第5話「トラウマ」
「七城が女と2人でデートした!?」
「それも2日連続!?」
授業が終わった放課後の教室にて。
俺は昨日一昨日デートしたことを我が学校のカップル、三木と三山に言った。
「七城、ラーメン屋のやつ冗談じゃなかったのかよ」
「ほんとだよ。誰がそんなくだらない嘘つくか」
「七城、それ夢じゃないの? あのクソ女に振られたからって幻想見てるとかじゃないの?」
こいつら2人揃って最悪だな。
「お前ら最低だな」
「「なら証拠を見せてみろ証拠を!」」
うぜえ……。
俺は昨日撮ったツーショットを見せた。
「え、かわいい」
三木が言うと三山がギッと三木を睨む。
「まあ咲の方が可愛いけどな!」
「陽人は調子いいんだから」
2人は笑いながら会話をする。
こいつら名前で呼び合うようになったのか。まあそりゃそうだよな。ヤったんだもんなこいつら。
「そこで一つ相談があるんだ」
「「なんだね? 聞かせてみよ」」
息ぴったりかよこいつら。
「俺、この子に告られたんだよ。スカイデッキで」
「告られた!? スカイデッキで!? 八本木ヒルズの!?」
「こんな可愛い子に!? 七城が!?」
三木と三山は驚いた声で言う。
「そそ。で俺も好きだよって言おうとしたんだよ」
「「うんうんそれで」」
「そこで倒れちまったんだよ。吐き気がして胸が痛くなったんだ」
「うん」
「それで?」
「で、声が聞こえたんだ。『また裏切られたらどうする』とか『こいつも浮気するかもしれないぞ」』みたいな感じで。どう思う?」
こうして振り返ると俺は二重人格なのかもしれない。
小さい頃はカッコいいから憧れたが今思うと痛い。てかやだ。
「七城。あのクソ女がトラウマになってるんじゃない?」
「トラウマ?」
三山に言われて首を傾げる。
そこまでなるか? 恋愛で。
「トラウマだろ。絶対。お前めちゃくちゃ愛してたじゃねえかあのクソ女を。まあ無理もないよな。小6の頃から好きだったんだもんな」
「それを言うな。思い出したくない」
三木に言われて耳を塞ぐ。
「付き合った時すごい惚気てたもんね〜。一生大事にする! とかなんたら」
「言ってたな。デートたくさん連れて行こ! とかな」
「やめろやめろ、まじで思い出したくない」
三木と三山に言われてもっと強く耳を塞ぐ。
「まあその分、初カノであれは酷すぎるよな。浮気の連発のみならず、お前傷つけられただけじゃんか。貢がせるだけ貢がせて捨てられたんだもん。そりゃトラウマになるわ」
「そっか。トラウマか」
一応頭の中に入れておこう。
「三山、お前進路相談室に来い」
担任の角田が教室のドアを開け三山を呼んだ。
「げ」
「残ってるってことは暇なんだろ? 授業態度が悪いって聞いてるぞ。居眠りとかひどいらしいな。少し話を聞こうじゃないか」
「次から改めたいと思っています。なので今回ばかりは見逃してください角田様」
「次から? お前の次は何回あるんだよ!」
三山は角田に首根っこを掴まれ引っ張られて行った。
「いいのか?」
俺は彼氏の三木に聞く。
「自業自得だろ。仕方ない。それにちょうどいい」
ちょうどいい? どういうことだ?
「その子との馴れ初めを聞かせてくれ」
なるほどな。
「男2人だしな。いいよ」
俺はこいつに元々俺と彼女がコンビニ店員と常連客って関係で、ラインを交換してデートに至った経緯を全て話した。こいつは口が硬いし、信用してる1人であるからだ。
「なるほどな。榎本さんがお前に惹かれるにはちょうどいいな。運命的な出会いじゃん」
三木は言いながら姿勢を直し俺に向ける。
「それに、昨日って本当ならお前とあのクソ女の一年記念日だろ? だからスカイデッキのチケットも持ってたんだろお前。オムライスだってお前の元カノの大好物じゃねえか」
「お前記憶力鬼かよ。なんで他のカップルの、しかも別れたやつの記念日とか好物とか知ってるんだよ」
「お前が惚気てる時に何回も話してきたんだよ。覚えてねえのかよ」
まじかよ。惚気って怖いな。
「だいたいはわかったな。お前その榎本さんをあいつに見立ててるんだよ」
「それはねえだろ。あいつはロングだし茶髪だし顔立ちもあいつとは全く似てない」
「違う。付き合えるなら誰でもいいってことだよ。だから元カノとの本来の一年記念日のプランをその子に使ったんだろ?」
「いや、俺がリードするって話になったからさ。チケットも余ってて勿体なかったし。女が喜ぶデートならいいかなって思って」
そうだ。俺は本当に榎本を喜ばせたかったのだ。
「だからって元カノと行くはずだった場所に行くか? 普通」
「チケット余ってたら行くだろ」
これは俺がおかしいのか。
「俺なら破って捨てるね。もし俺がお前の立場なら別の場所連れて行ったね」
別の場所に連れて行く、か。
確かに思いつかなかったな。
「お前はどういう気持ちで榎本さんとその場所に行った? 本来なら元カノと行ったその場所に」
「罪悪感はあったよ。俺クズだなあとかカスだなあとか思いながら」
「そこまで思ってたのかよ」
そりゃ思うさ。だって元々榎本のために立てたプランじゃないのに榎本のために考えたみたいに回ったし、色々最低なことをしたと思ってる。
「じゃあ、元カノに重ねてるって点はないとしよう。ここで1つ質問いいか?」
「いいよ。なんでもどうぞ」
そう言うと三木は真剣な眼差しで俺に聞いた。
「お前は、榎本さんのこと本当に好きか?」
それを聞かれて思い返す。
榎本と行ったデートはすごく楽しいものだった。
正直、元カノと行ったデートよりも何十倍も楽しかった。
彼女が喜ぶ姿を見て俺が喜んだ。
そしてドキドキもした。
手も繋いだ。
もっと一緒に居たいと思った。
付き合いたいと思った。
これは好き以外考えられない。
「うん。好きだよ。真剣に」
「本当か?」
「本当だ。ぶっちゃけ悪いけど元カノより好きかもしれん。優しいし俺の要求聞いてくれる」
それを言うと三木は引いた目を向けた。
「お前……付き合ってもないのにまさか襲ったのか……?」
「な訳ねえだろ。そんなことはしない。絶対にだ」
「そっか。だよな」
と言って三木は俺に言った。
「じゃあお前は、榎本さんに裏切られるのが怖いんだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
三木は三山を待つらしいので先に帰る。
電車に乗り、つり革を掴みながらスマホをいじっているとラインが来た。
『今日は友達とスタバに行きました!』
と一緒になんとかフラペチーノの写真が送られてくる。
『なにそれ美味しそう。飲みたい』
『じゃあ今度一緒にスタバ行きましょ!』
『いいね!行こっか』
榎本はやったースタンプを送ってきた。かわいいなあ。
会話が終わるころには俺の家の最寄りに着いた。
改札を通り、まっすぐ家に帰る。
風呂から上がると榎本から画像とメッセージが届いていた。
『あと服も買いました!新しいやつです!』
鏡に自分を写してスマホで顔を隠している写真だった。
『いいじゃん!似合ってる』
『本当ですか!よかったあ』
ここで少しわがままを言ってみる。
『顔も見たいから自撮りよろしく』
既読だけつき、返信が来ない。
これは流石にアウトだったか?
返信が来たのは3分後だった。
『すみません、マシに取れたの一枚だけでした。すっぴんですのでご了承ください!』
……これがすっぴんなのか。
送られてきた画像には天使が写っていた。
『正直に言うと眼福です』
『眼福!?そんなにですか、』
『すっぴんでこれなら世の中の女性の8割敵に回してるよ』
『言い過ぎです!』
ぷんぷんスタンプが送られてきたのでかわいいスタンプを送った。
会話が終わったところで俺は彼女の写真を保存する。ラインって便利。保存してもバレない。
テレビを見ているとまたしてもラインが来た。
「榎本かな」
ビンゴ。榎本だった。
心を躍らせながら内容を見る。
『七城くんって基本何曜日バイト入ってるんですか?』
『月から金まで朝勤だよ。今週は土曜日に夕勤入ってる。朝勤来たら遅刻したと見なして怒るからね』
『遅刻はもうしません笑ただ遅刻してしまった時は寄ろうかなと!』
故意的に遅刻する気だなこいつ。かわいい奴め。
『あと、夕勤って何時から何時までですか?』
『17時から22時だよ。5時間』
『おっけです!覚えておきます!』
『うん。じゃあ待ってるよ』
『じゃあ行きます!』
かわいいなあ。本当に。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして土曜日。
16時に起きてバイトの準備をする。
朝まで三木とゲームをやっていたためこんなギリギリな時間に起きてしまった。
ラインっと音が鳴った。
『七城くん!今日雨降るからね!傘必須だからね!』
この子の前世は天使だろうか。
テレビをつけ、天気を確認する。
雨は深夜12時からか。なら持たなくていいや。手荷物になるし。
『雨は12時かららしいから平気そう。ありがとね!』
『いえいえ!バイト頑張ってください!』
ありがとうスタンプを送って会話が終了する。
準備が終わり、16時20分に家を出る。
うちのコンビニは10分前にタイムカードを押すことになっている。まあ時間通りに行けば何も言われないんだけどね。
16時40分にバイト先のコンビニに着いた。
クソゲーアプリで時間を潰し50分にタイムカードを押し緑の制服に着替える。
「いらっしゃいませ」
めんどくせえと思いながらレジに行く。
昼勤の人と交代しレジをする。
今日の相方は同じ時期に入った専門生の人だ。
しばらくレジをすると入店する人がいなくなった。珍しい、いつもは混む時間帯なのに。
「七城くん、今日もこの時間がやってきてしまったな」
専門生の人はそう俺に話しかける。
ちなみに、俺はこの人の名前を知らない。前に聞いたけど忘れてしまったのだ。同時にこの人は自分のネームプレートを無くしている。店長にバレたら怒られるやつだ。
「そうですね。まあ普段はこの時間自分入ってないですけど」
「確かに久々だね。夕勤一緒なの」
「そうですね」
「そういえば最近リア充増えてきたね。うちの学校でもカップルが出始めてさ……」
いきなりテンション低くなりやがったぞこの人。元々テンション低い人だけど。
「そうですね。自分の学校にもカップルできましたよ。1組ですけど」
「やっぱりそうか! きっと俺たちがこうしてレジやってる間もあいつらはお盛んなんだろうなあ。ああ彼女ほしい」
正直に言う。この人はデブで顔もお察しの通りだ。
「そうですね」
「七城くんは居そうだよね。イケメンだしいい体してるし」
そう言われてゾッとする。男に走り始めないでくれよ相方よ。冷や汗止まんねえよ。
とそこで客が入ってきた。
「いらっしゃいませ〜」
いつも通り言って客を見る。
「あっ! 七城くん!」
天使が来店していた。
ん、ん、と喉を鳴らし言い直す。
「いらっしゃいませ」
「言い直さなくていいのに」
ふふっと榎本は笑う。
「ほんとに来てくれたんだ」
「うん! 会いたかったし!」
少し声がでかい。客いないからいいけど。
「なんか奢るよ。選びな」
「え!? 悪いよ、私お客さんだもん」
「いいから選びな」
そう言ってポケットからこのコンビニで使える買い物用カードを出す。榎本に奢るようにチャージしといたのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて、まんまるチキンください!」
「かしこまりました」
とチキンをいつも以上に丁寧に袋に入れた。
お会計は俺のカードでして、榎本に言う。
「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」
「うん! また来るね。頑張ってね!」
「ありがと。頑張るね」
彼女は店を出るまでこっちを向きながら手を振っていた。前見なきゃ危ないのに。
「七城くん。もうあがっていいよ。君には無性に腹が立った。早く帰れ」
「まあまあ落ち着いてください。彼女じゃないんで、まだ」
「まだ!? まだ、この野郎!!」
この通り、すごくめんどくさい人なのである。この人は。
バイトが終わり、裏で一息つく。
タイムカードを切って制服を脱ぐ。
「お疲れ様です」
専門生の人と夜勤の人に言い店を出る。
「まじかよ……」
外は大雨だった。
天気予報当てにならねえなあ。
店から出てきた専門生の人は傘をさし俺に言う。
「ザマァ見やがれリア充。はっはっはっ」
ムカつくなこいつ殴ってやろうか。
仕方ない、駅まで走るか。
「七城くん!」
傘を差しながら1人の天使が走ってきた。
「雨12時からだから大丈夫って言ってたからさ、持ってないんじゃないかなって思って。よかったあ行く前に着けて」
はい、と傘を渡される。
「ありがと。助かるよ」
傘を受け取ると後ろから「ちくしょおおお」と言う声と走り去る音が聞こえたが無視するとしよう。
すると目の前にカップルが通った。
「あ、相合傘だ」
榎本は雨のようにポツリと言う。
「あのー、七城くん」
言いながら俺から傘を取り上げる。
「あのですね、これ壊れてるんですよ。だから私が差してるこれしか使えないんです。仕方ないので相合傘しませんか?」
うんかわいい好き。
「いいよ」
言いながら榎本が差している傘を受け取り横並びに歩く。
「ちょっと濡れちゃいますね。ごめんなさい」
「全然いいよ」
「でももうちょっと近づけば平気そうです」
榎本は俯きながら距離を詰めてくる。近い。
「手、は繋げませんね」
榎本が左を歩き俺が右を歩いている。俺は左手で傘を差しているため手が繋げない。
「手貸して」
榎本の左手を右手で傘を持っている左手に持っていく。
「2人で持てば繋いでることになるんじゃないかな? 手は重なってるし」
「あわわわわわ」
みるみるうちに顔が赤くなっていく。
そんなに俺の手がいいのか。物好きな子だなあ、ほんと。
「そうですね、繋いでることになりますね」
「でしょ?」
今俺は雨に感謝している。
こうして榎本と相合傘をしながら手も繋げているのだから。
榎本が俺の顔を見て笑う。
俺も笑う。
そして思う。
やっぱりこの子が好きだ。
この子と恋人になれたらどれほど幸せなのだろうか。
いっそ、ここで告ってしまおうか。
好きという気持ちが膨大した瞬間、突如嫌な妄想が頭に浮かんだ。
もし、この子と付き合ったとしよう。
しばらく経ってこの子は冷めるとしよう。
この子は他の男と電話したりラインしたりして、俺とのデートをドタキャンして違う男と遊ぶ。
そして違う男と寝る。
そして言われるのだ。
「飽きた」と。
「七城くん、七城くん!」
「ん。どうした榎本」
「もう駅ですよ」
周囲を見渡すと篠水駅前だった。
「そっか。送ってくれてありがと」
「あとこれ。降りたら使ってください」
榎本が渡してきたのはさっき壊れてると言った傘だった。
「壊れてるんじゃないの?」
「七城くんがぼーっとしてる間に治っちゃいました」
てへ、と笑う。
「そっか。じゃあまた今度」
「はい! スタバ行きましょうね! 2人で!」
「わかった」
俺は階段を降りる。
と榎本も傘を閉じ一緒に降りてきた。
「やっぱり改札前まで送ることにします」
「そっか。ありがと」
笑って言うと、笑顔で返された。
本当にいい子なんだな、榎本は。
それでもって、本当に俺のことが好きなんだな。
俺は改札を通り「じゃあ」と手を振る。
「はい! また!」
後ろを向き歩く。
電車に乗って降りて傘を差しいつも通り家に帰る。
その途中でだ。
俺は電柱に寄っ掛かりそのまま膝をついた。
地面はぎっしり濡れていて布は水を吸い取り冷たくなる。
傘を掴む力もなくなり、下に転がらせる。
「怖かった」
あの妄想をした一瞬、俺は榎本に恐怖を覚えた。
こんな子でも裏切るんじゃないかと。
怖くなったのだ。
あの健気な笑顔が冷めた顔になると考えるだけで吐き気がくる。
あいつの言葉を思い出す。
「好きに一生はないよ。私は元々お前になかったけどね」
雨で濡れるとは別に嫌な汗まで出てきた。
帰りでも榎本が本当に俺のことが好きなのはわかった。
だから怖いのだ。
あいつは元々俺のこと好きじゃなかった。
でも榎本は違う。
今は俺のことが好きなのだ。
そんな彼女の好きが冷めて、浮気して、裏切られたりしたら、俺は俺で居られるのだろうか。
あいつに振られた時もショックだった。
けど榎本場合桁違いのダメージが来ることは間違えない。
「じゃあお前は、榎本さんに裏切られるのが怖いんだ」
三木の言葉を思い出した。
そうだ。
俺は榎本に裏切られたくない。
榎本を失いたくない。
だから怖いのだ。
だからこんなに怖くなるのだ。
「頭でも冷やすか」
俺は転がった傘を畳み、大雨の中濡れながら帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます