の暮らしというやつだ。
空気はうまいし食べ物に不自由もしない。水はきれいだし暮らしは穏やか。なかなか良い環境だといえる。
不満点は風呂がないことか。
日本人には必須のアイテムなのだが、お湯を沸かすのはなかなか大変で風呂を沸かすのは困難なのだ。
いや、土にまみれて暮らしているのだから本当は入った方がいいんだけどね。
まあ湧水や小川もあり、きれいな水が使い放題なので身体を拭くのは十分にできる。それがせめてもの救いである。
さて、水となればスキルが気になるだろう。
スキルの性能は少しずつ分かってきた。
まず自由に動かせる。
自由に形を変えられる。
そして自由に呼び出せる。
とりあえずそんな感じだ。
なんだただの水芸じゃないかと思うかもしれないがさにあらず。
思っていたよりずいぶんとすごいスキルのようだ。
まず水というのは水分子でできている。
この一個一個を自由に動かせるわけなんだが、動かせるということは動かないように固定もできるということである。
物は試しと小さい棒を作ってみたが透明のキラキラした棒ができた。しかも石をたたくとコンコンおとがするぐらいに硬くなっている。
木をたたくと…コンコン…まあそれ以外はなんともならないのさ、なんといっても振るっているのが一歳児だ。
さて、めげてもいられない、それを発展させて人形劇などをしてみよう。
水を人形の形にしてそれを動かすのだ。
最初はスライムから始めた。
某人気ゲームのスライムのような形にしてそれを動かしてみたのだ。
超かわいい。
制御範囲は現在自分を中心にして一mぐらいはあるかな。
最初は単純な丸いのを一匹動かすのがせいぜいだったが次第に慣れてきて目をつけたり口をつけたり跳んだり跳ねたりできるようになった。
大きさも大きくなってきている。
水でやる芸だからこれこそ水芸だ。
ちなみに扇子…はないので水の棒の指すからちょろちょろと噴水したりもできる。こちらは伝統芸だな。
しかしこんなことで満足はしない。より複雑な形、より大きなもの、より多くのものに挑戦し続ける。
俺の挑戦は始まったばかりだ。
あれ、終わりっぽくなってしまったが本当に始まったばかりだよ。
さて他に報告すべきことというと…一つ特筆すべき事がある。
それは魔物。この世界には魔物がいるのだ。
神様(仮)のいうことにゃ自然は人間にとって脅威である。と言っていたが、魔物もそのひとつらしい。
この辺りに出るのは
大きさは30センチぐらい。前世のハリネズミを大きくしたような生き物で、気性は穏やか、人間を襲うようなものじゃない。
ただ害獣ではあり、放っておくと畑の野菜をみんな食ってしまう。なので討伐推奨の魔物ではあるのだ。しかも食用可。
ただなかなかに手ごわい魔物らしい。
背中側にびっしりと生えた短い針で武装し、戦闘になるとすぐに丸まってしまう。こうなると棒でたたこうと鍬で殴ろうとびくともしない。
しかも針はすさまじく鋭く、頑丈。ちょっと触っただけでも刺さる。ささる。ぷっつり刺さる。
あまり攻撃しすぎると怒って体当たりをしてくる。
まるで縫い針でできた剣山のボールをぶつけられるようなものだからかなり大けがをすることになる。
それでも戦わねばならないので村では毎年何人ものけがにんがでていたりする。
おとなしい動物は怒らせると怖いのだね。
ほかにもイビルジェリーとか言うのもいる。
これはまあ、スライムだな。クラゲじゃないんだ。でっかい甘食のような格好の魔物で、不定形で濁っていて地面を這うように進んで接触した生き物を取り込んで食べてしまう。
気性は…何も考えてないみたい。
ただ直進し、そこにある有機物を溶かして吸収する…まあ、原生動物みたいなやつだ。
だけどこれは襲ってくる危ないやつだ。
でも松明なんかで焼くと簡単に退治できるので問題なし。
ほかにはイムイム虫とかいうでっかい芋虫もよくでる。
これは恐ろしい魔物なのだ。何と食用だったりする。
食卓に並ぶんだぜ、三〇センチもある丸々とした芋虫が。
前世も含めて最大の恐怖だったぜ。
まあ、慣れればおいしい。
クリームみたいで離乳食にもつかわれる…うん、深く考えないでくれ…
この辺りは割と平和なエリアらしいのだけど、他の地区にはでっかいドラゴンとかも出るらしい。ぜひ見てみていものだ。
さて、そんなことをやっているうちに…え? 何をやってたかって? スキルの練習だよ。
ゆえに今、俺が動かすスライムの前にハリマグロが姿を現した。
基本的にはこいつは人間には興味を示さない。
草食だしね。
ただ俺が動かすスライムには興味を示した。
なぜだろう。
姿勢を低くしてスライムを威嚇するハリマグロ。おしりをフリフリする姿がかわいい。
対するスライムは何も考えていない風に“あほら~”とたたずんでいる。まあただの水だしな。
俺はかたずをのんで二者を見守った。
あっ、いや、スライムは俺が動かしているんだった。
ハリマグロは何を考えているのか?
自分よりも小さい生き物だから攻撃しようとか考えたんだろうか?
そしてついに戦いの火ぶたが切って落とされた。
勢いをつけてスライムにとびかかるハリマグロ。大きく口を開けて鋭い牙でスライムにかみつく! がスライムはただの水だ、効くはずもない。
なんか水の塊に頭から突っ込んだような形になってしまった。
「う゛(あっ!)」
これってそのまま仕留められるのでは?
俺は水を操ってハリマグロを包み込む、ちょっと薄いのでさらに水を呼び出して増量中。一〇〇%増利用中。二倍だよ。
「あ゛ーーーっ(おおっと、ハリマグロが果敢に暴れるもスライムは体積を増やして圧力を増していく)」
「うーーーっ(おっと、ついにハリマグロの足が大地から離れた! 水の球の中に完全にとらわれたハリマグロ、このまま終わってしまうのか!)」
「おーーーっ(もがく! もがく! もがく! ああーっと動きが鈍くなってきた。だんだん動きが。痙攣しているぞ! これはきまったか!)」
「あーーーっ(おっと決まった、ついにハリマグロダウン。口から空気を吐き出し、もはや虫の息、びくびくしているぅぅぅぅぅ。ガックシ! きまったー! スライム勝利!)」
「おーーーっ」
俺は座ったままぺちぺちと拍手をしました。
「いったい何が…」
あっ、やべっ、気が付いたらいつの間にか家族がそろって見てたわ。うん、バシャバシャやったからな。
スライム解除。
スライムは水に帰り、スーッと地面にしみこんでいく。
「あんた。水の精霊様よ。水の精霊様がカイトを守ってくださったのよ」
「そうなの? すごーい」
「うーむ、この子は水に愛された子かもしれない」
あっそういう方向に行っちゃうんですか。そうですか。
まあ、いいですけどね。
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