⑩ギンギツネ&キタキツネ

ふたりのきつね

「…ちゃん!!…起きて!おねーちゃん!」


「…ん?」


顔を横に向けるとキタキツネがいた。


「なに?」


「なに?じゃないよ!ボクたち実験体にされちゃうよ...!」


不安な顔を浮かべながらそんな事を口にした。


「え?一体何が...、えっ?」


自身の両手足がテーブルに括りつけられ、一切の身動きが取れなかった。


「い、一体どうなってるの!?」


「お客さんだよ...!ボクらと仲良くゲームしてくれた...。あの人が淹れてくれたオレンジジュースを飲んで、それから眠くなってさ!」


キタキツネの話を聞き、自分もその時の記憶を思い出した。


「まさか...、あの人が!?」


「絶対そうだよ、それ以外ありえない」


その時だった。


「申し訳ないね、君達」


2人の体が同時に震えた。


30代後半ぐらいの、白人で茶金色の髪、鼻は高く、引き締まったスーツを着こなした男だ。


「私はとある国の軍で医者をしている。

我が国はサンドスターによる医療改革を求めている。協力してもらおうか」


彼は強引に話を押し進めた。


「さっさと始めよう。新鮮なうちがいいだろう」


「や、やめて!」


ギンギツネが訴えるが案の定、聞き入れられる訳がない。


「お、おねーちゃん!!」


見ると彼女の傍らに何本もの管が用意されている。


「ちょっと!!あんたたちやめなさいよ!!」


今すぐにでも止めさせたかったが、動きを封じられた身で出来ることは、限られた事だけだった。




「い、痛い!!」


横で苦痛な声が聞こえる。


「あぁぁぁ....!!あぁっ...!!」


キタキツネの血が機械によって吸いとられ、タンクの中に溜まっていく。

その量が増える度に、彼女は苦しそうに息をする。その声を聞いているだけでも、ギンギツネにとっては十分な拷問だった。


(ごめんね...、キタキツネ...)


どれだけ力を入れようとも動かない。

妹分一人も守れない自分の無力さに、ただただ、うちひしがれた。


ガラガラと車輪の動く音がした。


キタキツネの所にある装置と全く同じ機械が自分の所にも運ばれてきた。


「一体なんの実験をするの....」


「血液をトレードする実験です」


彼は意外にも素直に答えた。

しかし、そんなことをする意味がわからない。


「うっ....っ....」


3本程の針を腕に刺される。

吸引器の音が響く。


「あっ...、んっ...」


確かに、キタキツネが悶えていた理由もわかった。我慢しているが、刺されたときよりも痛い。額には冷や汗が浮かび上がっていた。


次第に意識が朦朧とした。


血が足りず貧血状態になっているのかもしれない。


眠るか眠らないかの境目くらいの時に、機械の音は止まった。


(...終わった)


ただ、これは小休止にしか過ぎなかった。

今度はキタキツネの血を自分に入れられるんだ。


また嫌な機械の音がなった。


頭も痛いし、気持ちも悪い。


「いたい...いたい...いたいよ...おねぇ...」


弱々しいキタキツネの声が聞こえる。

『私も痛い』

そう言いたかったが、


「大丈夫…、大丈夫だからね……」


不安を押し殺し、一握りの希望に全て託した。


血の交換実験は小一時間で終わった。

まだ頭は痛いし、自分が誰だかも、忘れていた。


紙とペンを持った人間が忙しなく動いていた。


「今日はこれで経過観察をしよう」


空耳かもしれないが、そんな声が聞こえたような気がする。





私はそのまま、眠ってしまった。

そして、最悪の目覚めを迎えてしまった。


「ハァ...ハァ...ハァァ...」


キタキツネがまた苦しそうに息をしていた。

何事かと顔を向けると、そこにあったのは...


「ど、どうしたの!?」


「お、おねーちゃん...っ...かゆいよ...」


彼女の顔には赤い湿疹が出来てとても見苦しく、痛そうだった。


「かゆい...フゥ...、かゆいよぉ...」


悲しげに訴える声を聞く度、心が苦しくなった。

そこに、白衣にマスクを付けた人物が2人やって来た。


「助けて!キタキツネを助けて...!!」


ダメかもしれないが、その人達に、必死に呼び掛けた。



「ああぁぁぁぁぁ...!!」


また何やら彼女は注射を射たれた。


「....」


私は黙った。

もしかしたら、特効薬かもしれない。


「うっ....、うっ....」


そうではないみたいだ。

苦しそうに、泣いている。


どうしてキタキツネだけが、こんなに辛い思いをしないとけないのか。


(...あれ?)


...ふと疑問に思った。


前に私とキタキツネの血液を交換したはずだ。


私の血がキタキツネに適していなかったとすると、私の中に流れているキタキツネの血も適していないはずではないか?


私の身体は痛くも痒くもない。


何故異常が出ないのか?


その疑問は研究者達も気付いていた。







2人は拘束されたまま、手術室へ運ばれた。

ギンギツネは、キタキツネの為なら自分が死んでも良いと思っていた。


自分の臓器を...。


しかし、彼らにとっては彼女たちは使い捨ての実験道具にしかなく、人権なども全く無いのだ。


服を躊躇なく脱がされる。


麻酔も打たれず。


メスで皮膚を裂かれる。


「あ゛あ゛っ゛...!!!」


なんども、なんども。


このまま臓器をえぐり出させるんだ。


でも何故だろう。


嬉しい。






キタキツネが助かるなら...。










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