第7話 【回想】初参戦!一度門を出れば、女には七人の敵がいる?

 一週間後、あたしと七海は『赤御門様へのお弁当お届けレース』に初参加した。

この頃には既に、一年女子もそれなりの人数が参加していた。

ウチのクラスの女子も何人かいる。


 七海の情報によると、お弁当を選んで貰える五人に入っている過去の戦績は以下だ。


・雲取麗華……80%

・天女梨々花……75%

・咲藤ミラン……85%

・それ以外の三年女子……60%

・それ以外の二年女子……40%


「つまりセブン・シスターズの三人は、参加すればほぼ勝ち残っているって言うこと。特に咲藤ミランは陸上部のエースだけあって、出れば必ず勝っているってさ」


七海がスマホを見ながらそう説明する。


「でも驚くべき事に、既に一回だけど、一年女子がこの中に入っているんだよね。しかもその一回で、見事に赤御門様との同伴ランチも実現しているらしい」


「僅か一週間ちょっとで?それは誰?」


「渋水理穂。あたしはアイツの隣の中学だったんだ。アイツも万能美少女だからなぁ。性格悪いけど」


まぁ足が速くてクジ運さえ良ければ、一年生が勝ち残っても全然おかしくはないんだが。

だが数分後、この考えがお祭りの綿アメよりも甘いことを、あたしは思い知る。


 正午を過ぎて十二時十分、あたし達は図書館前でクジを引いた。

あたしが四列目三番、七海が三列目七番だ。

どちらもベストなスタート位置とは言いがたい。


……今日は初参戦で様子見だから、まあ仕方が無い……


 ふと見るとセブン・シスターズの三人は、それぞれが複数の女子達と何かをやっている。

目を凝らして凝視する。

どうやらクジ引きのスタート位置を交換しているらしい。

つまり彼女達三人は、自分の手下を使ってクジを引かせ、その中で一番良いスタート位置を取った女生徒と交換しているのだ。

これなら彼女達は、よほどの事が無い限り、ほぼ一列目からスタートできるだろう。


……汚い、あれじゃあ権力のある彼女達に圧倒的に有利じゃないか!……


 あたしは怒りを込めて、彼女達を睨んだ。

七海も同じ事に気づいたらしい。


「なるほど、あれがセブン・シスターズが『参加すれば、ほぼ入選』している秘密の一つか」


「やり方、汚いじゃない。あれじゃあ公平な競争とは言えない!」


だが七海はあたしほど怒りは感じないらしい。


「仕方ないじゃん、ルールには『くじを交換してはならない』なんて無いんだから。世の中、常にカネと権力のある奴は有利に出来ているんだよ。このお弁当お届けレースだって一緒だよ。『社会の縮図』ってヤツだね」


あたしは歯軋りしながら、セブン・シスターズの三人を睨んだ。

と言っても、あたしはそれほど正義感じゃない。

七海の言っている事ももっともなのだ。


 そもそも『お弁当お届けレースで、高校生の内にイケメン御曹司をゲット』なんて事自体が、社会から見たら抜け駆けに等しい行為だろう。

綺麗事を言っていても始まらない。


 あたしは手に持ったお弁当を見つめた。

こうなったら、あたし自身の脚力とお弁当で勝負するしかない。


 あれから何度か赤御門様の姿を見かける事があった。

何度見ても、赤御門様の美形イケメンは素晴らしかった。

かなり遠くでも光り輝いて見える。

こんなイケメンは、本当にテレビでも雑誌でも見たことがない。

ハリウッドでもそうそうはいないんじゃないか?

それでいて赤御門様は決して気取った感じではない。

ごく自然な感じが、またカッコイイのだ!


 兵太がバスケ部に入るというので、あたしも付いて行った。

もちろん赤御門様のご尊顔を拝見するためだ。

何しろ彼はバスケ部の部長なのだ!

赤御門様は、その素晴らしい運動神経を発揮して、練習に励んでおられた。

その真剣な表情、ゴールを決めた瞬間、休憩時に汗を拭く姿、そして兵太のような下々の者にも笑って対応してくれる笑顔。

あたしは全身がシビれるような気がした。

恍惚となって、彼のその姿を目で追い続けた。

これからも時々、眼福のために『兵太の付き添いという名目』でバスケ部に来よう。

偉いぞ、兵太。よく今までバスケを続けていた。褒めて使わす。


 その赤御門様に手渡せるかもしれない、となれば、当然作るお弁当にも気合が入る。

昨日の夜はほとんど徹夜だ。三時間しか寝ていない。


 弁当はすごく見てくれに拘った。

「可愛い女子高生100パーセント!」をアピールする。

 タコさんウィンナーはもちろん、カマボコで作ったイカさん、ダイコンやニンジンで作った魚さん、クジラの形のオムレツなどなど、お弁当の中で『海』を演出してみた。

ちょっとお遊びで点心に目玉を付けたスライムも入れる。それに星型の卵焼きだ。

 ご飯の方はおかかのふりかけを軽く表面に振り、さらにそこに小さくハート型に切った味付け海苔を散りばめた。

デッカいハートにするのは、さすがにちょっと恥ずかしかったのだ。

よし、出来た!自分で言うのも何だが、とっても可愛いゾ!

女子力ア~ップ!



「スタート、一分前!」


 その生徒会役員の声で、あたしはハッと妄想から現実世界に戻った。

そうだ、今はこのレースに全力を集中せねばならない。

どんなに手間をかけたお弁当だろうが、赤御門様に渡せなければ生ゴミ直行なのだ。

(無理に二人分を食べ続けたら、あたしは間違いなくデブになる)


 四時間目終了を告げるチャイムが鳴った。

スタート・ゲートが開く!


……よし、前の奴が行ったら、すかさずダッシュだ!……


 そう思っていたあたしが甘かった。

ゲートが完全に開ききる前に、前が空く中央のヤツは走り出した。

するとそこから砂が漏れるがごとく、次々に女生徒がダッシュして行く。

そのため、あたしが前のヤツが出るのを待っていたら、横からも後ろからも、次々にあたしの前に割り込んできた!


 こりゃ負けてられない。

あたしも少し強引だが、割り込もうとするヤツと同時に前に出ようとした。

すると割り込もうとしたヤツの方が、あたしを肘で突き飛ばしたのだ!


……な、なんだ、コイツ?……


あたしも負けじと押し返そうとするが、その時にはもうその女は、あたしの前に出ていた。

だがその女は、それほど足が早くない。

あたしは右側から追い抜こうとした。

するとそれを察知した前の女が、右側に幅寄せしてくる!


……どこまで邪魔する気だ、この女!……


あたしは逆サイドの左側から、今度は追い抜こうとした。

だが今度は、その左隣の女が前をブロックする。


……な、なんだ、コイツラは???……


どうやら彼女達は、一般女子が前に出られないように『妨害役』を請け負っているようだ。

F1とかの世界グランプリでは、そういう作戦があると聞いたことがあるが、こんな所でそれをするのか?


 もうすぐ左曲がりで階段だ。

こうなったら外側から一気に追い抜いてやる!

あたしの俊足をナメんな!


 階段の昇り口で、あたしは大きく右外側から回りこもうとした。

するとその前を走っていたヤツが、あたしを大きく突き飛ばす。

あっと思う間もなく、あたしは階段の前を通り過ぎてしまった。

その間に、次々と女子連中が階段を駆け上がっていった。


 あたしは唖然として立ち止まっていた。

こいつら、ここまでやるのか?

ここまで、情け容赦も仁義もないレースなのか?


 やがて遅れてやってきた如月七海が、あたしの前に来た。


「こりゃダメだよ、美園。とてもじゃないけど、勝ち残るなんて無理だよぉ」


あたしと七海は、二階の階段前で呆然と立ち尽くしていた。

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