第3話「そして土曜日」

 朝。8時に起きる。

 朝ご飯を食べて、風呂に入りドライヤーで髪を乾かす。

「今日はちゃんとした格好で行こ」

 バイトと学校は服装が適当だから、こういう時ぐらいはちゃんとした格好で行こう。


 時間はちょっと飛んで12時。

 早めに向かっとくか。

 篠水駅は俺のバイト先の最寄りでもあるから行き慣れている。

 電車に乗り篠水駅に向かった。


「早すぎたな」

 40分も早く着いてしまった。

 改札を出て駅前に行くと、天使のような後ろ姿が見えた。

 内巻きのショートカットで服装は制服ではなく、かなりおしゃれをした格好だった。

「榎本さん?」

「し、七城さん!?」

 後ろから声かけたのが悪かったのか、かなり驚いている。

「ごめんね、驚かせて」

「ううん! 全然だよ!」

 全力で手を振り言う。優しい子だな。かわいい。

「そういえば、約束1時からだったよね。榎本さん早くない?」

「それを言ったら七城さんもですよ」

 それを言われると困るな。

「じゃあ、ちょっと早いけど行こっか。どこ行くの? 着いてくよ」

「わかりました! 着いてきてください!」


 電車に乗って降りると無料送迎バスに乗る。

「ここってもう千葉なんですよね」

「うん。電車は都営なのにな」

 と話をしているうちに目的地に着く。

 ここには女の子の好きそうなお店がたくさんある。

 服やアクセサリー、種類豊富にあるのだ。

 二階には映画館もあり、女子高生が遊び行くならここ! って感じの場所だ。

「で、どこ回る?」

「早速席取っちゃいましょうか」

「ん? 席?」

「映画見ます!」

 映画見るの? 全く聞いてない。

「おっけ、わかった。何みよっか」

「決めてません! なので、今上映してるやつ確認しに行きましょう」

 ってことで確認することになった。

 エスカレーターを登り、映画館に着いた。

 今上映してる映画のポスターを見ていると、一つ目に映ったものがあった。

 ピンクの背景に男女が立っている。

 夢のような出会いというタイトルの恋愛映画だ。

 でもこれはカップルで見るものであり、ただの顔見知りの俺たちが2人で見るようなものではない。

「あ、これ今日上映なんだ!」

 榎本さんはポスターに近づき目を輝かせる。

「予告1弾から見ててすごい楽しみだったんですよね! 今の今まで忘れてましたけど」

 忘れてたんかい。

 心の中でツッコミをいれる。

 他に見たい映画ないしな。

 榎本さんがそれ見たいならそれにしよう。

「それにしよっか」

「うん!」

 満面の笑みで振り返り頷く彼女は幼い子供みたいで可愛かった。


 上映は2時半からなのでまだ時間がある。

 席だけ取り、いろんなお店を回る。

「ごめんね、チケットありがと」

「いえいえ! 友人から貰い受けた物なので全然!」

 またしても榎本さんは全力で手を振る。わざとやってるのかってぐらいかわいい。

 それにしてもいつくるんだろうか、恋愛相談。

 「実は七城さんと同じバイトの永井さんのこと気になってるんです」って感じに来るのかな。

「あ、ここの服かわいい!」

「見てきていいよ」

 言い終わる前に榎本さんは店に入っていった。店内を見渡すと女の人しかいない。俺は待っとくか。

 後ろの壁に寄っ掛かりラインニュースを見る。また浮気騒動かよ。飽きねえな。

「七城さん!」

 顔を上げると榎本さんが手招きをしている。

 仕方なく店内に入り榎本さんのところに行く。

「こっちとこっち、どっちが似合ってますか?」

 榎本さんは持っている服を交互に体に合わせて聞いてきた。どっちも似合ってるがその答えは受けが悪そうなので選ぶことにしよう。

「これ俺好みになるけど、こっちの白いやつかな」

「これですか! わかりました!」

 榎本さんはテクテク歩いてレジを済ませた。

「お待たせしました! 次のお店行ってもいいですか?」

「いいよ。行こっか」

「はい!」

 隣り合わせで歩き、次のお店に向かう。次はアクセサリーとかかな。

 こうしてみると榎本さんの身長がよくわかる。

 俺が175だからこの子はどこぐらいだろうか。160あるかないかくらいかな。

「ここ良さそうなのありそう!」

 榎本さんが入っていったお店はやはりアクセサリー系統を置いているお店だった。

「イヤリングとかつけるの?」

「はい、服によってはですけどね」

 むむむ、どれにしようと呟きながら彼女は迷っている。

 俺もイヤリングを見て一つに手を伸ばす。

「さっきの服にこれとかどうかな。ちょっとごめんね」

 触れないように榎本さんの耳元に当てる。

 さっきの服を着てこれをつけてる彼女を想像する。

「うん、似合うね」

「え、あ、ありがとうございます、ファッションセンスいいんですね」

 榎本さんは少し赤くなりながら言う。やべ、距離近すぎたかな。申し訳ない。

「じゃあこれ買います」

「そっか」

 返事をして俺はイヤリングをレジに持っていく。

「これください」

 と、レジを済ませた。やべえ、イヤリングってこんなに高いのか。映画代タダじゃなかったら足りなかったぞ。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 榎本さんはそれを受け取りずっと眺めている。

 好きな人からじゃなくてごめんね。

「俺が選んだんだしね、そのくらいなら全然いいよ」

「でも七城さんが買ってくれたこのイヤリング一番高いコーナーのやつですよ」

 なるほど、道理で。

「そろそろ映画の時間だし、いこっか」

「はい!」



 俺たちは映画を見終わりフードコーナーでマックのポテトとハンバーガーを食べている。

 なぜ映画見てる最中を省いたかって? 劇場中に手が触れそうになるとかそういう王道イベントがなかったからだよ! これだから現実は。

「映画思ってたよりよかったです! 期待以上でした! 七城さんはどうでした?」

「俺も面白かったよ。最後のシーンとかよかったね」

「あのキスシーンですね! 現実的に見るともうキスしちゃう!? って感じでしたけど」

 会話は思ったより盛り上がった。

 映画の話題を終えた後、少し困る質問をされた。

「七城さんって大学生ですよね?」

 そういえば言ってなかったな。なぜ大学生だと思うんだこんなガキを。朝にバイト入ってるからか?

 シュミレーションをしよう。

 「高2だよ」と答える。「そうなんですか! 何高ですか?」と聞かれる。定時制とバレる。(うわ、定時に通ってるのかよこいつきっしょ、早く帰りたい)と思われる。うん、大学生ってことにしとこう。この子からはそう見えるらしいし。

「うん。今1年だね」

「そうなんですか! 何大ですか?」

「言ってもわかんないよ。結構遠いし。榎本さんの制服でわかったけど篠水高だよね。今何年?」

 嘘をつき質問に変える。

 これで誤魔化せるはず。

「はい! 今1年ですね」

 うまくいった。一個下かよ。


「あれ、七城じゃん! そのめちゃくちゃかわいい子彼女か?」


 心臓が止まった。

 その声には聞き覚えがある。

 俺はその男に肩を組まれる。

「俺こいつと同じ高校で同じクラスの小保方おぼかたって言います! こいつこう見えていいやつなんでよろです!」

 嘘ついた途端すぐバレた。

 しかも予想外のバレ方だ。

 小保方は2年から仲良くなった奴だ。

 悪いやつではないのだが、今の俺にとっては極悪人にしか見えない。

「高校……?」

「はい!同じ高校っす!」

「あ! 元々?」

「いえ! 現役っす!」

 榎本さんはポカーンとなっている。

「おい小保方、なぜお前がここにいる」

 俺は乗せられた腕をほどき聞く。

「映画見てたんだよ。夢のような出会いっていうやつ! 俺恋愛映画好きなんだよなあ。2時半の見てた」

「俺たちと同じじゃねえか」

「まじかよ奇跡かよ! 邪魔しちゃ悪いから帰るわ」

「おうおう帰れ。あと彼女じゃねえから」

「はいはい」

 と絶対信じてない様子で小保方は去っていった。

 そして俺は榎本さんの方を向いて

「ごめんなさい嘘ついてました。高校2年生です。歩高校です」

「歩高校?」

「はい、定時制です」

「あー、中学の頃やんちゃしてた仲よかった子も行きましたよ。すぐやめたらしいけど」

「はい。バカ高って知ったら引かれると思って嘘つきました」

 頭を下げて正直に言う。

「顔あげてくださいよ、全然いいですから」

 顔を上げる。なんて優しい人なんだ天使なのかこの人は。

「じゃあ、お互いの年齢知ったところなので。改めてよろしくね! 七城さん!」

「うん、よろしくね。お詫びと言っちゃあれだけどライン欲しいんだよね? 永井先輩の」

 自分の罪償いで永井先輩を売る。クズだなあ俺。

「永井先輩? 誰ですか?」

「前夕方レジしてた時、隣のレジやってた人だよ」

「……あー、なるほど。そういうことか」

 榎本さんは一人で納得して言った。

「私はその人のこと全然興味ないです。だからラインもいらないです」

 え? そうなの? じゃあなんで俺誘ったの。最近の女子高生はこうなのか? 怖すぎるだろ。

「定時制だからって私は差別しませんよ。でも嘘ついたのは許しません」

「は、はい」

「七城さんさ、日曜も暇って言ってましたよね? 確か。予定入っちゃってるならいいけど」

「思いっきり暇ですけど」

「じゃあ、嘘ついた償いに明日も私に付き合ってください。お願いします」

 え。

「そんなことでいいの?」

「はい。そんなことがいいのです」


 そんなこんなで明日も会うことになった。

「榎本さんは最寄りどこなの?」

「篠水駅です。待ち合わせが私の最寄りですみません。準備もっと時間かかると思ったので」

「全然いいよ。あと篠水の改札前まで送るよ」

「いいんですか? ありがとうございます」

「いえいえ」


 篠水駅に着き改札に着く。

 榎本さんは改札を通るとくるりとこっちを向き言う。

「今日はありがとうございました! 明日もよろしくです!」

「うん、明日も1時に篠水駅でいいかな?」

「はい!」

「うん。じゃ」

 俺は振り向き榎本さんを見る。

「私が一番欲しかった人のラインは七城さんです! 永井先輩って人は興味ないです。私が興味あるのは七城さんです!」

 と言って走って階段を登っていった。

 ……俺に? 永井先輩じゃなくて俺に?


 悩んだまま家に着き風呂から上がりベッドの上に寝っ転がると同時にラインが来た。

『今日はありがとうございました!明日もよろしくです!』

 こんな可愛い子と明日も会うのか。

『こちらこそ!ありがとね!明日は時間通りにね笑

早く来すぎないように!』


 送って布団に潜る。

「私が興味あるのは七城さんです、か」

 一人でボソッと呟いた。


 今日はドキドキで眠れそうにないな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 言ってしまった。

 でもここで誤解解いとかないと後々面倒なすれ違いが起こるのは恋愛映画の王道パターンで学んでいる。あのすれ違いは映画だけでいい。

 もう好きってバレてるよなあ。

 明日は好き好きオーラ全開で行ってみようかな。いやしつこい女って思われるかな。

 湯船に浸かり七城さんとのトーク画面を開きラインを送る。


『今日はありがとうございました!また明日もよろです!』


 と送るとすぐに返信が来た。


『こちらこそ!ありがとね!明日は時間通りにね笑

早く来すぎないように!』


「ふぁああああ」


 明日が楽しみだなあ。好きってバレてるから会うの恥ずかしいけど。


 今日は寝付けそうにないなあ。ドキドキして。


 ここで一つ思い出したことがある。

「彼女いるのか聞くの忘れたー!」

「仁美、うるさいよ!」

 お母さんに怒られてしまった。叫びすぎちゃった。

 でも七城さんの友達が私のこと彼女? って聞いてたからいないんじゃないかな。

 居たら私と出かけるなんてこともしないだろうし。

 浮気のようなことなんてことをする最低な人じゃないと思うし、大丈夫でしょう。


 私は明日を迎えるためにドキドキしながら眠りについた。

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