第7話「文化祭 下」
月曜日から木曜日まで放課後は文化祭の準備をする。
と言ってもほとんど終わってしまったが。
あとはデザイン係がわたがしのイラストを完成させれば終了だ。
隣のクラス、要するに三木とかがいるクラスはプラネタリウムをやるそうで準備に手間がかかっているらしい。
俺は楽でよかった。
「七城、助かったよ。本当に助かった」
「俺はなんもしてねえよ。わたがし機のレンタル会社に学校の予算で貸してもらえませんか?って聞いただけだ」
「そうかもしれないけど、あんたがやんなかったら誰もやらなかったから。ありがとね」
三木の彼女、三山に礼を言われる。
俺は今年の文化祭を失敗させるわけにはいかないのだ。
なぜなら榎本が来るからだ。
昨日電話で「楽しみです! わたがし食べたいなあ!」と榎本が楽しみにしていたからだ。
「榎本さん来るんでしょ。ちゃんと紹介してよね」
「わかってる」
三山はまだ榎本の写真しか見たことがない。
きっと声がかわいいことにも気づいてびっくりすることであろう。
ライン、と音がなった。
うん。これは榎本ではないな。
思ってからスマホを見ると予想通り榎本じゃなく、三木からだった。
『七城様、準備が一向に終わる気配ありません。手伝い来てください』
なるほどな。
「三山、あとは頼むわ。三木のところ手伝ってくる」
「わかったー。あいつのことよろしくね」
「はいはい」
俺は教室を出て隣の教室に入る。
「シチエモン、待ってたよ〜!」
ドラえもんみたいに言うな。
「手伝い来た」
「本当に助かる。恩に切る!」
「いいよいいよ。で、こいつらは何してるの」
俺は教室の隅で倒れ込んでいる奴らに指を指す。
「疲れて動けないだとさ。使えねえ奴らだよ」
俺はその使えねえ奴らに話をかける。
「ちゃんと運動してねえだろ。だからこうなるんだよ」
俺が言うと熊谷が言った。
「うるせぇ! 俺は家でわたしのパンツはお兄ちゃんにしか見せません! っていう今期の最強アニメを見るので忙しいんだよ! 運動なんかしてらんねえ! だよな! お前ら!」
「そうだそうだ! おにパン最高!」
熊谷が言い始めると周りの奴らもそれに乗っかる。
おにパンと略すのか。それだとお兄ちゃんのパンツって意味になりそうだけど言わないでおこう。
「お前らはもう動けないのか?」
「オレたちが準備してるのは今日だけじゃないんだぞ!? 毎日毎日重いダンボール運んで運んで、筋肉痛になるに決まってるだろ!」
それを聞いて三木に聞く。
「だそうだ。重労働なのか?」
「ちょっと厚みのあるダンボール運ぶだけだぞ。重労働な訳あるか」
「こいつらはもういいや。三木、ダンボール運ぶの手伝うわ」
「助かる! なんか奢るわ!」
「水でいいよ」
そう会話を交わして一階に行き、ダンボールを10枚ほど持ち3階に上がるを何十回か繰り返す。
「終わった!」
「終わったな」
あとは準備だけだ。準備はあのオタク連中にやらせればいいだろう。
「あとはあいつらにやらそ。俺は疲れた」
三木も同じことを考えていたらしい。
「もういいよ七城、ありがとな」
「おうよ」
言って自分の教室に戻ると三山しかいなかった。
「あれ? 他のみんなは?」
「帰ったよ。もうやることないしね」
そっか。終わったら帰っていいのか。
「じゃあお前は何で残ってるんだ?」
わかりきったことを聞く。
「三木待ってるの。待っててって言われたから」
お幸せそうでなによりです。
「そういえば、前に言ってたトラウマはどうなの? 治りそう?」
「んー。わからん」
言うと三山は真剣な顔をして言った。
「待ってる側って結構辛いからね。あんたもその子のこと好きなら早く何とかしなさいよ」
「わかってる。なんとかするよ」
そう返して教室を出て駅に向かった。
電車に乗って音楽を聴いていると通知が来た。
榎本かな。これは。
予想通り榎本だった。
俺はエスパーになれるかもしれない。
『聞き忘れてたんですけど、七城くんの文化祭って招待券とかあるんですか?』
うちの高校にはそんなものない。
文化祭の日は言ってしまえば不審者でも入れるレベルで緩いのだ。
ないよ、と打とうとしてやめた。
消して書き直す。
『あるよ。いつ渡せばいいかな?』
『いつでもいいです!今からでも!』
『じゃあ今からでいいかな?』
『はい!じゃあ駅で待っときますね』
『うん。着くときラインするね』
榎本が了解! スタンプを送ってきた。新しいスタンプに変わっている。
スマホを閉じ音楽を聴いているとすぐに駅についた。
到着! スタンプを送って電車を降り改札をでる。
「七城くん!」
俺に見つけると目を光らせながら走ってきた。
「久しぶりです!」
「久しぶりってほどでもないけどね」
最後にあったのが日曜で今日が水曜だから言うて3日だ。
「いや、3日は久しぶりに入るのか」
「わかりません。でも会いたかったので久しぶりです!」
榎本は笑顔で言う。
いつも思う。本当にかわいい。
「そうだ。夜ご飯は食べた?」
「食べました。あ、今日クレープ屋さん閉まってます」
先読みされたように言われた。クレープを食べようと思ってたのに。
「じゃあ、ちょっと歩かない?」
「いいですよ。歩きましょうか」
駅を出てから向かったのは榎本の家から真逆の方に歩いた。
まっすぐ歩いて、道路を渡って曲がること約20分、土手に着いた。
「夜ってこんな感じなんですね」
川は道路の光を反射している。
電灯の光も反射して、キラキラ輝いている。
「こっちにまっすぐ歩こっか」
「はい! 歩きましょう」
横並びに歩く。
「なんかいいですね。夜に2人でこうやって、土手を歩くって」
よかったか。とっさに思いついただけだったんだけどよかったらしい。
「そっか。榎本」
言いながら俺は手を榎本の手に近づける。
「はい」
榎本は俺の手を交わるようにして握った。
「やっぱりいいなあ。七城くんの手」
「そんなに?」
「はい。触ってるだけで幸せです」
そんなことを言ってくれるのは榎本だけだ。
恋人繋ぎをしながら歩いていると自販機が見えた。
「なんか飲む?」
俺は財布を取り出しながら言った。
「じゃあミルクティーで」
「おっけ」
俺はミルクティーを買って榎本に渡した。
女子はみんなこういう時ミルクティーを選ぶのかな。あいつもミルクティーだったな。そういえば。
「ありがとうございます。ご馳走さまです」
「いえいえ」
自分の分のミルクティーを買いながら言う。
「熱っ」
「猫舌?」
「はい。猫舌です」
彼女はへへ、と笑って言う。
そっか。一応覚えておこう。
熱いミルクティーを飲みながら俺たちは歩き始めた。
会話は今日の文化祭の準備であったことを話した。
「たぶん、七城くんとその三木さんって人が体力お化けなだけですよ。私も階段登って下ってダンボール運ぶのは無理です」
「榎本は女の子だろ。男がそれで音をあげるのは情けなすぎでしょ」
「そうですね。でも七城くんが力持ちってのはわかりました。また1つ七城くんを知れました」
んっ。この子は男をドキドキさせる達人か。
「俺のこと知っても得はないけどな」
「好きな人のことならなんでも知りたいですよ」
……この子は俺と考えが似ているのかも知れないな。
「そっか。じゃあバンバン俺のこと知ってくれ。嫌いになっちゃうかもだけど」
「悪い部分含めて全部すきになりますよ。私は」
榎本は笑って言う。
俺も笑って言う。
しばらく歩いて曲がり、まっすぐ行って榎本の家の通りについた。
「ここに着くんだ。七城くん道に詳しいですね! 私でもこんな道知らなかったです」
「中3まで俺も篠水に住んでたからね」
「そうなんですか!?」
そっか。話してなかったか。
「じゃあ小学校はどこですか?」
「篠水小だよ」
「同じじゃないですか!」
同じだったのか。
「私は中学から女子中に行ったんですよ」
「そっか。俺は篠水中だったな」
「私が女子中行かなかったら篠水中で七城くんと同じだったんだけどなあ」
榎本は拗ねて言う。
「でも、こうして会えたじゃん」
「ふぁあああああああああああ」
でた。榎本は最大レベルで照れるとこうなるのだ。
「そ、そ、そうですね。会えたんですもんね。結果的に」
「うん。出会えてよかったよ。本当に」
「私も七城くんに会えてよかったです」
お互いに言い合って榎本の家に着いた。
「じゃあね。次は文化祭で」
「はい。あ、チケット!」
榎本は手を出す。
「ごめん、うちの文化祭は招待券とかないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。ただ会いたかっただけなんだ。ごめんね」
「いえいえ! むしろ嬉しいです。私なんかに会いたいために嘘ついてまで……やっぱり好きです」
「私なんかとか言うな。榎本はかわいいしいい子だよ。じゃあね。文化祭で待っとくね」
「はい。絶対行きます!」
「うん、じゃあ」
「はい。じゃあ、また」
と彼女は悲しそうな顔になった。
今日の夜空は雲で何も見えない。
しばらく彼女は俺を見送っていた。
ちょくちょく後ろを見ては彼女は笑って見ている。
振り返るたび手を振る。
いつもそうだった。
別れの時は悲しそうな顔をするのだ。
どうにかして笑顔にできないだろうか。
進むにつれ暗闇が深くなり彼女は見えなくなった。
別れる時は、彼女の笑顔が見たい。
そう思いながら俺は家に帰った。
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昼の13時。
電車を降りて学校に向かう。
今日は木曜日。
つまり明日は文化祭初日なのだ。
最終準備とやらをするらしい。
教室に入り座る。
「七城来たんだ。来ないと思ってた」
「なんでだよ」
「だってもう準備終わってるじゃん」
「欠席になるだろ」
そう返して担任の角田を待つ。
しばらくして角田が入ってきた。
「明日は文化祭初日です! 皆さん張り切って準備をしましょう!」
担任の角田の掛け声に返す者は居なかった。
みんな乗る気ではなかった。
普通、文化祭というのは生徒が全員盛り上がる物だと思っていたが、俺の高校は違う。
ほぼ全員めんどくさがりなのだ。
俺は教室を出て三木のクラスに向かった。
「準備はどうだ?」
「バッチリだぜ!」
三木の教室は真っ暗だった。
「あとはこのスイッチを押せば」
三木が押すと、天井に星空ができた。
「すげえな。よくできてる」
「今のホームセンターは便利な物ばかり置いてるからな」
三木は胸を張って言う。
「お前らのクラスはどうだ? わたあめ」
「機械届いてすぐセッティングしたからもう終わってる。だからお前を手伝おうと思って来たんだ」
「そうか。でもこっちも終わったから問題ないぞ」
「そっか。ならよかった」
俺はそう言って自分の教室に戻る。
「思ったより準備が早く終わりました。よく頑張りました皆さん! 準備終わり次第解散となっていますので、もう帰っていいですよ」
なんだこの緩い学校は。
俺はリュックを背負い学校を出た。
校門を出るとき、見たくない人物を見た。
「明日文化祭だねー!」
「楽しみ!」
女子2人組の中の1人。
最初に「明日文化祭だねー!」と言った人物だ。
彼女の名前は花川鈴華。
茶髪のロングで背は小さい。
俺の高校は3部生で、1部は朝から、2部は昼から、3部は夜から。
彼女は2部の子で、俺の元カノだ。
俺はバレないように素通りをする。
横を通り過ぎる時に嫌でも目が合ってしまった。
俺は足を止めず、まっすぐ歩いた。
後ろからはこう聞こえてきた。
「最悪。あれ私の黒歴史」
「そうなの? いい彼氏だと思ったけどね」
「あんなの男じゃないよ。忖度ばかりだし無理きもい」
そっか。
忖度ばかりか。
遠くなって会話は聞こえなくなった。
が、頭の中で聞こえた部分が再び再生される。
「私の黒歴史」「忖度ばかり」「無理きもい」
はぁ。
確かに忖度は多かった。
でも、気を使わないと彼女は不機嫌になるのだ。言ってしまえばわがままな子。
自分の都合が悪くなると焦って泣いて、キレて、今考えるとめちゃくちゃな子だった。
でも当時の俺はそれでも好きだったのだ。
見た目は全然好みじゃないけど、好きだったのだ。
「こっちが黒歴史だ。馬鹿野郎」
俺の声が聞こえない距離になってから小さく言った。
だが彼女は俺に聞こえるように言っていたと思う。
その度胸だけはすごい。
俺は怖くて言えない。
前に三木に「お前も文句を言え」と言われたことがあるが、怖くて言えなかった。
自分が情け無い。
言われっぱなしだ。
俺はあいつに言いたいことがあるのだ。
言ってやりたいことが。
それはいつ言えるかわからないけど、きっとその時が来ても、俺は言えないのであろう。
なぜなら、怖いのだから。
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金曜日。
朝8時に学校に着いた。
今日は文化祭初日。
初日は生徒だけでやるのだ。
自分の教室に行き、準備を済ます。
あとは座ってスマホでゲームをやる。
イザナミ降臨してる。久々にやるか。
黙々とゲームをやっていると、話しかけられた。
「七城、もうすぐ始まるよ」
「わかった」
そう言って俺は椅子を邪魔にならない端っこに寄せ座る。
わたがしを作るのと渡すのは三山で、会計はまた別の子に頼んであるのだ。
他のやつは呼び込みだがどっかでサボっているだろう。
俺は準備の時に働いた。
だから本番の日はこうして端っこでゲームをやるのが俺の仕事だ。
次はクシナダか。あと6体だったな。周回しとこ。
「わたがし2つください!」
「はい! ただいま!」
三山は笑顔で言ってわたがしを作る。
さすがは俺と同じコンビニ店員。笑顔の作り方がうまい。
「うまいようまいよ! 50円で幸せのわたがしが食えるぞ! うまいぞお!」
聞き覚えのあるやつの声が教室の外から聞こえた。
スマホを閉じ教室を出て声の主に話しかける。
「三木、お前は何してる」
「お! 七城。いや咲がわたがし担当って聞いてさ。こりゃ客呼ばねえとって思って呼び込み中だ!」
「お前違うクラスだろ」
「いや、だってプラネタリウムなんてスイッチ押す係居れば済む話だろ。オタクたちにやらせてるから暇なんだよ。だから俺は愛しのマイハニーの晴れ舞台を応援するためにこうして呼び込みをしているんだ」
晴れ舞台って、わたあめ作ってるだけだけどな。
「まあいいや。頑張って呼び込んでくれ」
「おうよ!」
そう言って教室に戻りゲームをやる。
次はクソゲーでもやるか。
「わたあめ2つください」
「あ。……はい」
三山のやつ、疲れてきたか?
疲れても接客には手を抜いちゃいけないだろ。
俺は立ち上がりお客さんに挨拶をした。
「いらっしゃいま」
目を向けると、花川鈴華が居た。
三山の対応が塩になったのがわかった。
俺の元カノだからだ。
「七城じゃん。よ。久しぶり」
「おう。久しぶり」
それだけ交わしスマホをいじる。
「うわぁ。客に対して愛想悪っ。キモ」
鈴華はそう言う。
「ほら。持ってけ」
三山はわたあめを2つ作って雑に渡した。
「金はいらない。早く帰れ。浮気性が移る」
「タダでくれるの? ありがとう三木と付き合えて浮かれてる三山さん」
嫌味っぽく言って鈴華は教室を出て行った。
「なんなのあいつ! 殴ってこようかな」
「やめとけ。問題になるだけだ」
「でもムカつかない? ……七城、手、震えてるよ。大丈夫?」
俺は言われて気づいた。
手が震えているのだ。
これはなんだ。恐怖心からか。
「あんた、顔真っ赤だよ。怒ってる顔してる」
言われてわかった。
この感情は怒りなのだろう。
「あのブスに言ってやれよ。浮気ばっかりしてるからガバマンになるんだよって」
「そこまで言えねえよ。ヤってねえし」
「1年付き合ってキスすらさせてくれないってすごい彼女だよね。あのブスは」
「まあ。あいつは俺のことを最初から好きじゃなかったからさ」
仕方ない、と続けようととしたら胸ぐらを掴まれた。
「おい。まだ庇うのかよお前は」
三木だ。
「話せ、息しづれえだろ」
「出来るだけ感謝しろ。お前もう好きじゃねえんだろ? あんだけ言われてなんも言わねえのかよ」
「……言えない。怖いんだよ言うのが」
「……そうか」
三木は俺を放した。
ゴホゴホ、と咳をしながら酸素を取り入れる。
「そんなんじゃ、いつまで経ってもトラウマは治らないし、榎本さんのこと信じられねえぞ」
そんなのはわかってる。
わかってるけど、治らねえんだよ。
「この女性恐怖症め」
三木はそう言って教室を出て行った。
女性恐怖症か。
それもあるかもしれないな。
「ごめんね七城、陽人が。あとで言っとくね」
「いや。気にしなくていいよ。悪いのは俺だ」
そう言って座る。
長い時間ゲームをやっていると16時になり文化祭初日は終わった。
「清掃とかは別の子にやらすから帰っていいよ」
「そうさせてもらうわ」
バックを背負い、教室を出る。
階段の前まで行き、引き返し三木の教室に行く。
「三木、ちょっといいか?」
俺は三木を呼びかける。
「おうよ。なんだ?」
「いや。さっきは悪かったな。彼女の前であんなことしたくなかっただろ」
「お前が謝るなよ。俺がしたことだ。謝るのは俺の方だよ」
三木は笑う。やっぱりこいつはいいやつだ。
「でも謝るなら誠意を見せてくれ。明日の後夜祭はキャンプファイヤーが上がる。ベタだけどそこで榎本さんに告れ」
「は? マジで言ってる?」
「マジだよ」
マジか。
告るのか、榎本に。
「わかった」
「そうか。なら許す」
三木は俺の背中を叩きながら言った。
「お前は優しいやつだからな。大抵の女ってのはその優しさに漬け込んで我儘になるんだ。でも話を聞く限り、榎本さんはそんなことしないしお前を大事にするだろ? 信じてやれよ」
「そうだな。そうする」
「なら良し。帰るんだろ? じゃあな! また明日!」
「おう。また明日」
そう返して駅に向かった。
電車を待っている途中、榎本からラインが来た。
『明日の七城くんの文化祭楽しみです!』
『そっか。待ってるからね』
『うん!何時に行けばいいかな?』
『何時でもいいよ。待ってる』
榎本が了解スタンプを送って会話は終わった。
よし。決めた。
明日の後夜祭で榎本に告白しよう。
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待ちに待った土曜日が来ました!
今日は七城くんの文化祭です!
文化祭も楽しみでしたが、なにより七城くんに会えるのが楽しみです!
起きた私はお風呂に入って髪を乾かし制服を着て外に出て駅に向かった。
七城くんの学校は確か、この駅だ。残高足りないなあ。
パスポに1000円をチャージして改札を通った。
電車に乗って約20分。
七城くんの学校の最寄りに着きました。
グーグルマップを開き、七城くんの学校を検索した。
約2分? 駅から近いんだ。
2分も歩かずに七城くんの学校に着いた。
ここに七城くん通ってるのかあ。ここに入れるっていいなあ。
13時か。いい時間かな。
正面限界から入るといろんな服を着た人が盛り上がっていた。
とりあえず私は靴を履き替える。
「そこの君。うちは土足でいいからね」
え。土足でいいの?
「そうなんですか。ありがとうございます」
「いえいえ。楽しんでってね」
この学校の先生らしき人は去って行った。
上履き、ただの荷物になっちゃったなあ。
土足で歩き、一回をうろちょろしても見取り図を配ってる人いなかった。
「どうしよ」
私は2階に上がってうろちょろする。
ちょっと疲れたなあ。
2階のロビーに自販機があったのでそこで水を買う。
空いてる席に座って休憩をする。
誰か聞けそうな人いないかなぁ。
周りを見渡してもグループになって楽しそうに話してる人たちしかいない。
邪魔するのは気が引けるの。
「わたあめ行かない?」
「やだよ」
わたあめの話をしている2人組の人が自販機の前まで来た。
これはチャンスじゃ!
私は立ち上がり、茶髪ロングの人に話しかけた。
「すみません、わたがしの教室ってどこにあるかわかりますか?」
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「三山、交代」
三山はクラスの女子、澤田に言われて交代していた。
俺は相変わらずゲームをしている。
「七城、自販機で飲み物買うけど何か飲む?」
「いいのか? じゃあ水で」
俺は60円を三山に渡した。
この学校の自販機はすごく安いのだ。
「おっけ。行ってくる」
「お願いします」
俺はそう言ってゲームに戻った。
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「わたがし? あー3階の2年8組だよ」
その茶髪ロングの人は優しく教えてくれた。
「ありがとうございます!」
そう言って去ろうとした。
「ねえねえ! その制服って篠水でしょ? かわいい〜! なんでこの学校に1人で来てるの?」
「人に呼ばれてまして」
私は照れながら言う。
「あっ! ひょっとして彼氏? わたあめで待ち合わせとかしてたの? 甘いなあ。わたあめだけに!」
「いえ、違います。その人の出店がわたあめなんです」
私がそう言うと茶髪ロングの人は目つきが変わった。
「誰探してるの? そいつ2年だよね?」
「はい。2年の七城悠人くんです」
そう言うと、その人はもっと目つきが変わった。
「ふーん。七城の彼女?」
「いえ違います! 付き合ってません」
「じゃあ好きなんだ」
私は否定してなかった。
「ふーん。1つアドバイスしとくよ」
そう言ってその人は私の肩に手を乗せた。
「あんな奴はやめとけ。付き合ってもつまんないよ」
は?
「なんですかそれ。そんなの付き合わないとわかんないじゃないですか」
私は少し怒った。いやかなり怒った。
「だからわかるの。私あいつの元カノだし」
も、元カノ!?
元カノってことは、七城くんと付き合ってたってことだよね?
私はモヤモヤした。
「あいつはね、小6の時から私のことが好きでさ。高1の時に付き合ったんだよね。でもやっぱり好きになれなくてさー」
好きじゃないのになんで付き合ったの。
「私の機嫌ばっかり気にしてたし、色々腹立った。でもあいつ頭いいから私が七城に言えないような悪いことした時とかすぐ気づいてたのね。話し合いになって、その時私が泣いたりしたらなんでも許してくれたよ」
なに。なにそれ。
「私は付き合い始めた後半は私に対して言いなりの財布を持った犬にしか見えてなかったね。財布にはもってこいかな? 榎本さんもそれ目的?」
「このっ!」
私は後ろから首根っこ掴まれて止められた。
「おいクソビッチ。てめえこの子になに話してやがる」
「お! 三山ちゃんじゃん! 元気ー?」
「鈴華、もうやめようよ」
もう一人の子が茶髪ロングに言う。この金髪ロングの人は鈴華って名前らしい。
七城くんの元カノの名前か。
「そうだね。次唐揚げ食べいこった!」
「鈴華は脂っこいの好きだね」
そう会話しながら去って行く。
「油取りまくってデブになって死ねばいいのにね。あんな女」
あの女はこの人のことを三山と呼んでいた。
なら三山さんでいいのかな?
「三山さんでいいですか?」
「そうだよ。榎本さんだよね。写真で見る以上にかわいいね」
なぜ私の名前を。
「七城から聞いてたよ。今日来るって。あいつに会っちゃうのは最悪だったね〜。好きな人の元カノとか絶対会いたくないもんね」
私が七城くんのこと好きなのも知ってるし!
「なんか飲む? 奢るよ」
「いえ。水あります」
手元の水を見せながら言った。
「そっか」
その人はメロンソーダと水の2つ買った。
「ちょっと座って話そっか」
「あの人は本当に七城くんの元カノなんですか?」
私と三山さんは向かい合わせに座って話をしていた。
「そうだよ。あのクソ女が七城の元カノ」
「そうなんだ」
私は興味なさそうに言う。
「あ、嫉妬してる?」
「してませんよ」
そんなのはもちろん嘘。
嫉妬しないわけがない。
「嫉妬してるんでしょ。わかるから」
三山さんは笑って言う。
「そうですか。やっぱりわかりますか」
そう笑顔で返すと三山さんは話し始めた。
「詳しくは言わないけど、あの女は最低だよ。クズだね」
「それは聞いててわかりました。七城くんはいい人ですもん」
「いい人すぎるんだよ。あいつは。人に対して優しすぎる」
いい人すぎる。みんなから見てもそうなんだ。
「で、なんで話しかけたの? あんな女に」
「わたあめのクラスを探してまして」
「そんなことか。なら付いてきてよ。案内する。私のクラスに」
あ、なるほど。
「三山さんは七城くんと同じクラスなんですか?」
「そうだよ」
じゃあ三山さんもわたあめだ。もう少し待てばよかったなあ。この人来るまで。
階段を上って、2年8組の教室に着く。
「ここだよ。私の後ろ綺麗に隠れて歩いてきて」
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「七城おまたせ」
「遅かったな。なんかあったか?」
「いやなんも」
三山はいつもよりゆっくり歩いている。
なんだ。なんでニヤニヤしてる。
あれ、なんか匂う。
「榎本の匂いがするな。なんとなくだけど」
「匂いでわかるのかよ! キモいなお前!」
三山は横にずれると、天使が現れた。
「七城、来たよ〜!」
「榎本! 来てくれたんだ」
榎本はふふ、と笑う。
「私はどんな匂い何ですか?」
げっ。聞こえてたか。
「そんなことより、なんでお前らが一緒なんだ?」
「榎本さんが私に聞いてきたの。わたあめの教室どこですかーって。だから案内したの」
言いながら三山は誰かに電話をかける。
「陽人、今うちの教室に榎本さん来ているよ」
『まじ!?今から向かうわ!』
スピーカーでもないのに聞こえた。
教室のドアがバンッ! と空いて三木が現れた。
「おー! 榎本さん!」
「こ、こんにちは」
「七城から色々聞いてるよ」
「え。え!?」
「余計なことは言うな三木」
「はいはい」
三山は榎本の分のわたあめを作り榎本に渡した。
「はい。これ食べたら2人で回ってきな」
「ありがとうございます」
甘〜い! と美味しそうに食べる榎本。
かわいいなあ。
「七城、顔キモい」
「間違いなくキモかったな。今」
キモくて悪かったな……。
榎本が食べ終わり文化祭を回る。
さてと、楽しませるとするか。
「よし榎本、どこ行きたい!」
「七城くんとならどこでも!」
グハッ。こいつはなんてかわいいんだ。
文化祭だしたくさん惚気るとしよう。
「じゃあポップコーン食べよっか」
「はい!」
俺たちは1階に戻り、校庭に出る。
校庭の中央には木を積んでいる人たちがいる。後夜祭のキャンプファイアーの準備だろう。
端っこの方に店が幾つかある。その中の1つがキャラメルポップコーンだ。
「すみません。2つください」
「ほいほい。あ、七城じゃん!」
げっ。
「元気してたか? 久しぶり!」
「七城くんの知り合いですか?」
「いやこんなやつ知らない」
本当に知らない。1部の細川正志など。俺は知らない。
「釣れないなあ。ほらよ。キャラメルポップコーン2つ」
「ありがとな。正志」
「覚えてるじゃねえか!」
と正志は笑う。
「じゃあな。彼女さんの仲良くヤれよ」
「なんか意味深だな。ありがと」
その後俺たちはロビーに向かった。
「キャラメルポップコーンってなんでこんなに美味しいんだろ。甘いなあおいしいなあ」
「榎本って甘いの好きだよね」
「大好きです! 重度の甘党です!」
「俺も甘党だよ。他にどういうの好き?」
「そうですね。ラーメンとかも食べますよ」
それを聞いて俺は目を輝かせた。
「マジ!? 俺もラーメン好き! 今度行こーや!」
「行きましょ! 行きましょーや!」
「それと、スタバもね」
俺は付け足すように言う。
「覚えててくれてたんですか」
「だって一緒に行きたいじゃん。行ける場所たくさんある方が楽しみたくさんあっていいじゃん」
「うわ。本当に2人でいる」
声を聞いただけでわかった。
花川鈴華だ。
「なんだよ」
俺は言う。
「いや別にー? 君、名前は?」
「榎本仁美です」
「榎本ちゃんか。さっき言ったこと聞いてた?」
なんだ? さっき言ってたことって。
「聞いてましたよ。でも私とあなたは違う。早く目の前から消えてください」
え、榎本さん。ちょっと怖くないですか。
「ふーん。怖い目してる。いいや飲み物買いきただけだし。じゃあね〜」
鈴華は自販機でお茶を買ってどっか行った。
その時ハンカチを落とした。
「鈴華」
俺は呼び止める。
「ん?」
と鈴華は振り返る。
「ハンカチ落としてるぞ」
「ん」
鈴華はハンカチを拾ってどっか行った。
「名前で呼んでるんですね」
あれ。声のトーンがいつもと違う。
「いや。色々あってな」
「知ってますよ。元カノですもんね」
キャラメルポップコーンを食べながら榎本は言う。
「え? 知ってるの?」
「はい。七城くんの教室探してる時に色々ありまして」
「色々?」
俺はその色々を聞いた。
「なるほど。じゃあ三山に感謝だな」
「はい。感謝です。もう少しで……」
「もう少しで?」
「いえ。なんでもないです」
「そっか。黙っててごめんね」
「いえ。言いづらいことだと思いますし、仕方ないです」
でも声のトーンが治りませんよ榎本さん。
怖いです。
「まあ。今日は楽しみましょう!」
「そうだね。後夜祭はキャンプファイヤーもあるし」
「なるほど。この学校のキャンプファイヤーの前で告白するのうまくいくって言うジンクスとかあるんですか?」
「それは聞いたことねえなあ」
「そうですか」
榎本はしゅんとなる。
大丈夫、俺が告るから。後夜祭で。
「次はどこ行きましょうか!」
「ボーリングとかかな。水入りペットボトル倒すだけだけど」
その後、いろんなところを回った。
ボーリングや輪投げやボール投げ、手作りジェットコースターなど。
気づいたら18時半を過ぎていた。
「すごい遊んだなあ」
「遊びましたね」
ロビーで水を飲みながら休憩する。
あと1時間もしないでキャンプファイヤーが上がる。
「ここにいたか」
来たのは三山と三木だった。
「榎本さん。どうだった? 七城との文化祭デート」
「そうですね。凄く楽しかったです!」
「ならよかったよ」
三木は笑顔で言う。
「お前ら2人のみたいな選べ。奢ってやる」
「いいの!?」
「あざす」
「三山は鈴華から榎本を助けてくれたからな。三木はついでだ」
ついで、と言ったがお世話になったからだ。
2人に飲み物を奢り、4人で座って飲む。
「もう出し物は終わったけど本番はここからだからな! キャンプファイアー。あれがあってこその文化祭最終日だ」
三木は胸を張って言う。
「珍しいですよね。キャンプファイヤーあるの。私の高校なかったです」
「うちの高校はバカだからね」
関係あるか? それ。
もう15分でキャンプファイヤーか。緊密してきたな。
「お前ら! ちょうどよかった。キャンプファイヤーに必要な燃料を運ぶの手伝ってくれ。頼む!」
俺の担任、角田が頼んできた。
「あと15分だよ!? 何してんの」
「悪い。人手が足りなくてな」
「わかった。行くぞ三木。榎本はここで待っててくれ」
「咲もここで待ってて。すぐ終わらすから」
俺と三木は角田について行き、燃料を運ぶのを手伝った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「三山さん。私、聞きたいことがあるんです」
この人と2人になったのを好都合と思ってしまう私は性格が悪いのだろう。
「ん?なになに」
「さっき、“詳しくは話さない”って言ってたじゃないですか。その内容教えてほしいんです。要するに、七城くんの過去について」
私が言うと、三山さんは戸惑っていた。
「いやいや。聞かない方がいいよ? 榎本さんのためにも」
「私は知りたいんです。知らないことは怖いことですから。知りたいんです」
「じゃあ、聞く?」
「はい。聞きます」
「七城はね、あの女に浮気されたの。3回も」
「さ、3回!?」
驚いた。3回って。
「そう。私も詳しくは聞いてないんだけどね。今から話すのは私が聞いた範囲でだからね」
「わかりました」
「わかった。続けるよ。あの子はネットに知り合いが沢山いてね。仲良い男とずっと話してたんだって」
「それって七城くんと付き合ってる時ですよね?」
「そうだよ。その中の1人と直接会ってヤってるのがわかったんだって」
「え」
私はあの女の顔を思い出して軽く引いた。
「続けるよ。わかったら普通別れるじゃん。その時あの女が泣いて謝って、七城それで許しちゃったの。でまた浮気されて、それも許して。これで2回。最後の3回目はこの学校の子と浮気したの。それは私が目撃して七城に言ったの。
「はい」
「あのクソ女はそいつと付き合って、七城は捨てられた」
「……はい」
「他の男とはヤるくせに、七城とはハグだけだったらしいよ。キスもエッチもしてくれなかったって」
「そうなんですか」
それを聞いてホッとした自分が嫌だ。
「で、余談だけど。榎本さん七城に告ったよね?」
「はい。好きって言いました」
「その時倒れたじゃん? あいつ。それその女からのトラウマで、榎本さんに裏切られるのが怖いんだって。これを聞いたのは私じゃなくて私の彼氏なんだけどね」
「三木さんですか?」
「そうそう」
「私は裏切りません」
私はまっすぐ目を見て言った。
「うん。大好きだもんね。七城のこと」
「はい。大好きです」
そっか。全部、七城くんを傷つけたあの女のせいか。
私はあの女の顔を思い浮かべた。
「腹立つなぁ」
「え?」
「いえ。じゃあ私お手洗い行ってきます」
「ちょっと待って。私も一緒に行く」
きっと勘付かれたのだろう。
私が今から何をするか。
私は足の速さには自信がある。
男の子には負けるけど、普通の女子よりは早い。
すぐに三山さんとの距離を開けた。
「許せない。文句言ってやる」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「終わったー」
「疲れたー」
燃料を運び終え、無事時間通り点火した。
「角田、今度水奢れよ」
「俺メロンソーダ」
「わかったわかった。ありがとな2人共!」
感謝を伝えられた後、俺たちはロビーに向かう。
「おい、頑張れよ」
肘で脇をグイグイされた。
「わかってる。ちゃんと言うよ」
「そうか。ならいい!」
三木は満足したように言った。
「七城!」
走ってきたのは三山だった。
「榎本さんがどっか行っちゃった」
え? どういうこと? どっか行っちゃったって。
「ごめん、榎本さんに七城の過去の恋愛聞かれてさ。答えちゃった。そしたら走ってどっか行っちゃった。たぶん」
「たぶん?」
「花川鈴華を探してると思う。で、見つけ出してると思う」
は?
「なんで榎本がそんなこと」
「最後、あの子怖い顔してた。怒ってた。あと、ロビーで私が止めたのは花川鈴華じゃなくて、榎本さんを止めたの。殴りかかりそうな勢いだったから」
それを聞いて俺は走り出した。
榎本を探さなきゃ。
俺なんかのために、そんなことをしてほしくない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どこ。どこにいる。
外を見ると、キャンプファイヤーで校庭が明るくなっていた。
私は目がいい。
その明かりを利用して外の人を見る。
だめだ、いない。
ってことは場所が絞られる。
どっかの教室にいるはずだ。
でもどこの教室だろう。
2年の教室は3階だから3階の教室を重点的に探してみよう。
私は3階に行き、教室を見て回る。
「いないなあ」
「あれれ。奇遇だね。何してるの?」
声を聞いて思った。
見つけた。
「あなたを探してました」
都合がいい。1人みたい。
「ちょっと話せませんか?」
私はそいつの手を掴み教室に連れ込んだ。
「なに、痛い」
「すみません。強く握りすぎてしまいました」
「さっそく話を始めます」
私は三山さんに聞いたことを全て話した。
もちろん、三山さんの名前は出していない。
「この話に、間違いはありませんか?」
「何1つないよ。私は浮気したよ? それが?」
は?
「よくそれで七城くんの悪口言えましたね。自分勝手に扱って別れただけじゃないですか」
「浮気される方にも問題があるでしょ。私を信じようとしたあいつが悪いし、私を好きにさせなかったあいつが悪い」
どんな考え方してるの。この人。
「榎本ちゃんもあいつ財布にすれば? バイトしてるし、結構金持ってるよあいつ。誕プレとかもいいの買ってくれるし。ほらこれとか」
鈴華さんは耳を指で指しながら言う。
「このピアスとかも」
私は胸ぐらをつかんで言った。
「動くな」
鈴華さんの顔はさっきまでとは違い、恐怖に塗れていた。そんなに怖いかな、私。
ピアスを取り、窓を開け投げた。
「ちょ、なにすんの!」
「ムカついたので投げました」
「なに、ムカついたからって」
私は鈴華さんを押して、壁まで詰めた。
「ふざけるなよ! この自己中! お前のせいで七城くんがどれだけ傷ついたかわかってる!?」
私は続けた。
「トラウマになるくらい心に深い傷負っちゃったんだよ。人を傷つけていいと思ってるの? そんなの人間のすることじゃない。まず好きでもないのに付き合うな! それで散々使って捨てて悪口とか言うな!」
最後に私は言った。
「もう二度と、七城くんには近づかないでください」
私は頭を下げた。
「散々言われせておけば」
鈴華さんは泣きそうな顔で言った。
「あいつがいつも忖度ばかりするからだろ!? 何でもかんでも謝って。すぐ気を使う、すぐ謝る、すぐ会いたいとか。こっちも疲れるんだよ。こっちの気持ちも考えろよ! なんで他の男と遊んじゃダメなんだよ。付き合ってるだけだろ? 契約書書いてねえじゃねえかよ! 付き合うなんて元々口約束だろ! 私は元々あいつのこと好きじゃないのに付き合ったよああそうだよ。全部私が悪いよ。もう二度とあんなゴミカスと話さない。あんな奴もいたら人格腐っちゃうからね」
……私は言った。
「めちゃくちゃですね」
「ほんとだな。俺は口約束も守れない女と付き合ってたのか」
……え?
「七城くん。なんでここに」
「探したよ。榎本。俺のためにそんなことしないでくれ」
「全部、聞いてたんですか……?」
「全部聞いてたし、見てた」
てことは。
さっきこの人が言った七城くんに対しての悪口とかも聞いてたってことだ。
七城くんはこの人のことを好きだったのだ。
傷つかないわけない、絶対傷ついてる。
私は好きな人を傷つけてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「榎本!」
榎本は走って教室を出て行った。
俺は追いかける。
「七城!」
鈴華に呼び止められた。
「なんだ。俺は今忙しい。早くしてくれ」
「……その。ごめんね」
「いいよ。気にしてない」
「私ね。正直言うと、あんたと付き合ってる時楽しかった。デートとかいろんなところ連れて行こうとしてくれたし。絶対あんたは私のこと嫌いにならないって調子に乗ってた。ごめんなさい」
頭を下げられた。
そっか。
「俺もお前と付き合ったことは後悔してないよ」
「え?」
「だって、今俺は本当に大事な人に巡り会えたからだよ」
そう言って教室を出て榎本を追いかけた。
「榎本、どこだ」
正面玄関を出て駅の方に向かうと、ゆっくり歩く榎本の後ろ姿が見えた。
全力疾走をし、榎本を捕まえる。
「榎本!」
前に立ち、顔を見る。
「七城くん……」
泣いていた。
すごく泣いていた。
「なんで泣いてんだよ。かわいい顔が台無しだぞ。かわいいけど」
「私は……私は」
「キャンプファイヤー上がってる。戻らない?」
「ごめんなさい。今日はもう帰ります」
そっか」
「なら送っていくよ。家まで。てか、送らせてください」
俺は頭を下げた。
榎本はコクっと頷いた。
「じゃあ、行こっか」
俺は後夜祭を抜け出して榎本を家に送るため、駅に向かった。
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