第35話 そのとき歴史が動いたかも!?
「やあ、
壁に多数の入り口がならぶ丸い部屋で、黒髪の少年が
「
対して
「ひさしぶりなのれすよ~ツルギ~♪」
「
「ここで会ったが百年目……左様に申すのじゃったか、この星では」
煌路が現れた入り口から3人の少女が飛び出し、津流城を囲んでその身を
「お、裏切り者を捕まえたのか♪」
3人と同じ入り口からタンクトップとホットパンツの少女が現れると、津流城は
「裏切り者なんて言っては、彼が
六音の後に白金色の髪の少女が現れ津流城は絶望に沈む……さらに、
「安易な情けは身を滅ぼすぞ、ウィステリア」
ウィステリアの後に現れた、青い髪をヒザまで伸ばし純白のスリーピーススーツを着た美女を見て、津流城は奈落の底に落ちた気分になる。勝ち目どころか、生き残る目も根こそぎ刈り取られたと悟って……しかし、
「まあまあ、デュロータ。彼にも事情があったんだよ」
意外にも煌路が笑んだまま津流城を
「
「フクカイチョーにイタズラしたら~星に代わってオシオキなのれすよ~♪」
パトラも優しく笑みつつ、ヒザまで伸びる12本の三つ編みの先のリビアングラスを光らせ、
「
シューニャもヒザを抱えて浮きつつ、無表情のまま床に届く
「くっ……!」
津流城が自分を囲む少女たちの重圧に身をすくめる。
六音を見た時には、彼女を人質にして脱出を図ろうとも考えた。
大恩ある女性を救うためならば、
だがウィステリアとデュロータが六音の
「今どき打ち首はないだろ♪」
当の六音がイタズラっぽく笑み、
「せめて武士の情けで
「……っ!!」
津流城が殺気を込めて六音をにらむ。同時にパトラが首をかしげて、
「〝
「殺した数が一番少ないのはな。被害者の数は、お前の方がはるかに多いだろ」
六音はわざとらしく溜め息して、
「お前の技を……〝
「わたしは命をすくうお医者さんれすから~むやみに人を殺さないのれすよ~♪」
「『ヒポクラテスの誓い』って知ってるか? 体をバラバラにされて生き続けるのが〝救い〟なのか、じ~~~っくり話し合おうか〝おっとり
パトラの無邪気に輝く優しい笑みを六音が冷ややかに見た……その時、
「元より、全ては覚悟の上につかまつる」
不意に津流城が刀を抜いた。
その鬼気せまる表情と迫力に部屋が緊張に包まれる……が、津流城は両ヒザを地につくと、左手に握る刀を自分の右腕に向け、
「
覚悟を決めた〝
「この場は腕一本にて
想いを貫く〝男〟が己の右腕を斬り落とす……
「早まらなくていいよ」
寸前、煌路が津流城の前に移動し、刀を右の人差し指と親指で
「……!?」
津流城は動揺しつつも
「事情は聞いているよ、津流城」
指2本で地球トップクラスのエヴォリューターの渾身を止めつつ、煌路は
「今回の君の行動は、姉や母にも等しい恩人を助けるためのものだったんだよね」
津流城が目を見開いた。
「それなら何も責めることは無いよ。さっき言ったよね。僕だって姉さんを助けるためなら、地球の1つや2つ滅ぼしちゃうって♪」
煌路の言葉と微苦笑するウィステリアに再び既視感に囚われつつ、津流城は
「……なれど、
「……それなら、こう考えればいいよ」
一瞬『
「僕は君を助けるんじゃない。君が死ぬことの悲しみから、君の恩人を助けるんだってね」
津流城が息をのみ、刀を握る手から力が抜ける。
「だから片手を
「……!」
刀から手が離れた津流城が、がっくりと
「そもそもZクラスの中で君の〝
津流城が四つん這いのままビクッと震えた。
「ある意味で、その覚悟は立派だと思うよ……でも」
煌路が冷徹な〝支配者〟の顔になり、
「本当に大切な人を守りたいのなら、手離したくないのなら、
四つん這いのまま津流城は
『お前も誰かのために覚悟を決め行動しているのだろう……』
『俺に代わって証明してくれ……』
『人は誰かのために大業を成せるのだと……』
南米で散った鋼の巨人の言葉を
「なれば、某には……某たちには、何が欠けていたのでつかまつるか……」
「本当に大切な人を守るのなら、時には全てを犠牲にするほどの〝欲〟が必要なんだよ。それほどの〝欲〟こそが、どんな苦難も乗り越える強い意思の〝原動力〟になるんだよ」
冷徹ながらも
「……それは世を乱し、滅ぼすのみの……鬼畜の所業につかまつる……!」
「それが、どうかしたのかい?」
「たった今、言ったじゃないか。大切な人を守るには全てを犠牲にする〝欲〟が必要だって。それとも君には、鬼畜にならないことの方が大切な人を守ることよりも大事なのかな?」
四つん這いの津流城が
「少なくとも僕は、姉さんを引き換えにして世界を守るなんて絶対にしないよ。世界を守れても、そこに姉さんがいないんじゃ何の意味も無いからね♪」
一点の迷いも曇りも無い〝
「……世界も大事なれど、それ以上に
津流城が
「さっき僕が言ったこと、覚えていてくれたんだね。そう言えば君も言っていたよね。世界の秩序を守るのが自分の使命だって……でもね」
爽やかな笑みを
「〝秩序〟なんてものは、強い者にどんどん更新されるものだよ」
一片の
「今の〝秩序〟だって、昔の強い者がそれまでの〝秩序〟を更新して出来たものだからね。そして今、あらためて〝秩序〟が、〝世界〟が更新される時が来たんだよ」
四つん這いの津流城が息をのんだ。
「言い換えれば、今は絶好のチャンスなんだよ。世界の〝秩序〟を、大切な人を守れるよう自分で更新するためのね♪」
「……それで得心が出来るほど……己のために世を滅ぼせるほど……某は強くないのでつかまつる……!」
「常に迷い、失うことに
四つん這いのまま握りしめられる
「非力なことは……弱いことは必ずしも悪いことじゃないよ」
その時、威厳と慈愛に
「人は〝弱い〟ことを自覚して、初めて〝強くなろう〟と向上心を持つことが出来るんだからね」
声は打ちひしがれる津流城に
「だから〝弱い〟ことを自覚して、それを悔しく思っているのなら、君には強くなれる……成長できる〝未来〟があるってことだよ。それとも……」
急に声が冷ややかになり、
「君にとっては自分のプライドの方が、大切な人よりも優先順位が上なのかな?」
声が
「ちっぽけなプライドのために、また大切な人を手離して、また後悔するのかな?」
グサグサと何度も突き刺さる。
「これも、さっき言ったよね。君にとって一番大切なものは何なのか、決められるのは君だけだって」
ズタズタの心と四つん這いの体を津流城が震わせた。
「君にとって一番大切なのは……一番守りたいのは、秩序なのかな? 恩人なのかな? そもそも……」
冷ややかながらも同志への〝親愛〟を声に
「君は何のために、誰のために〝秩序〟を守ろうと決めたのかな?」
威厳と慈愛にあふれた重圧に部屋が満たされる中、
「誰のために……守る………」
その
「心は決まったかな? だったら〝秩序〟が、〝世界〟が更新される今──」
指で
「更新をする
「偉大にして強大なる……我が〝主君〟よ……!!」
妹と同じ相手に忠義を誓った。
先刻の
その重圧に揺さぶられ崩れ始める部屋を、Zクラスの少女たちは驚嘆と感嘆の空気で満たしつつ……
「己の
「破ったってかブッ壊れたんじゃないかイロイロ……Zクラスにゃ珍しい常識人ワクだったのに……」
妙に実感の
「人は優しければ優しいほど、残酷になれるものですよ」
六音をシャボン玉のような空間で包み、重圧と崩れる部屋の害から守っているウィステリアが慈愛あふれる笑みを浮かべる……と、
「……やっぱ、テッド・バンディですね我がダンナ様は………」
六音は煌路を見て、深々と溜め息をついた………その時、
「次期……当主様………」
部屋の壁に多数ある入り口の1つから少女が現れた。
サッカーボール大の球体車輪をつけた一輪車のような車イスに座り、バイザー型のサングラスとカーキ色のロングコートを身につけた少女だ。
「〝カメレオン〟!」
煌路が少女を見て目をむき、
「
少女が抱える、白い和服姿の女を見て津流城が叫んだ。
「何があったんだい……?」
煌路が血まみれの少女と女に眉じりを下げる……と、
「申シ訳、あリませン……〝草薙〟ノ一党に、不覚ヲ取りマしタ………」
少女は苦しい息の中から声をしぼり出し、
「デすガ……こレだケは、何トか……」
女を床に下ろすと、
「そうか……大変だったね。ご苦労様」
煌路は慈愛に満ちた笑みで少女をねぎらうと、刀を受けとり鞘から抜いた。
深い紫に輝く刀身が、崩落寸前の部屋に現れる。
「それは……」
つぶやく津流城が、首から
「津流城、僕のために働いてくれるのなら、これから僕がすることを
「何なりと、
津流城が深々と頭を下げると、〝主君〟は紫の刀を
「ありがとう……そして、ハッピーバースデー、津流城」
部屋の崩落と同時、床に横たわる沙久夜の胸に刀を突き刺した………
◆
「
広大な
「〝草薙の里〟の……最期だと……!?」
険しい視線の先では、巨大な地底湖の
「驚くことも無いどすえ~。どの道お先まっ暗やったんどすからな~♪」
「せやから財団を始め、あちこちに手ぇ伸ばして悪あがきしとったんどすえ~♪」
右肩から胸に流す
「そういうことですね」
さらに少女のそばに別の少女が現れ、その姿に弥麻杜は目を
「お前……
「お久しぶりですね、弥麻杜殿」
やはり緋色の学生服を着た、
片や弥麻杜はさらに目元を険しくして、
「なぜ……お前が、ここに……!?」
「今はミズシロ財団が運営する学院に
理知的な美貌から風格を
「そう言えば……九十九の者も東の本家の
弥麻杜は逃げ道が
「はからずも……〝
「弥麻杜殿は……〝草薙〟は〝無道三家〟ではないでしょう。少なくとも本流では」
「かの〝
「……っ!!」
「7世紀に
はんなり笑むまま目元を鋭くし、
「問題なんは、当時追放同然で地方におらはった皇弟が、どないにして皇子が
「そう言えば、帝が
「神様が負けてもうたら神風も吹かんくて、
眉をひそめる砂織に笑みをほころばせる葛葉……だったが、
「ま、〝壬申の戦〟では神風が吹いたんどすけどな……〝瀬織津〟ゆう神風が」
再び笑んだまま視線を鋭くし、
「皇弟が勝たれた理由を、専門家は色々こねくり回しとるようどすが……」
「分家であった〝草薙〟が主家であった〝
2人の少女の鋭い視線に、弥麻杜がビクッと肩を震わせた。
「情報操作もバッチリやったんどすな。当時
「
弥麻杜が
「古来、倭の神々は穏やかな〝
「他にも〝瀬織津〟を〝天照大神〟の妻とする伝承もありますね。つまり現在は女神とされている〝天照大神〟は本来、
砂織の言葉に葛葉はうなずき、
「その変更がされたんも、『古事記』や『日本書紀』の編纂と同じころやったんどすえ。専門家は、当時の帝やった
「それもあったのかも知れませんが、その持統の帝は奇妙な
少女たちは神妙な顔になり、
「〝壬申の戦〟で勝利に貢献したものの、〝瀬織津〟は強すぎたんどすな。せやからその力を恐れた朝廷は、〝瀬織津〟をすべての神社の祭神から外させて、歴史書にも一切の記述を残さなかったんどすえ」
「〝瀬織津〟の存在を表舞台から消し、世間から
「……ふざけるな!!」
弥麻杜が真っ赤になって
「どいつもこいつも〝草薙〟がどれだけこの国に尽くしたと思っている!? 〝壬申の戦〟のあとも多くの戦で刃を振るい、多くの血を我らは流してきたんだぞ! 国と国の民のために!!」
「確かに白兵戦が戦の主流だった時代には、それなりに活躍していたのでしょうが」
「20世紀に入って飛び道具が主流になってからは、さっぱりやったんどすえ」
「黙れ
自分が白熱するほど白けていく少女たちを弥麻杜はにらみ、
「そう言うお前らは何をしていた〝九十九〟! 〝七里塚〟!! これまでの
「それを言われると弱いですね……特に〝
「〝
渋い顔になる砂織と笑みをほころばせる葛葉。対して弥麻杜はさらに激昂し、
「働いて
「〝暗黒節〟についても、あなたたちの自業自得だったのではありませんか? ともあれ、そういった
「地球政府が悪いのだ!!」
あきれて溜め息する砂織に火を吐くように
「数千年にも渡り国と民に尽くしてきた我らを、奴らは
弥麻杜の頭に世界政府の議員との会話が浮かぶ……が、
「国が
弥麻杜が呆気に取られた……直後、
「
紫の
「〝
「神聖な〝儀式〟の場に踏み入りし我らにお怒りはご
〝八鱗刀〟と呼ばれた男たちは弥麻杜を囲んで片ヒザをつき、深々と頭を下げた。
その必死さに〝里〟の状況を察した弥麻杜が少女たちをにらむと、男たちも少女たちをにらみつつ立ち上がり、
「貴様らが
「初めまして。九十九砂織です」
「〝九十九〟だと!? 〝無道三家〟のか!?」
軽く
「同じ〝無道三家〟でありながら我らの道に立ち
刀を抜いて殺気を立ち昇らせる男たち。対して葛葉は首をかしげ、
「〝八鱗刀〟ゆうとったどすが、
「……なんだと?」
男たちは眉をひそめるが、はっと何かに気づいて、
「よもや先代の〝八鱗刀〟を……昨年の暮れに東の本家に攻め入った
「ああ……あれは、あんさんらの身内やったんどすえ?」
うなずいた葛葉がはんなり笑み、
「知っとるも何も、うちが〝掃除〟したんどすえ~♪」
男たちの殺気が
「ゆうとくけど、殺してはおらんのどす」
男たちの顔に希望が浮かぶ……が、砂織が葛葉を見て、
「確か、気を失わせてクララに引き渡したんですよね」
「そうどすえ~。『暗黒剣士〝
「ああ、そうなると……」
「確かに、死んではいないのかも知れませんが……あなたたちの〝家族〟では、なくなっているでしょうね……」
「そもそも〝人間〟やなくなっとるんどすえ~♪」
「……外道が!!」
男たちが刀を振りあげ少女たちに斬りかかる……しかし、
「うちは、お
歩み出た葛葉が舞うように多数の斬撃をいなしつつ、避けた刀身に筆で線を書いていく──刹那、
「ぐはあっ!?」
男たちが倒れ、葛葉ははんなり笑んで地に
「やっぱり先代には及ばんどすな~。あん人らは〝
倒れた男たちの刀に書かれた線が、刀をにぎる手まで伸びていた。
「ま、本来の武器の無い名ばかりの精鋭やし、しゃあないどすな~♪」
「お…おのれぇ…………」
くやしそうに歯噛みして、気を失う男たち。
その様子に葛葉は嘆息し、
「ほんまに
どこか
「〝起源〟の時代に比べて、見る影も無い落ちぶれようなんどすえ。ま、衰えたんは〝
「……さあ? 私には何とも」
砂織が硬い顔で肩をすくめる。と、葛葉ははんなりした笑みを戻し、
「ま、〝九十九〟の系統は特別どすからな~♪ ほんで……」
邪気の無い笑みを弥麻杜へ向け、
「特別やなかった〝草薙〟には、ご退場願うんどすえ~♪」
「ふざけるな! お前らの好きにはさせんぞ餓鬼ども!!」
〝草薙〟の当主が広い鍾乳洞に怒声を響かせる……と、鍾乳洞の天井や地面に生える
「そう言えば石を操るのが彼の異能でしたね」
「
言いながら砂織は編み針を、葛葉は筆を取り出す。そして襲いくる鍾乳管や石筍を、編み針から伸びた黒い糸で切断し、筆から発した黒い炎で焼き払う……が、
「この程度で済むと思うな!!」
さらなる弥麻杜の怒声が響くと
「目にもの見せてくれるわ!!」
8匹の巨大なヘビは1つに絡まり合いつつ溶け合っていき……1つの体から8つの首を生やす、見上げるように巨大な石の大蛇となった。
「〝
「〝草薙の剣〟にまつわる術式どすな」
「噛み砕いてやるぞ餓鬼ども!!」
失笑する少女たちに巨大な蛇の首が牙をむいて迫る!!
「〝女王〟
だが、砂織は平然として編み針の先から多数の糸を伸ばす。と、糸は
「なんだと!?」
目をむく弥麻杜の前で、巨大な石の八岐大蛇が〝網〟の目に切り刻まれ、無数の
「さすが〝女王〟の弟子にして〝
「〝十試属〟は〝無道三家〟と呼ばれるまでに減ってしまいましたけどね」
笑みをほころばせる葛葉に砂織が溜め息した……一方、
「……〝十試属〟だと? 何の話だ……〝無道三家〟と、何の関係が……?」
八岐大蛇を倒されショックの残る弥麻杜がかすれる声をもらす。と、少女たちは眉をひそめ、
「我々の〝起源〟を失伝したのですか?」
「
葛葉が呆れたように弥麻杜を見て、
「ま、今日で〝無道三家〟も〝無道二家〟になるんやし、知る必要も無いんどすえ」
「ふ…ふざけるな! 力を失おうと我らは〝里〟を守ろうと……生き延びようと努めてきた! その努力を、我らの生きる権利を踏みにじるのか!?」
もはや駄々っ子のごとき弥麻杜の叫びに、葛葉は深く嘆息して、
「確かに〝里〟を盛り返さんと知恵をしぼっとったようどすな。けど、どれも少しばかり滅亡を先に延ばすだけの悪あがきやったんどすえ」
それは〝クズ参謀〟ではなく、
「闘技場にしても、自分らより遥かに強い
さながら名君に仕える〝賢者〟のごとく、
「自分を超える
あるいは暴君に
「そないな志の低い
もしくは大魔王に
「〝死〟は、生きる
はたまた魔神を奉じる〝狂信者〟のごとく、
「滅びるだけやった〝里〟が最後にごっつい御奉公をしてくれはったから、その
そして……恋する〝乙女〟のように、
「そう……全ては若様のためなんどすえ~♪」
ペロリと髪留めを
「…………………………………」
片や弥麻杜は、
「ほんなら、若様のために……」
笑みを深める葛葉をかこんで、地面から7本の刀身が突き出し、
「〝儀式〟を始めるんどすえ~♪」
「そ…その刀は……!?」
地面から伸びる紫に輝く7本の刀身を、弥麻杜が
「〝八鱗刀〟の本来の武器どすえ~、1本はレンタル中どすけどな~♪」
葛葉がさらに笑みを深め、
「年末の騒動で先代の〝八鱗刀〟を〝掃除〟したあと、使い手は他に渡したんどすが
「くっ……その刀の有無が、我々には〝儀式〟は出来ないと言った理由か……!」
「それだけでは、ありません」
砂織も冷ややかに弥麻杜を見て、
「何のために私がここにいると思っているのですか? 〝起源〟だけでなく、自身の家の歴史すら失伝したのですか?」
「〝瀬織津〟の復活には〝無道三家〟全ての……正確には、〝十試属〟のうちの3つの系統の協力が必要なんどすえ」
息をのむ弥麻杜に、少女たちは冷淡な視線を突き刺しつつ、
「それが〝壬申の戦〟以降、〝瀬織津〟の
「〝壬申の戦〟の
「その屈辱ゆえ当時の〝草薙〟は、朝廷の歴史書どころか自身の家の記録すら
「……ふざけるな
屈辱的な視線と声に、弥麻杜が怒りに
「
「ちょい待ち、今度はうちの番なんどす」
編み針を構えた砂織を葛葉が止め、1本の短剣を取り出し……
「〝草薙〟に無い〝起源〟の力、見るがええんどすえ~♪」
短剣がまばゆく輝くと、巨大な石の八岐大蛇は動きを止め
「そ…その短剣は……」
「〝八鱗刀〟の刀と同じ、年末の騒動の戦利品どす。〝純人教団〟が
ショックか異能の使いすぎか青ざめる弥麻杜に、得意満面の葛葉が3種類の古代文字が刻まれた短剣を見せびらかし、
「これが手に入ったんも、この〝里〟への進攻を決めた理由の1つやったんどす……いんや──」
得意げな顔を
「これが手に入ったんも含めて、全ては若様に授けられし
輝く短剣を地面に生えた紫の刀身へ向ける。と、呼応するように刀身が、さらに巨大な地底湖も神秘的に輝き出し、広大な鍾乳洞に満ちる神聖な空気が濃度を増していく。
「いい
「本当に、〝儀式〟を始める気か……!?」
浮世離れした光景に弥麻杜は圧倒されつつ、
「ならばやはり、お前だったのか七里塚……星の核から力を得る術式を奪ったのは……〝儀式〟に必要な呪力を
「奪ったのは確かどすが、その術式を使うつもりは無いんどすえ。これ以上力を抜き出すんは、地球に優しくないどすからな。せやから……」
神聖な空気の中で神秘的な光に照らされつつ、神々しい笑みを少女は浮かべ、
「まずは、この〝里〟におる全ての人間と
神々しい笑みが悪魔の笑みに見えて弥麻杜が絶句した。
「小さな火の
少女は右手に握る短剣を輝かせつつ、
「加えて、さっき南米で吹っ飛んだ4つの州の
左手に黒いビリヤードの球を出し、
「この玉に
神々しい笑みを一層輝かせ、
「この生命力を集めるために、南米では若様に〝異元領域〟やのうて普通の世界で戦ってもらったんどす。
恋する乙女の喜びを全身からあふれさせた………
「……正気か? 〝瀬織津〟の復活のためとは言え、そこまでの人間を踏みにじるのか……!?」
一方、弥麻杜は恐怖に震えだす……が、
「あんさんかて〝里〟の民を
「……!?」
図星されたようにたじろぐ弥麻杜……しかし、
「お…お前たちが邪魔しなければ、そんなことをする必要も無いのだ!! ……そうだ、まだ間に合うぞ……八重垣の娘を使えば〝里〟の者は……」
「却下どすえ~♪」
葛葉は輝く地底湖を見やりつつ、
「この湖は、
一点の曇りも無い笑顔で、
「それは若様の御意思にそぐわんのどすえ~♪」
「……たった1人の娘のために、この〝里〟の民と、4つもの州の人間を踏みにじるのが、東の本家の次期当主の意思だというのか……?」
「優先順位の問題どすな。若様におかれては何百万、何千万の赤の他人より、1人の幼馴染の方が優先順位が上なだけなんどすえ~♪」
曇りの無い笑みが
「ついでに戦闘力でも、1人の幼馴染の方が何百万、何千万のフラッターを合わせたよりも上どすからな~。そっちの方が若様のためになるんどすえ~♪」
弥麻杜が滝のように冷や汗を流す。
弥麻杜自身、〝草薙の里〟の当主として非情な決断を下したことはあった。
だが、ここまでの非道など……
「悪魔め……!!」
「よく言われるんどすえ~♪」
毛ほどの罪悪感もない少女に吐き気をこみ上げる弥麻杜……だったが、ふと疑問が浮かぶ。
なぜ、こいつはここまで〝儀式〟について詳しいのか……
(〝儀式〟の内容は、〝里〟でも秘中の秘だというのに……)
〝疑問〟は〝不安〟となり……
(〝儀式〟に使う場所や祭具も、〝里〟にすら伝わっていない物があったというのに……しかもその祭具である〝八鱗刀〟の刀を、それもこの時期に合わせたように手に入れるなど、あまりに都合が良すぎないか……)
〝不安〟は
(昨年末、〝純人教団〟の財団への侵攻に〝八鱗刀〟の派遣を進言したのは……そもそも〝純人教団〟は
〝推測〟は信じていた〝常識〟を崩し……
(それに、ここに来る途中に出くわした
〝常識〟に
「気づいたようどすな」
少女の声に思考をさえぎられ、弥麻杜は苦渋の声をしぼり出す。
「〝里〟の
「〝協力者〟どすえ、うちらにとっては♪」
邪気の無い少女の笑みに弥麻杜は顔をしかめつつ、
「一体、いつから……いや、なぜ……!?」
「もちろん愛する人のためどすえ~♪」
葛葉は
「愛する者のため望まぬ相手に
弥麻杜が大きく目をむいた。
「そうして
弥麻杜が渋面する一方、葛葉は感きわまったように、
「うちらも愛する人の一番になれないと知りながら、それでも愛する人の
泣き笑いのようになる葛葉と口元を引き結ぶ砂織。
「……ま、1対1で勝てへんなら、
一転、声をはずませる葛葉と
「今回の〝協力者〟も逆境をバネにしはって、いつか想いが叶うと信じて長い苦難に耐えとったんどすな。その儚くも健気な
弥麻杜と葛葉が同時に言う。
「
「
一瞬の沈黙。
「……なんだと?」
「……おんや?」
眉をひそめる弥麻杜と小首をかしげる葛葉……だったが、
「ああ、沙久夜はんの妹どすな。確かに最初は姉妹を競わせて、優れとる方を今回の作戦に
あきれたように溜め息しつつ、
「妹の方はちっぽけな
どこか自己嫌悪するように、
「自分のためにしか動かん
「うちのクラスの
「……待て!!」
呆然としていた弥麻杜が我に返り、
「どういうことだ!? 沙久夜だと!? あいつはずっと〝石化の
「〝
「……違う! ワシはやっていない!!」
「分かっとるんどすえ~♪」
血相を変える弥麻杜に葛葉は笑いを
「〝病〟は〝
「……湖乃羽では、ないのか……だが……」
弥麻杜は唖然としつつ、
「望まぬ相手に、
「沙久夜はんが石になっとる間に、勝手に
「己が身を犠牲に捧げたと……」
「10年以上も自分を石にしとったなんて、
「……馬鹿な!! 何のためにそんなことを!?」
「せやから愛する人のためどすえ~♪」
「沙久夜の愛する者だと………まさか!?」
困惑した弥麻杜が
「
「長らく石になっとったのは、
嬉しそうにうなずきつつ、
「たった1人の
「〝欲〟……だと……?」
呆気に取られる弥麻杜に、葛葉は朗々と歌うように、
「〝欲〟こそは人を動かす一番の原動力どすからな。そして若様こそは、それを最も理解し体現する偉大な御方なんどすえ~♪」
「ふざけるな!! たった1人の幼馴染のために何百万、何千万の人間を犠牲に……いや、
「幼馴染のためやから、その程度で済むんどす。
喜色満面の少女に弥麻杜は蒼白となり……
「なぜだ……なぜ、そんな男に従うのだ!?」
「そんな男やから従うんどすえ。若様の〝欲〟に比べたら、うちらや沙久夜はんの〝欲〟なんぞ
笑んだまま瞳だけを鋭くし、
「
再び瞳も笑ませ、
「若様が大技を使われる時の発動詞どすえ。『この世の全ては自分のもの』……この
恋する乙女の笑みも満開に、
「若様こそは、うちらと世界の上に君臨して、うちらと世界を支配する、世界の誰よりも『残酷』で『欲ばり』で『人でなし』な〝大魔王〟なんどすえ~♪」
弥麻杜が異世界の言葉を聞いたように頭を真っ白にした。
「とは言え、〝欲〟も使いこなしてこその
軽く溜め息して、
「『野心とは失敗した者の最後の逃げ場である』なんて言葉もあるどすからな。追い詰められた
笑んだまま〝大魔王〟と同じ冷徹な瞳で、
「沙久夜はんの妹が、
「……そ…それも、沙久夜や……お前たちが、仕組んだんじゃないのか……!?」
「もちろんどすえ~♪」
これっぽっちも悪びれず、
「〝里〟における工作は、沙久夜はんの妹が沙久夜はんに仕向けられながら、仕向けられた自覚なしにやったんどす。あの沙久夜はんの手腕は、うちとの相性ピッタリどすからな。うちの補佐として、これからきばってもらうんどすえ~♪」
満足そうにうなずきつつ、
「その相性を口の悪い
「自分の目的は見せぬまま、相手の目的や希望に
「……っ!?」
弥麻杜が絶望に沈みつつ理解した。
全ては最初から仕組まれていたのだと。
〝
〝里〟のためにとしたことも、全て操られた結果なのだと。
その先に希望など……救いなど、最初から無かったのだと………
「悪魔め……!!」
「せやから、よく言われるんどすえ~♪」
「お、若様が最後の準備をしてくれはったんどすな」
葛葉の周りに生える7本の刀身が、
「8本目の刀が〝瀬織津の
巨大な地底湖がさらに神秘的に輝き出し、広大な鍾乳洞に満ちる神聖な空気も一層濃度を増していく……と、
「ジョクタウ、チロル、出番どすえ」
葛葉の声と共に鍾乳洞の地面に2つの波紋が生じ、黒髪を肩まで伸ばすメガネの少年と、乳白色の髪をヒザに届かせる表情の
「解析した術式は使えるどすな、ジョクタウ」
「たっぷり
メガネの少年が
「術式の拡大は頼むんどすえ、チロル」
【きりきりまい で がんばる】
乳白色の髪の少女が手帳サイズの液晶タブレットに文字を表示させた。
「ほんなら……
葛葉に目を向けられた砂織が、メガネのレンズを鏡のように光らせつつ後頭部で
「〝十試属〟の3つの系統……その力を合わせる時どすえ~♪」
葛葉が神々しい笑みを深め、筆を足元の
「オマケどすえ~♪」
黒いビリヤードの球を放り込むと、土器は燃えさかる黒炎を噴き出した。
そして黒いツブと黒い炎、それに7本の刀身の光がそれぞれ
「大いなる〝起源〟の〝遺産〟よ……〝
葛葉が3種類の古代文字が刻まれた短剣を、神々しく輝かせつつ地底湖へ向け、
「〝壬申の戦〟以来、1900年ぶりの〝瀬織津〟の
ことさら神々しく笑み、
「……〝我、カムイなり〟……!」
刹那、3本の奔流を受けた地底湖が閃光を発し、広大な鍾乳洞を白く染めた………
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