リリックの稽古
剣術指南役のサー・ロランの木剣が素早く、ハスラム卿の長子にして世氏のフェヴィアント・ハスラムの胸に当てた木の胴をを捉える。
「
「今、サー・ロランが剣を後ろに引いて構えたのは罠だったのか?」
まだ齢十二のフェヴィアント・ハスラムはあがったままの息で尋ねる。
サー・ロランは涼しい顔のままだ。
「違いまする。
「どうかな?」
城壁に背を預けたままで歪んだ笑顔を見せたままだったハスラム公の私生児リック・ザ・バスタードが皮肉っぽく言った。
リリックは歳は十七でフェヴィアントより上だ。この私生児が一応ハスラム卿にとっては長子ということになる。
サー・ロランが怪訝な顔をして木剣を下げた。本来ならリリックに剣先を向けたがったであろうが其処までの無礼をおかす気がなかった。
リリックは胸と背中に木の胴と木剣こそ持っているが背は城壁に預けたままで顔を傾け大きくため息を付いた。
「リリック様ため息をついているだけでは剣術は、いっこうに上達しませんぞ」
サー・ロランが数歩、歩み寄り言った。
「おれが強くなると困る人が沢山いるんじゃないのかな?サー・ロラン・レジラム」
「私は、ご主君様からリリック様にもしっかと稽古つけるようにと言いつけられております」
そう言われると、リリックは木剣の素振りをブンブン始めたが、その振りはとても遅い。しかもその一振りで足元も少しよろける。
なによりリリックはガリガリの痩せっぽっちだ。
となりで、そのリリックの下手な素振りを見ていた幼いエルグント・ハスラムが笑った。エルグントはハスラム卿の次男。まだ八歳だ。
秋の日の麗らかな午後、心地よい涼し気な風が城壁の間を吹き抜ける中、ハスラム卿の三人の息子たちは剣術の稽古をしていた。
「
幼いエルグントに素振りの稽古はもう限界だ。飽きて完全に
「エルグ、俺が相手をしてやろう、思う存分打ち込んでこい」
「うん」
リリックがエルグントに声をかけると、エルグントの目は急に生き生きとなった。
遥かに背の高いリリックめがけて幼いエルグントはブンブン木剣を打ち込んでいく。
それを、リリックがダンスのようにさっさと避ける。
「リリック、狡い、、」
打ち込みながらもエルグントの目はさっきとは違い生き生きとしている。
「エルグ、面白いか?」
「うん」
そう、エルグントが答えた瞬間。リリックの動きが止まった。サー・ロランがリリックの左腕を捻じりあげたのだ。
そこへ、エルグントの木剣がリリックの胴を的確に捉えた。
ガシーン。
「リリック公をエルグント公がたった今叩き切ったぞ」
エルグントが芝居掛かった勝ち名乗りをあげた。
うぐぐっ。
リリックは腕をねじりあげられ、八歳に胴を打たれ、二度くぐもった悲鳴を上げた。
「小若様はまだ、基礎の練習の段階、下手な型を覚えられては後々の上達に響きまする」
サー・ロランが言った。
「俺は、ちゃんとした型すら教えられてないぜ」
うめきながらリリックが言った。
「前の指南役がお教えしなかったのでしょう」
サー・ロランはまだリリックの腕をねじ上げたまま離さない。あがいてみせるが痩せっぽっちのリリックでは、本物の騎士であるサー・ロランの掴んだ腕を振りほどけない。
「この程度の膂力で稽古をサボるのは賢明とは言えませんなリリック殿」
リリックがゴソゴソ動いたと思ったらサー・ロランに捻じりあげられた逆の手で小さなナイフを木の胴の下から一瞬で出し、サー・ロランの首元に突きつけていた。
「さぁ、どうかな?、膂力に負ける相手に打ち負かされる剣術を習う意味などあるのかな?サー・ロラン・レジラム?」
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