第2話 慈円多学園心得「女子たるもの、野獣であれ!」

 あたしは天辺美園あまべみその。十五歳、高校一年生。

あたしが通う「私立慈円多学園じえんたがくえん」は、首都圏でもトップレベルの名門高校だ。


 この学校は高校としての歴史は浅いが、その前身は奈良時代から続く女官や、天皇や将軍の大奥に入る女性の育成機関だったらしい。

それが昨今の政府方針「女性が輝く社会」のために、全てを刷新して誕生したのだ。

よってこの学校は「女尊女偉じょそんじょい」が徹底された、一種の治外法権となっている。


 だがこの学校は、単なる「女性上位」だけを目指す所ではない。

この学校の設立をバックアップしている組織”女性地位向上安定平穏委員会(All Women Status Improvement Stability Committee)”通称(AWSSC:オウソック)が掲げる『全ての女性はあるがままで美しい』という理念の元、働くキャリアウーマンから専業主婦、その両方であるワーキングママまで、全ての女性の生き方を肯定し、支援している。


 そのためこの慈円多学園では、女子は『男社会でのし上がる能力』と『より良い男をゲットする能力』の両方を高めることが求められているのだ。


それがこの慈円多学園の心得その一【女子たるもの、野獣であれ!】だ。


その施策の一つが、この『お弁当お届けレース』である。


 近年の若年男子の消極性から「生きづらい」と感じる女性のため、女性にも積極性が必要という発案で


『男子生徒は女子生徒から、弁当を十日間連続で受け取ったら、その女生徒と生涯において責任を持つ前提で交際しなければならない』


という規則が出来たのだ。


 もちろん高校生同士の交際だ。

『生涯において責任を持つ前提』なんて、どうなるかわからないが、そこはこの学校のバックであるAWSSCが目を光らせている。


 AWSSCは世界規模の団体なのだ。

その団結力と影響力は凄まじく、逆らえばマスコミから広告代理店、そして大企業でさえ業績が傾くと言われている。

人気商売の政治家を操るなんて、お手のものらしい。


 なお女子の方から交際を終了する事は自由だ。


 ちなみにこの学校の男女比率は三対七。

男子が少ないのは「男には人気がない学校だから」では、断じてない!

それどころか日本中の”意識高い系ママ”は、何とか息子をこの学校に入れたくて必死なくらいだ。


 この学校の教育および設備などが素晴らしい事は勿論だが、それ以外にも多くの芸能事務所に対して強いコネを持っているのだ。

 この学校から推薦を受ければ、五大商社や中央銀行、大手企業のみならず、ジャ○ーズやジュ○ンボーイ、J ○oul ○rothersに入る事も簡単だと言われている。


 なお男子は『学力が高い』だけでは、この学校には入学できない。

『イケメン、金持ち、スポーツ万能、天才、由緒ある家柄』の最低2つはクリアする必要がある。


 あたしはさっき「フツメン」「ザコメン」と言ったが、それはあくまで『この慈円多学園だから』である。

彼らも一般の学校に行けば、十分にイケメンで通るレベルなのだ。


 今、あたしの横で弁当にガッツいている男子・中上兵太なかがみひょうただって、中学の頃はけっこう女生徒に人気があった。

本人は精神がガキなので、それを意識していないだろうが。

まあ勉強が出来て、スポーツがそこそこ上手くて、性格も明るくて、顔も童顔だけどまあまあ整っていれば、中学ではそれなりに人気があっても当たり前か?


 あたしは兵太とは幼稚園からの付き合いだ。

母親同士も仲がいい。

だがあたしは兵太の事を「中の上で平均的なヘータ」と呼んでいる。

本人もそれで気にしてないし。


 あたしは社会で上を目指すために、この学校に入った。

中堅企業に勤める父、そしてパート主婦の母。

そんな二人のような”ふつーのセイカツ”は絶対にゴメンだ。


 あたしは『上を目指す!』

仕事においても、結婚相手に対しても!

だから勉強はずっと頑張ってきた。

この高校に入るために!


 確かにあたしは『セブン・シスターズ』みたいな超絶美人じゃない。

なにしろ彼女達は、既に現役モデルとしても活躍しているレベルだ。

スタイルだって抜群だ。水着姿なんて、女のあたしでも見とれてしまうほどだ。


 そんな”容姿では勝ち目がない女子”にも、この弁当お届けレースの勝者になれば、学園トップの御曹司に、お近づきになれるチャンスがあるのだ。


 あたしだって、中学時代は交際を申し込まれた事だってあるし、親戚の叔父さんだって「可愛くなった」って言ってくれている。

全然勝ち目が無い訳じゃ……ない、はず、だ……たぶん……


 いやいやいや、弱気になっちゃダメだ。

女は度胸だ。

あたしはこう見えても、料理の腕も自信があるのだ。

あたしの弁当を食べて貰えばきっと……


 あたしは、上を目指す!

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