⑪バンドウイルカ

完璧な演技

フレンズのイルカショーはパークでもとても人気の演目である。席が1分足らずで埋まってしまう程だ。


パーク閉園後。


イルカのフレンズの元に調教師が訪れた。


「バンドウイルカ」


「...はい」


「今日は調子悪かったのか?」


「全然、大丈夫です」


「客の入りが悪かったなぁ、今日は」


「多分、雨だっだから...」


そう言うと、調教師は隠し持っていたスイッチを押した。


「ああああああああああっ!!?」


水槽に電流が流れたのだ。

これはあの調教師が密かに設置した機械から流れる。もちろん、あの調教師以外は操作できない。

カラダに影響はないが、チクチクして嫌いだ。


「それは君の演技が劣っている証拠だ。

雨だろうが雪だろうが隕石だろうが、

君の演技が素晴らしければ客が来るはずだ」


彼女は察した。

今日の“ノルマ”をクリア出来なかったのだ。

1日に一定数の客を集めなければいけないという決まりがあり、それに満たない場合は特別指導を受ける。


バンドウイルカに“だけ”、それは行われていた。


「1000人のところが、今日は800人しか来ていない」


例え、客が少なかった原因が天候のせいだろうが、それは全て自分の責任にされる。


「申し訳ありませんでした...」


そう謝ると、指でジェスチャーされた。

ここの水槽を出て、特別指導の為だけの場所に移動するのである。




「...入れ」


緑色の水。綺麗とは言えない。

鼻をつくにおいもする。


「...」


イヤだけど、入らなくちゃ。

調教師は小型のビリビリを持ち歩いている。

言うことを聞かないと首筋に衝撃が走る。


「そこで演技してみろ」


彼は遠くの方に下がる。

私は文句も言えず、汚い水の中で普通に演技をする。


水の中はヘンナモノがうようよ浮いている。


気持ち悪い。気分が悪い。


でも、そんな事言ったら、もっと指導される。

我慢して約5分の演技を終えた。


「上がってこい」


言われたので梯子から水から出た。

彼はマスクをしている。


乱暴にバケツから生魚を投げつけた。


「食えよ、ご褒美だ」


青々しい魚だ。


こんなものより、じゃぱりまんの方が美味しい


「食えよ」


私は落ちていた魚を拾って食べた。


ヌメヌメしてる。血の味がする。


フレンズになる前の私は好きだったみたいだけど、今は好きじゃない。


背中をちょっと齧っただけで充分だった。


「どうした?」


「...あの」


「何だ」


「...じゃぱりまんじゃダメですか」


「....」


場の空気が凍てついた。

彼はどうするのか。


怖くて怖くて、心臓がドキドキしていた。

彼の取った行動は、意外だった。


「これ、誰だかわかるか?」


彼が見せてきたのは、一枚の写真だった。

それは、先月生まれたばかりの新しいフレンズだった。


「...マイルカ?」


「そうだ。彼女は非常に優秀だ。

雨の日でもノルマを余裕で越している」


折り畳んだA4の紙を開き、私に見せた。

上には数字、下には棒グラフ。


「君は、後輩に負けたんだ」


「...」


「劣等生だ」


「...」


なにも言えなかった。

言葉の意味がわからないんじゃない。

意味なんて彼の表情と、言い方からなんとなく

感じ取れる。


「君の時代は終わった。腕を出せ」


言われるがまま、腕をゆっくりと出した。


カチャッ、と手錠を嵌められた。


「よし、偉いな」


今度は彼はじゃぱりまんを取り出した。


「えっ」


「食べていいぞ」


私は彼の持つじゃぱりまんを口で齧った。


「遠慮するな」


手錠をされたまま、差し出されたじゃぱりまんを食べるという奇妙な状況が続いた。


私はじゃぱりまんを3つ程食べた。


まともに食べたのは久しぶりだった。


「さ、これが最後だ」


彼は私の腰に鎖を巻いた。


「...これ、どういう...」


「じゃあな」


彼は私の頭を優しく撫でた。


「え...」


次の瞬間、私は彼に肩を押され、突き落とされた。


待ち受けるのは、汚水の池。







くさい。きたない。気持ち悪い。

緑色で、なにも見えない。


地上に出なきゃ。


…….。


上にあがれない。


私は腰に巻き付かれた鎖を思い出した。


先端に重りが付いてるんだ。


池の底に、私を引きずり込もうとしてるんだ。

手錠もされているのでもがくにもがけない。


ただただ、地に落ちるしかない。


水に住むフレンズも、長く息が出来るわけではない。水中で呼吸する際にはサンドスターを消費する。


じわりじわりと、時間が経てば、命を削られる







きもちわるいよ....。






こわいよ....。






くるしいよ....。






くるしい....。






誰か....。






頭が....。






痛い....。





ごめんなさい.....。





...........






...













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虐ものフレンズ2 みずかん @Yanato383

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