第36話 甦る遺産
「だぁりゃあああああああああああああああああああっ!!」
巨大な黄金の牛が闘技場の試合場で突進し、
「だっぜえええええええええええええええええええええええいっ!!」
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
激突の凄まじい衝撃波で闘技場を揺さぶった両者は、そのまま頭とスティックで力押ししつつ……
「ガハハッ、少しはマシになりやがったんだぜい〝
「クソがああ……!!」
余裕の笑みのマウジャドと悔しそうに
「うおっ!?」
「ぎゃわっ!?」
多数のサテンゴールドの光線が試合場に降りそそぎ、両者は
「ゲゲッ、こんなトコロで死んでたまるか!」
虫のような巨人……バギシームは反抗防止用の首輪をあっさり引きちぎり、地中に潜って姿を消した……直後、
「気になる術式の波動を感じて来てみれば、案の定なのである」
少年と牛の間に1人の少女が降り立った。
髪と爪をサテンゴールドに輝かせ、アイボリーのクラシカルなスリーピーススーツと黒マントをまとう少女だ。
「南米のクローンと言い、不快なことが重なる日なのである」
「ガハハッ、〝儀式〟は
利発そうな顔を不快にしかめる
「問題ないのである。成すべきことは成したのであるから。それより──」
「邪魔すんじゃねえ小娘!!」
金属の牛が少女へ口から金色の光線を放った。が、少女は右手の爪を伸ばすと直径1メートルほどの円盤に変形させ、難なく光線をはじく。
「〝
クララが不快指数を上げて牛をにらみ、
「体を覆う金属にしても、明らかに我が血族の
「テメエの知ったこっちゃねえ!!」
巨大な牛が少女へ突進する。が、少女は爪を円盤から鋭い剣に変え──
「
突進してきた牛へ振り下ろす。と、30メートルを超える金属の巨体が
「な…なにい……ぐおぁっ!?」
呆然となる巨人に両断された牛の
「ふむ、
クララが渋い顔で巨人を縛る金色の金属を見る。
もっとも
「ぐうう……テメエぇぇ……!」
身動き出来ない巨人が悔しげに
「さあ白状するが良いのである。我が血族の
「言ったろう……テメエの知ったこっちゃねえってな!!」
クララはピキッと目元を歪め、
「……良い機会なのである。我が自白剤が異星人にも効果があるのか、実験してくれるのである……む?」
「〝宇宙の
クララがメロンソーダのような液体が入った注射器を取り出した直後、歯を食いしばって真っ赤になったジー・ボックが自身を縛る金属を砕いて義手に戻しつつ立ち上がった。
「
クララが不快指数MAXで爪を伸ばし巨人を斬り裂く──寸前、不意に試合場の地面を砕いて巨大な棒が現れた。丸々と太った体を黒くした少年が無数に溶け合って形成される、高さ30メートルはあろう黒く太い棒が。
「これは……クローンを融合させているのであるか!?」
クララが目をむく先で棒は60メートルまで伸びると、2本の太い腕と1対の凶悪なツノを生やす、悪魔を思わせる黒く
「
試合場の少年少女や巨人へ炎を吐きつつ、背中から多数の触手を観客席へ伸ばし、混乱する観客たちを手あたり次第に吸収していく……同時に、
「上等なんだぜい!」
やはり首輪をあっさり引きちぎりマウジャドが
「〝
氷塊の上で仁王立ちするマウジャドがスティックを振り上げた──直後、
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
多数のビームが降りそそぎ悪魔を思わせる上半身とジー・ボックを貫いた。
「何者であるか!?」
20メートルの巨人と60メートルの上半身が轟音を立てて倒れる一方、クララとマウジャドはビームの飛んできた空を見る。と、闘技場の上空に1人の少女が浮かんでいた。
「貴様は……!?」
瞠目してクララが見るのは、地球軍の軍服を着てピンクの水晶をはめたサークレットを額に付けた10代後半の少女。
ただし軍服に覆われているのは胴体だけで、両腕と両足は鈍い銀色に輝く金属製の大型戦闘ユニットに覆われており……
「我、ミズシロ財団が東の本家の次期当主を
整った中央アジア系の顔から無機質な声が発せられた。
一切の表情が抜け落ちた顔からも、やはり機械のような無機質さが感じられる。
その印象をさらに強めるガラス
「ガハハッ、ジョクタウの野郎が好きそうな
「ジョクタウ……?」
着地した少女がサークレットの水晶を光らせつつ無機質な瞳に強い感情を……激しい怒りを
「ジョクタウ……トゥルガイ………我、我、我……!」
水晶を激しく明滅させつつ無機質な声にも怒りを
「──む?」
周囲に白い気体が
「これは……チロルの〝
「ガハハッ、おっ
「……まずいのである!」
はっとしてクララがジー・ボックを見た――刹那、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
倒れていた巨人と巨大な上半身が、ミイラのように
◆
「これは……」
町の上空でワイクナッソが眉をひそめた。
悪魔を思わせる巨大な上半身の乱立する町が、白い霧に覆われていく。
霧は〝草薙の里〟を収める地下空洞全体に広がりつつ、意思を持つかのように
「いかん!!
ワイクナッソが同じく町の上に浮かぶ真紅の道化師に叫ぶ。すると〝里〟で戦っていた太陽系ドミネイドの鋼の巨人たちが、それぞれの
「予定より早いぞ、ミズシロ財団!!」
やはり町の上に浮く、両肩に二門の大型ビーム砲を装備した赤いトロニック人……イムーファーザも
「プロテクス! 全員退却しろ!!」
空からの
「やりやがりましたね〝クズ参謀〟♪」
右目に
「さあ〝地獄〟も……〝第二次
〝里〟の大地を覆った霧が巨大な魔方陣を形成し、放射する神々しい光で広大な空洞を天井まで満たす。と、大地に乱立する巨大な上半身が、苦鳴と共に
「光栄に思いやがるがイイのです。〝
少女のはるか足の下で、悪魔を思わせる上半身たちは命を吸い取られるように干からび、縮み、次々に倒れていく。
「さっすが〝呼び火〟の力、スゴイ生命力でやがるのです♪」
悪魔の上半身が全て倒れると、激しく輝きを増した魔方陣の光が〝里〟の中央にある湖に集まっていき……
「さあ目覚めやがるがイイのです……〝試祖〟の〝遺産〟よ♪」
大きな湖の中心に浮かぶ大きな日本建築の
「うまく〝
湖の
「霊体を本体とする〝
たくましい6本の脚が、屋形の1階から生え……
「古来、〝瀬織津〟は水にまつわる神として
長い首と尾が、それぞれ屋形の左右から伸び……
「ほんで
大きな屋形を胴体として、6本の脚で湖面に立ち、長い首と尾を揺らしつつ、鋭い
「〝
「おんや、六音。それに……」
背後から聞こえた声に振り返ると、
「お
「君も
「委員長、チロル、ジョクタウ、君たちも御苦労様」
「私にとっても
【やちんの かわり】
「ボーナスもタップリもらうっぺよ」
三者三様の返事に煌路が微笑んだまま
「
「可愛い弟のためなら、これくらい何でもありません♪」
「わらわも得るものがあったが
「フクカイチョーとお出かけれきたから~たのしかったのれすよ~♪」
「
「仕事が立て込んでいたのに、無理に来てもらってゴメンね、シューニャ。必ず埋め合わせはするよ。ともあれ……」
「作戦通り〝瀬織津〟を復活させることが出来て何よりだよ。これは返すね」
「〝
葛葉は刀を
「この刀こそ、霊界におる〝瀬織津〟の本体と
「〝瀬織津〟だけじゃなく、あの2人にとっても〝鎹〟になったみたいだね」
煌路が〝竜〟の背を、日本建築の屋形の屋根を見る。同時に六音もパトラを見て、
「一応、普通のケガの治療もデキんだよな……」
「もちろんなのれすよ~わたしはお医者さんなのれすから~♪」
「心霊治療専門だけどな〝おっとり
屋形の屋根には、互いに寄り添う和装の男女が……
◆
「………………………………」
湖に現れた紫の〝竜〟を、湖から離れた町の上空に浮かぶ赤いトロニック人が見つめている……と、
「どうした?
背後からの声に振り向くと、2メートルの長身に白い和服をまとう女が同じく空に浮いていた。
「ワイクナッソ……!」
「イムーファーザ……だったか、今は♪」
女が高飛車に笑み、
「しかし、今回の財団とやらの作戦を、よくプロテクスが承認したものだな。この地の原住民を見捨てるも同然だろうに」
「……仕方が無い。上の意思だ……!」
イムーファーザの怒りを抑えるような声に、ワイクナッソはわずかに眉をひそめ、
「上だと? この星系のプロテクスの
「もっと上だ」
「ん? ならば、この周辺の銀河や星雲を
「もっとだ……」
「なんだと? まさか
「もっとだ……!」
「はああ!? そうなると……」
全宇宙のプロテクスの総本部をも否定され目をむくワイクナッソ……だったが、
「……いや、むしろ納得できるのか……あの重圧のことも……ん?」
何かに気づいてワイクナッソが湖を見る。と、激しい
◆
「くそお………」
湖面に現れた〝人影〟が悔しそうに
それは身長80メートルを超える真っ黒な巨人。
先ほど〝草薙の里〟に多数が出現し、魔方陣により一掃された悪魔を思わせる上半身と同じく、無数の少年のクローンが融合した物体だった。
「
紫の竜の胴体である屋形の屋根で、 巨人を見る津流城が眉根を寄せ、
「まだ、それだけの力を残されていたのでございますか……」
津流城に寄り添う沙久夜も
黒い巨人は先ほどの悪魔を思わせる上半身と違い、見るからに不安定で今にも崩れそうな危うさを感じさせていた。
「太華琉殿、
「……ふざけるな……故郷が滅ぼされるのを、黙ってられるか……!」
津流城の
「この〝里〟の
沙久夜が冷静な声で、
「〝
ひたすらに淡々と、
「しかし、長い時の流れの中で1つ、また1つと家が絶えていき、〝無道三家〟と呼ばれる3つの家だけが残ったとの
まるで
「そして今、8つ目の家が絶える……それだけのことなのでございます」
「ふざけるな……この地下空洞が……
巨人が……草薙家の次期当主が
「ならば……〝草薙の里〟は、すでに滅びているのでございます」
沙久夜がやはり淡々と、
「しかも最後の一手を打ったのは、あなたなのでございますよ、太華琉さん」
巨人がピクリと震えた。
「お気づきでございますか? 〝里〟の民が、いなくなっていることに……」
言われて〝里〟を見渡せば、各所に炎やケムリを
「そう……あなたが怒りに
あちこちに死体が……命の無い民が転がる町の有り様に巨人はビクッと震え、
「ば…ばかな……そんな、こと………」
否定しようとするも、クローンと同調していた記憶が脳裏に
「そんな……こと………」
それは怒りで赤く染まる視界と、悲鳴を上げる民を次々に体に吸収していく記憶。
「そんな……そんな………」
激しい
「ちがう……俺は……そんな、つもりじゃ……」
不安定な巨体がブルブルと
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
悲壮な絶叫と共に、黒い巨体はドロドロと溶けるように崩れていく………
◆
「……ぶはっ!!」
湖面を突き破り、でっぷり太った男が顔を出し、
「ひぃ……ひぃ………」
その男……
「はぁ……はぁ……おのれ、ミズシロ財団めぇ……!」
「呼んだんどすえ?」
弥麻杜が悪態に返事をされ声のした方を見る……と、返事をした葛葉をはじめ、湖の
「久しぶりだね、草薙弥麻杜。僕が
「み…
弥麻杜が顔を引きつらせた……直後、
うわああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
〝里〟に絶叫が響き弥麻杜が湖の中央を見ると、紫の竜と
「こ…この声……太華琉、なのか……?」
父が
「た…太華琉……?」
父が呆然となる一方、黒い巨人は巨大な黒い
ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
紫の竜より
「六音!!」
「ぎゃほあっ!?」
火炎弾の1つが呆然としていた弥麻杜を直撃、その下半身を消し飛ばし、
「た…たけ…る………」
上半身のみとなって倒れた時……父の瞳に生気は無かった………
「おお……おいたわしや、
そのとき大地の一部が盛り上がり小山が築かれると、その頂上を突き破り1人の女が上半身を現した。
「なれど……どうか、
「この〝里〟は、必ずや
主人の死体を前に女は
「
「ゾンビ映画パートⅡ!?
小首をかしげる葛葉の声を六音の叫びがさえぎった。
8人の男たちは血の気が失せた傷だらけの肌をボロボロの着衣からのぞかせ、瞳も
「そういえば〝儀式〟で崩れた
「その鍾乳洞で死んだ者たちに〝
「存在自体が禁忌な化け物に
「うまいこと言うどすな~♪」
皮肉を葛葉が笑い飛ばし、煌路も苦笑しつつ、
「察するに南米で使われた死体を操る術式は、彼女がカルージャンの遺物に提供したんじゃないのかな……クローン技術の対価としてね」
「身共が供したのは、術式の初歩のみにござりまする。術を極めたならば、かようなことも出来るのでござりまするよ」
湖乃羽が
「〝
「〝
8本の首の先には、巨大化した〝八鱗刀〟の男たちの頭が1つずつ付いていた。
「ヘビさんには~負けられないのれすよ~♪」
そのときパトラが優しい笑みをほころばせ、三つ編みの先のリビアングラスを光らせる。と、町に散らばる悪魔のような上半身の死骸が破裂し、太華琉のクローンや吸収された民の骨が大量に飛び出した。
「目には目を~歯には歯を~」
町中から
「ヘビさんには~ヘビさんなのれすよ~♪」
「
人面の八岐大蛇が
「何者でござりまする!?」
湖乃羽がにらんだ地下空洞の空に、1人の少女が浮いていた。
胴体を地球軍の軍服で覆い、手足に鈍い銀色に輝く金属製の大型戦闘ユニットをつけた少女だ。
「おお! リアルメカ少女だっぺよ♪」
「我、ジョクタウ・トゥルガイを
「………はえ?」
興奮する中央アジア系の少年が、無機質な中央アジア系の少女の声に困惑し、
「なんでボクチンの名前を………って、まさかオメエ、エ――」
「エスティルトゥ、君が来たんだね」
「なんでオメエがアイツを知ってるっぺよ!?」
声をさえぎられたジョクタウが煌路をにらむ……が、
「彼女はヴィオの……僕の
「っ!?」
目が飛び出さんばかりにジョクタウが目をむいた……一方、
「次から次へと……かくなる上は!」
「御屋形様にも
直後、上半身だけの死体がビクンッと震え、風船のごとく見る見る
胴の断面から虫のような
「またも〝黄泉国〟ですか……!」
砂織が眉をしかめる先で、でっぷり太った上半身を硬い外皮で覆い、下半身に虫のような6本の肢を生やし、顔に10を超える目をギョロギョロ
「
「
「ぐ…ぐぅぅ……そう、だ………」
怪物と化した弥麻杜が
「貴様らに……ミズシロ財団に、
「自我が残っているのですか!?」
「さすが〝草薙の里〟の
砂織が目を見開き、湖乃羽がご
「思い知らせてやるぞミズシロ財団んんんんんんんんんんんんっ!!」
異形化した弥麻杜が虫のような肢をガシャガシャ動かし、鬼の
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
大地にめり込む黒い氷塊の上に、身長190センチを超える
「あたしを殺す気かマウジャド!!」
氷の上の少年に、煌路にお姫様だっこされる六音が怒鳴った。
ちょうど氷塊の落下地点にいた六音を
「ガハハ、
六音の苦情を無視して、マウジャドは八岐大蛇や異形化した弥麻杜を氷塊の上から見おろし、
「足りねえ分、タップリここで暴れてやるんだぜい♪」
野生的な美形に
「ぐぅぅ……貴様ぁ………」
「あん? テメエ〝里〟の当主なんだぜい? 丁度いい、テメエにゃ世話になったから遊んでやるんだぜい♪」
獰猛な笑みを深めつつマウジャドはスティックを振り上げ……豪快に氷塊に振り下ろす。と、巨大な氷塊が
「ぐ……お前ら、闘技場の闘士か……いきなり、姿を消したかと思えば……!」
「ガハハハハッ!! 〝
サメのような歯をガチンガチンと打ち鳴らす
「〝
「またしても邪魔者が増えたのでござりまするか……!」
葛葉がはんなり笑む一方、湖乃羽は小山の頂上に生やす上半身を震わせ……
「ならば! こちらも死力を尽くすのでござりまする!!」
覚悟を決めたよう気勢を上げる。と、下半身が埋まる小山から大きな竜の首と長い尾、それに6本の脚が飛び出して小山を崩し、湖乃羽の上半身も巨大化していき……
「我が悲願! かような所で終わらせないのでござりまする!!」
6本の太い脚で大地を踏みしめ、長い首と尾で周囲を威圧しつつ、背に10メートル近い女の上半身を生やす、全長40メートルを超える真紅の竜が現れた。
「〝巫女〟の妹としてわずかに持っとった〝瀬織津〟の力を暴走させたんどすな……二度と人に戻れんと承知で?」
「言ったはずでござりまする!! 死力を尽くすと! あなた方を倒し栄光の未来を掴むのでござりまする!!」
「そんだけの〝欲〟を、もっと早く見せてくれはったら良かったんどすえ」
どこか残念そうに葛葉が溜め息した……直後、
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
真紅の竜の前に巨大な竜巻が
「風は獲物を求め吹き
1人の少女が乗馬用のムチを手に、竜巻の上で仁王立ちしつつ真紅の竜を……竜の背の巨大化した湖乃羽をにらみつける。
「あなたは、先ほど屋形で身共と戦った──」
「ペンテシレイア、今度は手加減はいらんどすえ」
「手加減?」
湖乃羽が自分の声をさえぎった葛葉を見て、
「何を申して……よもや先ほどは、
竜巻が勢いを増して吹き荒れる。と、その上に立つ少女が烈風に若草色の髪をなびかせながら眉間のシワを深め、顔の左の三つ編みに垂らす小さな
「風は白き
さらに竜巻は激しくなり、
「風は白き
不意に
「風は白き
「ま、邪魔する
空を
「ほんなら、あとは頼むんどすえペンテシレイア」
勝負の結果は見えているとばかりに一角獣と真紅の竜に背を向け、
「〝失敗した
どこか
「〝妹の
「〝異元領域〟に行ったみたいだね」
破顔する葛葉に煌路がウィステリアを連れて歩み寄り、
「トロニック人でもなかなか出来ない空間操作の奥義……これで彼もZクラスで
「全てはお手元のままに……若様」
主へ深々と頭を下げる葛葉……だったが、
「……んで、いつまで若様にくっついとるんどすえ六音?」
頭を上げると、煌路にお姫様だっこされている六音へ毛ほどの邪気も無いはんなりした笑みを向け、
「人の邪魔をする
「何のコトか分からないな♪ あたしは仕事をしてるだけだぞ。人間パワーアンクルとして、ダンナ様の足手まといになるって仕事をな♪」
六音が優越感全開に笑んで一層密着すると、煌路も溜め息まじりに苦笑して、
「まあ、この状況だと僕のそばが一番安全だろうしね──おっと」
クラスメイトの少女たちから飛んで来た攻撃を空中に発生させた光剣で〝吸収〟する煌路。
「
「……ソーダナ〝
目元を引きつらせ棒読みで言う六音。
周りでは草薙家に
「……ったく、自分の
お姫様だっこされる六音が冷や汗しつつ、ぎこちない笑みを浮かべ……
「……にしても、煌路の次にクラスで〝異元領域〟をデキるようになったのが、〝
お姫様だっこされたまま、開き直ったように
「〝異元領域〟のコツは〝シスコン〟だったってか♪」
むしろ見せつけてやるとばかりに
「やっぱアレか? 厳格な〝シスコン原理主義者〟同士、通じ合うモノがあったのか? 〝シスコン〟に目覚めたら〝異元領域〟にも目覚めちゃうのか? 愛は世界を救うんじゃなくて
露出の高いタンクトップとホットパンツの少女が腕の中で大胆に
「僕は〝きっかけ〟をあげただけだよ──おっとっと」
「みなさん、いつにも増してがんばっていますね、コロちゃん♪」
「うん、特に女子のみんなから
「その
あきれ返る六音に煌路は寛容に笑み、
「流れ弾にさえ
「精進っつーより、特定の誰かへの〝こだわり〟のせいに思えるんだがな……」
深々と溜め息する六音に煌路は笑みを深め、
「そうかも知れないね。支えになってくれる人がいると、人は強くなれるから」
隣の姉と笑顔で視線を交わしつつ、
「津流城もそうだよ。長年の
深く息を吸うと、
「やっぱり〝姉弟愛〟こそが、全てを超える
「はい、コロちゃん♪」
〝流れ弾〟の猛雨の
「……自分の
〝姉弟〟の笑みの清らかで温かい眩しさに、周りの少女たちは
むしろ熟年夫婦のごとく
そんな〝姉弟愛〟に浄化されるように〝流れ弾〟の猛雨も
「ま、
はんなり笑んで
「ここが正念場だよ、津流城。ようやく心を重ねて、血をひとつにした大切な人と一緒に歩いていけるか……〝想い〟を
異空間にいる
「姉を助けるのは、
原理主義者の信条を語るのだった………
◆
「こ…ここは………」
6本足の黒い竜が、3本の首から
竜がいるのは雲ひとつ無い青空の下に、見渡す限りの水面が広がっている世界。
耳が痛くなるほどの静寂に満ちた、果ての無い平穏な世界だ………しかし、
ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
突然、水面から無数の巨大な水柱が空高く立ち昇り、青い空も紫に変わっていく。
「これぞ
さらに新たな水柱が噴き上がり、100メートル近い高さまで立ち昇る……と、その先端に日本建築の屋形を胴体とする、6本足の紫の竜が現れた。
「津流城ぃ……!」
屋形の屋根に立つ少年を見て、黒い竜が
「
対する津流城は
「どうか
水柱の上から、眼下の水面にいる竜へ
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